三話
刻は3日前に遡る。
☆☆☆辺境伯領城下町アサカ
「な、何だ。ここは、平民のくせに、商会員が着るような服に身を包んでいる。商人か?貴族並の服をきてやがる奴までいる」
「ジェイド様、やっぱり、富をため込んでいますね。しかし、領主館は粗末です。意味が分かりません」
「どうせ。富はありませんアピールだろう」
宰相の息子、ジェイドは、騎士団に先立ち辺境伯領に入ったが、異様さに戸惑いを隠せない。
関所は難なく通過出来たが、違和感が半端ない。
偵察も兼ねているので、まだ、王家からの使者だとは明かしていない。
街の関所は通行料を取らなかった。
馬は、見張りを置き。郊外で待機させた。
関所では、
ただ、護衛騎士の剣について、質問されただけだ。
騎士であると証明されると、
「正当業務として、許可を出します」
生意気な。平民のくせに、
「いいのか?皆、剣の達人だ。暴れたら?」
意地悪を言ってみた。
「はあ、たまに、こんな馬鹿がいる・・・まあ、したら、袋だたきに遭います。ここは、魔獣狩りの街でもあるんですよ」
「なっ」
ここで騒ぎになっては、偵察が出来ない。
黙って、通過した。
「あの山が、異世界フジだそうです」
「何だ。その名は」
山の頂上に、雪が冠のようにかかっている。
山の麓に、沼があり。そこから、魔獣が現れると調査済みだ。
辺境伯館の城下町は、人口数千人と言うところか?
しかし、
栄えている。冒険者ギルドや商業ギルドまである。
各地の商人が訪れているな。
やっぱり。魔獣や資源を開発させて、富を蓄えている噂は本当だったのだな。
「おい、あの高い煙突がある建物が固まっている場所は何だ!城壁で囲まれている」
普通は、領主館の方を城壁で囲うのがセオリーだろ?
大型馬車が頻繁に出入りしている。
「魔獣の死体!」
荷台から、大型の一角グリスリーが見えた。
魔獣の死体から、素材を取っているのか?
門番は言う。
「はい、あれは、工場というものです。高い煙突が製鉄所で、日用品や薬品を作ったりする工房など、様々です。あの地域は、デジマ地区と言って、許可を受けたものしか入れませんよ」
まあいい。無条件降伏をさせたら、ゆっくり尋問をしよう。
お、何か良い匂いだ。串焼き屋か?
護衛騎士の分も含めて買おう。
「6本くれ」
「はい、お釣り。中銅貨5枚に、小銅貨2枚ね」
「待て、待て、親父、どうやって、計算した。早すぎる。算木で、示してもらおう」
「え、ヤキトリ、一本小銅貨8枚で、かける6本だから、48枚、お客さんが、大銅貨一枚だしたから、大銅貨=小銅貨100枚だから、お釣りは、小銅貨52枚の計算になるね。だから、小銅貨10枚=中銅貨1枚だから、こうなる」
「待て、どうでも良い」
「ジェイド様」
護衛騎士を止めた。
こんな串焼き屋が瞬時に計算するなんて、おかしい。
小さなお金だ。
卑しい商人はぼったくると聞く。その類いだろう。
「はあ、私の祖父ぐらいから、ここに住む子供は、テラコヤでの教育が必須でさ。行かなかったら衛兵隊が来る」
親父の言っていることが分からない。
私はマイケルの騎士団よりも先回りをして、武装解除、無血開城させる。
文官の力を見せつけるのだ。
それにしても、建物がおかしい。
辺境伯館は、粗末な土塀に囲まれている。
土塀は六角形だ。何の意味があるのだ。
畑もある。
見たことのない作物だ。灌漑はしているようだけど、ここは不毛の辺境ではなかったのか?
「何だ。この、鉄の線は!」
畑は、至る所、鉄のトゲトゲの線で囲まれていた。
近くの農民に聞いた。
「これは、鉄条網というものでさ、魔獣が入らなくするものです。モンスターブルは、これで止まるから、面白い」
「フン、無駄なことを、親父、知っているか?魔獣は滅多に人を襲わないと都の聖女様がおおせだ」
「はあ、それは、現場を知らない馬鹿がよくそう言う。
学説の一部を、自分の都合のよいように解釈している。
基本、魔獣は自分からは襲わないが、畑を荒らす。それは、畑を守る人を襲うと同じだね。他国じゃ、人の生活圏に現れたら、討伐が常識だね。
それに、最新の農業ギルドの会報を見たかね。結構、人を襲うだ。人の味を覚えた魔獣は手がつけられないって」
「何を!下民が!」
「おう、やるってか?皆、集まれ!」
「「「オオオオーーー」」」
周りを囲まれた。クワやフォークのような農具を持っている。
護衛騎士は剣を抜き。私を中心にして防御円陣を組む。
一人斬れば、場はおさまるだろう。
しかし、
騒ぎを聞きつけ、衛兵隊がやってきた。
「待て、何の騒ぎだあ?」
「皆、我らの服を見て、分からないか?貴族だ。国王陛下の使者で参った!」
農民と兼業らしい。20歳半ばの農民で、木の杖を持っている。
これで、衛兵隊が務まるのかね。
「私たちは、陛下の使者だ。これを見ろ」
他の領地なら、私たちの服装を見て、高貴な者と察するが、ここには、その常識がない田舎者ばかりだ。
立派な羊皮紙の任命書を見せた。押印されている王家の紋章を見せて、ビビらせてやる。奴らは平伏をするだろうよ。
「私は、ヨビジ士長の、フリッパーです。え、王都からの使者、王家の紋章に、ジェイド・ジョーンズ殿を、・・・使者に任命する。ヘンリー・ロンバル・・・あ、あの王太子・・殿下、ジョーンズ様?ああ、ジョーンズ姓は、元は開拓団の庄屋階級ってところかい。何故、王太子殿下の任命だあ?
