十話 王子の末路
王都会戦は、その後、8回ほど続いたとされる。
しかし、実態は、王都近郊の村に出没する野盗化した傭兵たちとの戦いだ。
「おい、これが、陛下の免状だ。お前たちの村の食料は、俺たちに税金として払え。でなければ、強制的に持ってくぞ」
村の長老は、驚いたように、叫ぶ。
「え、先ほど、ガニメデ様のお使いと云う方たちが、税金を持って行きましたが、ほら、あそこです」
長老が手で差し示した先には、リリー親子とその仲間数十人と、フリッパー予備時三等陸曹がいた。
荷車に積み込んでいる最中だ。
「ヒャッハー、見つかった!ズラかるぞ!」
ガニメデは、カモにするのは好きだか、されるのは嫌う。
「捕まえろ!」
追いかけっこが始まった。
「奴ら、早いぞ!」
「何故だ!」
林の中に入り。ようやく、彼らは、荷を諦め。荷車を馬から離し、蜘蛛の子を散らすように離散した。
「なんでぇ、中は空じゃないか・・」
バン!バン!バン!
草むらから、兵士が立ち上がり。三方向から、射撃をする。
いわゆる釣り野伏せである。
彼らは最強の武器を持っているが、寡兵でもある。
自然と戦法は、敵を誘い出す。釣り野伏になった。
「こいつが、ガニメデか。もう、大きな傭兵団は残っていないな」
「約定通り。野盗の所持品は、リリー親子たちで分けられよ」
「ヒャッハー、小隊長様、有り難うございます!」
彼らは、日当の他に、これが目的で、危険な任務に参加する。
「あの、有り難うございます。隊長様、是非、今後の事を辺境伯様にご相談したいのですが」
村の長老はナツに謁見を申し出る。
一方、ナツは、あの単騎突撃以来、幕僚たちにより、砦に缶詰にされ、書類仕事をしていた。
「ナツ様、諸候から書簡です。王都の各商工ギルドから、謁見の申し出があります」
「ヒャッハー、また?」
「またです。忙しかったら優先順位をつけて、作業をして下さいね」
情報を担当する2科長がついて、つきっきりだ。
王国は大きく変わろうとしていた。
☆☆☆王宮
国王、リリアンに意見をする者はいない。
王都も食料が入ってこなくなり。
治安の悪化をたどっているが、誰も奏上をしない。
彼らに都合の悪いことが耳に入れば、殺されるからだ。
「良い方法を考えた。王都市民、男子は全員徴用、いや、女も含めて集めれば、数万の軍隊が出来る。
砦に突撃させる。さすれば、いかに、やつらの魔道具が優れていても、魔力切れを起こすだろ。その後を、ワシが自ら、騎士団を率いて、ナツを捕らえてやる」
「さすが、陛下、良い案です」
「まあ、陛下、これで、王国100年は安泰ですわ」
「マイケルの騎士団は、遅いのう。王都に来たら、まあ、功績は一等減らすべきじゃ」
「そこの文官、命令書を作って、実行しろ」
「・・・御意」
この命令は実行されることはなかった。
この文官は、そのまま王宮を去り。
上杉商会に向かう。
「・・・紹介状がなくても、奉公先を紹介してくれるって聞いたのですが」
「おや、文官さんかい?一応、試験を受けてくれ、合格したら、紹介してやる。しばらくは、最低給で、帳簿付けだけど、いいかい?」
「ええ、それで、お願いします」
タモン・ウエスギは、既に、戦後の事を見越して、有能な人材を集めていた。
一方、リリアンは、
「ちょっと、まだ、お金があるじゃない!」
「これは、孤児院の予算でございます」
「私は聖女よ!私が呼びかければ皆は寄付するわよ。大丈夫よ!」
使ってはいけない金に手を出していた。
しかし、一ヵ月がたち。マイケルが王宮に現れた。
ナツは処刑されると踏んで、わざと、余裕がないときに、解放したのだ。
マイケルの報告に、「2000の騎士団が、100名に全滅したじゃと?」
王は唖然として、
そのままマイケルを縛り首にした。
「陛下!」
「旦那様!」
