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九話 異世界10号

「ヒャッハー!」


 辺境伯軍、数百、王国軍5千人と称する

 王都会戦と名付けられた一連の戦いは。

 辺境伯軍のナツ戦闘団長の奇声から始まったと記される。


 ナツは奇声を発しながら、高機動車で、草原を疾駆する。


 その様子に

「基地外だ!」と敵陣からもれ声が出た。


 ナツは

 一通り敵陣を見終わった後、

 去って行った。


 ・・・


「何がしたかったんだよ」

「驚かすな。基地外女」


 しかし、陣地周辺を、高機動車で周りながら、


「ヒャッハー!」


 と、また、やってきた。


 まるで、ハエのように、王国軍の外周につきまとう。


「うっとうしいぜ!」

「早くて、騎馬は追いつけないし、矢も撃てない!」


「対地竜陣形、攻撃発揮位置まで、密集隊形で前進、側面を槍衾で牽制しろ!槍隊の後ろに、魔道士だ。来たら、ファイヤーボールをお見舞いしてやれ!」


「「「ヘイ」」」




 ☆☆☆王国軍


 王国軍は、傭兵を5千人雇うことに成功した。その中に、王都市民もチラホラ混じっている。

 彼らは、新兵、輜重兵として参陣している。

 王太子ヘンリーは、王宮の騎士、300を率いて参陣。名目上の将軍だ。


 実質的な指揮は、傭兵隊長ガニメデがとる。


「王子、俺たちは、前進しますぜ。後ろからゆっくりついてきて下さい」


「うん・・・」


「ゆっくり、前進だ。旗を揚げろ!」


 寄せ集めの傭兵であるが、確かな戦略はある。


 適当に戦うだ。


 このまま密集して前に進み。

 砦の前で、展開。

 大盾兵を、間隔を開いて、並べて、その後ろに、一列で兵を並べる。


 そして、隙間から、投石や、矢を射る。


 それで、相手が崩れれば良し。突撃、占領

 でなければ、ダラダラと戦う。


 あの馬なし車対策は、外周に、槍兵を配置して、そのすぐ後ろに、魔道士を並べて、槍に躊躇したら、ファイヤーボールだ。



「2,3日戦えば、格好はつく。そしたら、村に行くべ」

「いや、今夜から、ビア、エールを提供させましょうぜ」


 もう、傭兵団の経理担当は、村々を回って、王の免状を見せつけて、略奪免除税を納めるように通達してある。


 どうせ。払えない。冬の備蓄食料を奪って、それから、娘をと、傭兵隊長が思考しているとき。


 ボア!


「隊長、後ろが火事です!飯炊き場付近!」

「何だって?!」


「ビヤ樽のようなものが、あっ、投石機です。奴ら、投石機を砦内に」


「何故、あそこまで届く!」

「退路を断つ作戦?!」


 焼夷弾には、ガソリンをゲル化したものが仕込まれている。ゼリー状になったガソリンが、草にこびりつき。

 容易には消えない。


 後方では、「消せ!」「水!」と声が出るが、


 王都方向から、荷馬車でやってくる者がいた。荷馬車には、大きな木の箱が載せてある。

 水槽のようだ。

 親子で、水を売りに来ているように見えた。

 予備自三等陸曹フリッパーとリリー親子である。


「え~、水はいらんかね!」


「おい、水をまいてくれ、金は、後で払う!」


「「毎度!」」


 荷馬車の後方の蛇口をひねり。水のような物を出した。


「周りの草に、まいて、引火しないようにしまぜ」


「助かる。早くしてくれ」


 しかし、


 ボア!ボオオオオオーーーー


「ヒィ、何で、水をまいたところに、火が勢いづくんだ!」


 水ではなく、灯油であった。


「「ヒャッハー!火事だ!」」

「ヒィ、火事だ!大変だ」



 ・・・


「騒いでいる者たちを黙らせろよ!」


 ガニメデが後方を確認しているとき。



 バン!バン!


 陣地から、銃声が聞こえる。

 すると、前列の歩兵が、櫛の歯が抜けるように、倒れていく。


 歴戦の大盾兵も、重装備の鎧の傭兵も倒れていく。


 そして、


 ドン!ドン!