通常は、陛下の任命ではないですか?王太子殿下に、行政権の委譲はされたのですか?摂政に任命されたと聞いていないだ?!」
「な、何だと!貴様、文字を読めるのか?平民のくせに!」
「無礼であるぞ!」
「いんや、不明瞭なところがあったから、聞いただけだ」
「それが、無礼だ!」
「何か、馬鹿にされた感じがすごいだ、まあ、ええだ。一応、館まで、ご案内しますだ・・・でないと、危険だ」
「!!!」
いつのまにか、さらに人が大勢集まっている。皆、いきり立っている。
「・・・アキ様を」
「あの天使のような方を・・・許せない」
「皆、これは、これだ。決めるのはナツ様だ。ここで、惨殺したらいけねえだ。さあ、あんたらも来るだ。無用なもめ事はごめんだ」
こうして、私は、辺境伯の館に案内された。
来る途中に、『本当にええだか?会うのはおすすめしないだ』と意味深に聞きやがる。平民のくせに生意気だ。
私が代官になったら、こいつらから、文字を取り上げてやる。
だいたい平民に教育を施したら、一揆の原因になるのに、
まあ、いい。
作戦は、移動中にずっと考えておいた。
今日は、辺境伯館の当主の部屋で寝よう。
「うわ。何だ。あの建物は、二本の木の柱に、上の方に横木が二本通してある。門か?奥に、お堂か?これが、邪教の神殿か?」
「軍神タダジンジャだあ。貴方様も滅多なことを言ったらだめだ。オラの父の代でここに住みつき。天国のような生活を満喫しているだ。もめ事はごめんでさ」
「フン、それも、あとわずかだ。ここは焼け野原になる。正義の鉄槌が下るぞ。逃げた方がいい」
「あの一族が、戦に負ける姿は想像できないだ。さあ、オラはここまでだ。警衛隊様、王都からの御使者が到着しただ!」
脅しがきかない。まあいい。所詮は、少し文字を知っている程度の、階級を知らない蒙昧な平民だ。
接遇の間に案内された。膝をついて礼をする少女が出迎えていた。
これが、ナツ?辺境で魔獣狩りばかりをしている。リリアン様とは対極な存在、悪魔だ。
さすがに、王の偉光は理解しているか。
しかし、服は騎士の野戦服、鎧の下に着用するような服を着ている。風景と溶け込み体の線がぼやける。
ドレスで出迎えろよ。まあ、これから、教育すればいいか。
忌まわしい黒髪、顔は下げているから見えないが、蛮族にしては顔は整っていると聞く。
私たちは上座に立ち。
王命を読み上げる前に、まずは、そちらの非をあげつらう。
「あの神殿、邪教の疑いがあると王都でささやかれていますが、本当のようだ。だから、この地の平民は、貴族に対する礼がなっていない。王太子殿下の元婚約者アキ殿が魔女になったのはしかるべき。どうです。王都から神官を派遣してもらっては、ゴスという立派な神官を知っています」
私が、この地の代官になる。神官は、ゴスだ。
教会税をたっぷり納めさせて、やがて、ゴスをこの国の神長官になってもうう。ゴスは父親からは、イマイチ評価が低いと聞く。これで、挽回すれば、出世できるだろう。
「・・・・・・・」
黙っている。これはいけるか?
しかし、ナツの口角はわずかに、上がっていた。
ジェイドは農民たちの態度から既にアキ処刑の情報が、知られていると、読み取ることが出来なかった。もう少し、注意深く農民たちの言動に注意を払えば、分かったかもしれない。
アキ処刑の報は、政変として既に、辺境伯領に届いていた。
王都から、緊急伝書鳩連絡網によって伝わっていたのだ。
彼らは情報に重きを置く。既に、先祖の無線機は稼働しなくなったが、この世界の別のものに置き換えられていた。