「大丈夫じゃ、まだ、こっちには切り札がある。ヘンリーとリリアンを捕らえて来い」
「御意」
この命令は実行された。
王は、最終の決断を下した。
わずかに残った騎士に命じて、ヘンリーとリリアンを捕縛。
辺境伯との和平に動いた。
しかも、ヘンリーとリリアンを王城前広場でさらして、
「すべて、こやつらのせいじゃ!アキ殿を殺害したのじゃ」
・・・違う。父上は、昔から、僕に選択肢を与えて、あたかも、自分で考えたように思わせていた。
学校だって、
『何だ。サボりたければサボればいい。虫みたいに集団で動くようになるぞ?ヘンリーは、虫と人族、どっちがいい?』
『うん。人族がいい』
・・・・・
アキの誅殺だって、
『アキは・・ワシを差し置いて、外国の王たちに書簡を送っている。お前は、どうしたい?王家の威厳を保つか。この先、ずっと、アキの下僕となって暮らすか?リリアンを王妃にするか。・・・・それとも、怖いか?』
『怖くないさ!』
僕は、父上のゴーレムだった。
☆☆☆辺境伯軍砦
縛られたヘンリーとリリアンをつれて、使者は
いかにも、「恩賞を!」という顔をしてナツの前に立った。
「これが、アキ殿を殺害した両名でございます。勘違いがございましたが、これからは、王家、イセ族の方々、仲良く王国をもり立てましょうぞ。以下の内容で、和平をお願いいたします。
①ナツ殿を陛下の養子にします・・・婚約者は、王族の中から選べますぞ」
ナツは、興味なさそうに、
「それ、もう、馬鹿王子以外、たたき出して」
「「馬鹿王子以外、たたき出す。了解!」」
「えっ、何故?!」
・・・・
「ウグ、アキの麦、見つからないんだ。ウグ、いくら、父上に言っても、誰も聞いてくれない」
「そう。お前の事は、曾お婆さまに決めてもらう」
「御大、参りました!」
エミリがメイドたちに支えられてきた。
白髪だが、青い目に、薄い肌。明らかに、この世界の人族に、ヘンリーですら、思い出した。
「もしかして、大昔、辺境伯に嫁いだ人って、まだ、生きていたの?・・・」
「ああ、情けなや。兄上と同じ顔をして、ここまで、愚かだったとは、ゴホン、ゴホン」
「曾お婆さま!」
「・・・ここは、魔獣があふれ、人の住めない地だった。それを、旦那様とその仲間たちが、残った武器を使い駆除して、住めるようにしてくれた。そして、兄は、旦那様に感謝の意味を込めて・・」
☆回想
『ナオヤ、この地の王様になれよ。仲間たちを貴族にして国を治めてくれ。俺は手足となって働くよ。その方が、性にあっているぜ』
『ロンバル、少数民族の多数派支配は長く続かないよ。もっと、研究が進んで、日本みたいな国を再現してから、考えるよ』
『分かった。それは、いつだ?』
『皆が、この地を真似たいと思うようになった時だな。ずっと先、曾孫の代かな』
『その時は、曾孫を結婚させて、共に王国を治めさせようぜ!』
『ああ、それまでは、辺境伯の扱いでいいかな』
『もちろんだぜ』
・・・・・・
「今の王になってから、口伝が途絶えたよううじゃ。いや、口伝が途絶えても、分かろうものに、イセ族は、髪の色、目の色、肌が濃い薄いで判断しない。全て、中身じゃ。信用に足るかどうかで見る。私は、王国人の姿形じゃが誰もそのことで、差別はしない。何故、学校に行かなかったのだ!」
「グスン、グスン、ウウ」
ヘンリーは、叱ってくれるエミリを有り難く思い涙すら出てきたが、
「ゴホ、ゴホ、ゴホホホッ!」
「曾お婆さま!」
「御大!」
エミリは、裁断を下す前に、心不全を起こし亡くなった。
享年80歳、この世界では高齢だ。
それだけ、大事にされてきた。
ヘンリーは、長いこと放置されていたが、
やがて、
「お前は、生きろ。予言の書『馬鹿王子は生きて恥をさらしてナンボ』だ!」
「ウグ、アキの麦、必ず見つけるから、その時は、また会ってくれるか?」