 大きな爆裂音と共に、土埃が立ち。兵と馬、武具が宙に舞う。


 砦から、小銃による銃撃と、42式75ミリ砲を直接照準により撃っているのだ。


「まだ、展開していない。密集隊形だ!」

「どうして、ここまで、魔法が届く!」

「ヒィ!」



 ☆☆☆砦


「3科長、六角陣地なら、十字砲火で撃てますが、こうもまっすぐに並んで来る敵を対象に考案された陣地ではないと思われます」


「うむ。魔族兵は、散兵で突撃してきたと云う。我らの仮想敵は、飢えた魔族兵だったな」


「あ、ナツ戦闘団長から、信号旗が、「伏兵おらず!」です」

「何だと、本当か?あり得ないことが起きるのが戦場とはよく言ったものだ」


「よし、正門の銃撃を強化し。開門・・・・って、『ワレ、突撃スル!』だと!」


 ナツのやっていたことは、一見、意味がない行動に見えたが、強行偵察である。


 辺境伯軍周りの草原は、こちらが、王都に侵入するために、あえて、草を刈らなかった。


 彼ら、幕僚たちは、何度も、自分らを王国軍に見立てて、自分たちなら、どうやって、砦を攻撃するか。何度も図上演習を重ねた結果、大軍を陽動に使い。伏兵による肉薄攻撃をすると結論が出た。


 予想は良い方に裏切られた。


 ☆


「ヒャッホー」


 ナツは、陣形の外郭に配置された魔道兵から、60メートルの位置に高機動車を走らす。


「ヒョヘー、危険すぎます!」


「お、火の玉が飛んできた!消えた。あいつの言ったとおりだ!」


 ババババババ!


 ナツは車載のガトリング砲を回し。槍兵、魔道兵をなぎ払う。


 そして、穴が出来た所から、侵入し、


「ヒャッホー」


 ダダダダダダ!

 陣形の横から撃つので、被害甚大だ。


 六角陣地から火力の弱い場所を狙ってガトリング砲を撃つ。


 敵兵をなぎ倒していく。


 そして、一通り撃った後、

 後方に、控えている

 王太子の陣地に向かった。



 王太子は、騎士たちの後方から、ナツを確認した。



「あのアキの顔をした化け物に、「じゅう」を、こっちも、「じゅう」を撃って!」


「「「御意」」」


 100丁近くあったアンテークの銃は、それぞれ火を噴いたが、


 マウスリは、『訓練をして』と言っていた。


 銃は長い間、放置されていた。そもそも、引き金が引けない銃も多数あった。

 配備された騎士も、撃ち方も分からない。紙薬莢が分からない。黒色火薬がしけっている等々。

 それでも、

 半数近くの銃が火を噴いたが、黒色火薬だ。白煙がたち。視界が悪くなる。

 しかも、訓練していないので、間合いも分からず。

 味方に当たり。混乱に拍車が掛かった。


 しかも、


「あ、馬鹿王子はーけん!ナミ、あいつ、車で引いて!」


「ヒィ、分かったのです!」


 高機動車が王太子本陣に迫る。


「撃て!」


 バン!バン!