ナツは
「・・・・・・」
無言だった。
珍しく煽らなかった。
予言の書通りに、放逐したのか。それとも、予言の書の文言に自分の考えを合わせたのかは、定かではない。
「何じゃと、奴らは、和平を拒否?」
殺されるつもりで、差し出したのだ。
それが帰ってきた。
今更、親子関係の修復は不可能。
王宮で、更に混乱が生じた。
・・・こんな僕でも利用しようと、集まって来る奴らがいる。
いや、忠義なのかどうか判別がつかない。
知識が足りないから、いくら、考えても分からない。
あれから、リリアンは、ルドルフの所にいった。
「実は、リリアン、ヘンリーに脅されて仕方なく一緒にいたの。ルドルフ様、あたし、ルドルフ様の事が好きだったの!」
「ええい。黙れ!口を閉じろ!」
「あたしは、聖女よ!帝国に連れて行って!」
「去れ。去らないと女でも斬るぞ!」
「ヒィ」
全く相手にされていない。
他の国の王子に言い寄っているらしい・・・
「王子!王宮を占領しましょうぜ。まだ、財産は残っている・・」
「もう、いい。一人にしてくれ!」
僕は、王都を歩いた。喧噪が続く。食料店が狙われ。略奪が起きている。
僕は、アキと一緒に歩いた記憶をたどる。
視察をしたな。
『うわ。やだよ。離れてよ。カラスみたいな髪の色!恥ずかしいよ』
『・・・では、後ろを歩きますね』
それでも、アキは、怒らなかった。
リリアンとデートした時も、怒らなかった。
「グスン、ウウ」
アキとは、よく孤児院に行ったな。
僕は孤児院に入った。建物の扉は閉ざされていた。
いくら、ノックをしても誰も出てこない。
人の気配が感じる。
治安が悪くなって、閉じこもっているのだろう。
昔は、アキと孤児院に視察に来たな。
僕は庭に回った・・・
雑草ばかりだ。
「あれ!麦がある。雑草に混じって、生えている!」
もしかして、これが、グレースが言っていた異世界10号?!
僕は夢中で、麦を抜こうとした。
「ダメ!これはダメ!」
「「「帰れ!」」」
窓から見ていたのだろう。子供たちがワラワラ出てきた。
ホウキを武器のようにして持っている子がいる。
バシ!バシ!
「お姫様が植えた麦!」
シスターが止めに出てきた。
「これ、お前たち、やめなさい!危険よ!」
「あのシスター、この麦、少し分けてもらいたい!」
シスターから、話を聞いた。
「ヒィ、王子・・」
「今はそれいいから、何故、ここに麦があるの?」
「ええ、アキ様が、実験と言っていました。雑草に混じって、育った状態を知りたいそうで・・」
「有り難い!半分、いや、一束分でいいから、種をもらいたい!」
僕は、種籾をもらった。異常に身長が低い麦、これが異世界10号、これで、ナツに会える。アキの顔をしたナツに・・・
「これ、お礼だよ!」
もしものために、取っておいた。金のブローチを渡した。
・・・
「はあ、はあ、これで、王国が救えるかもしれない。そしたら、学び直す。今度は、自分の意思で、勉学をするんだ!
正しい判断を下せる男になるんだ!・・」
バシ!
何だ。いきなり、肩をつかまれた。
「おい、お前、貴族だな。その大事そうに持っている小袋を渡せや」
「違う。これは、金目のものじゃない。大事なものだ!未来につなぐ大事なものだ!・・」
「金目のものか、そうじゃないのか分からないな!」
「大事なものだったら、なおさら、欲しいな」
「いいから、よこせ!」
バシ!ビシ!
・・・
「あれ、麦、それも、脱穀してねえやつだ」
「畜生め」
「おい、死んでるぞ」
「かまうものか!思わせぶりにしていたこいつが悪い!」
男たちは、値千金の種籾を石畳の道にばらまいた。
王太子ヘンリー、19歳、王都で行方不明。
遺体も発見されないから、公式には、行方不明と記載された。
最後まで、お読みいただき有り難うございました。