 車両に当たり。カン!カン!と音を立て、ナツにも着弾したように見えた。

かまわず向かって来る。


「あの化け物、魔道具が通じない!」

「あの女の鎧、布だが、通さない・・」

「転進を意見具申します」


 ナツの着ている布鎧は、

 石英をプレスで潰し。ガラス繊維を取りだし作った防弾チョッキが正体だ。



 しかし、


「アキの銃なら、倒せるかも!それ、貸して!」

「殿下!」


 王太子は、勇気を振り絞って

 ナツの前に立ち。引き金を引くが、


 奇跡的に、


 カチャ、カチャ、

「あれ、撃てない。撃てないよ!」


 まるで、妹を撃つのを拒んでいるかのように、

 装弾不良を起こした。


「アキ、頼むよ。アキ!アキの顔をした化け物だよ。力を貸して!ウワーーーン」


「殿下!撤退しましょう」

「早く。馬に乗せろ!」



 ナツは、

 魔女ではなく、アキと連呼する王太子を見た後。

「・・・・・ナミ、興がそがれた。帰投する」

「はい!やっと帰れるのです!」



 この日の会戦は、二時間で終わった。一方的な辺境伯軍の勝利であるが、王国軍傭兵の戦死者は約1000人であった。

 生き残りの傭兵たちは、王の免状を笠に着て、略奪を始め。王都近郊の治安は、悪化の一途をたどることになる。


 ナツは、


「そもそも、指揮官という者は、戦況を見回し、適時適切な指示を出すことにあるのです。それを、直接、現場を見たいと、お仰るから、許可を出したのですぞ!」


 年上の部下から、叱られていた。


 ニコッ「うん。反省する!」

「ニコヤカニ、言われましても・・」


「次は、ナミ2尉!副官は、何でも『はい、はい』聞いてはいけませんぞ」


「ヒョヘー、私も!」



 ☆☆☆王都


 王太子は、生き残った騎士たちと共に、王都に戻った。

 王宮は怖い。魔の巣窟と化している。王宮には直接行かず。グリーンランド王国大使館に向かった。


「はあ、はあ、はあ、アウリーは、留学生に支援を要請と言っていた」


 グリーンランド王国の大使館に、行ったが。


「グレース!助けてよ。援助をしてよ!君たちの協力が必要なんだよ!え、引っ越し?王国を見捨てるの?」


「王太子殿下・・引っ越しですわ。これから大変な事態になります。ですから、ザルツ帝国の大使館に、皆が集まるのよ」


「僕も、そこに」


「無理に決まっているでしょう。貴方は、アキ様を・・・殺したのよ」


「悪かった!間違いだった!アキには悪いことをしたって、分かったよ!」


「そう・・・」


 グレースは、魔女ではなく、アキと呼ぶ王太子を、ジィと見つめた後、アドバイスをした。


「王族は、・・・もちろん、情はあるけども、その前に、利害関係があるの。

 ロンバル王国を助けなきゃと思わせるナニカがあれば、助けざるを得ないでしょう」


「アキの本!王宮の図書館にあるかも!」


「・・・話を聞きなさい。それも、大事だけども・・・」


 グレースは、アキ教徒か?と周りに思わせるほど、アキの言動を、留学生たちから、聞き回った。

 そして、ある推論に至った。

 アキは、生前、麦の栽培を、留学生たちの国に依頼していたのだ。

 標高の高い国、低い国、日照時間が短い。長い国などなど、品種改良を施された麦を持っているかもしれない。


「イセ辺境伯は、内炎機関の開発に成功、おそらく、化学肥料の開発にも成功している。そして、アキ様は、異世界10号の開発にも成功していると見るべき。だから、アキ様が王妃になる予定の国として、大陸中の国々が、ロンバル王国を尊敬し、公会議では上席、皇帝への謁見も最優先だった。なのに、アキ様を殺害した時点で、その恩恵はなくなったのよ」


「何を言っているの?」


「ふう、貴方って、人は・・・簡単に言えば、万能麦、大陸のどこでも育ち。化学肥料にも耐えうる麦を、アキ様が持っていたかもしれないのよ。その麦のことを、コード名で、異世界10号と、アキ様たちは、言っていたのよ。それが、ロンバル王家が所有していたら、我が国も調停をせざる得ないでしょうね」


 異世界10号とは、

 突然変異で生まれた通常の麦よりも身長が低いものを、大陸中の麦と交雑させ。あらゆる日照時間や、気候でも育てられるように品種改良をしたものだ。

 それを作るには、大陸中の国々との協力が不可欠。

 アキが、留学生と交流したかった理由でもある。


 地球で言えば、日本発祥の麦、農林10号、身長が低いので台風に強い。それを元にし、アメリカで品種改良をされ、化学肥料により実が重くなって倒れる麦穂が減り。生産高は二倍になったと云われる故事より。アキたちは、異世界10号と名前をつけた。


「つまり、アキの育てていた麦を見つければ良いんだね!有り難う」


 アキの最期の言葉、


『まだ、死ねない。食べ物に困らない世界を、後、もう少しで実現出来るのに・・・』


 王太子の頭の中に、浮かんできた。


 ・・・・


 ・・・馬鹿な王子、でも、彼は、初等科から、来なくなったけど、本当に、彼の意思だったかしら。


「グレース王女殿下、急ぎましょう」

「ええ、さあ、荷物は、食料を最優先よ。ザルツ帝国大使館なら、防備は強固よ」


「「はい!」」



 ☆☆☆王宮


 王宮に戻った王子は、急いで、図書館に向かった。アキの本に、ヒントがあるかもしれないと思ったからだ。


 しかし、


「本がない!!」


「あっ、ヘンリー、お帰り。どうだった。逆賊は討伐した?!」


「リリアン!本は?ここにあった本は?」


「え、これ、高く売れたから、ドレスを買ったよ。ほら、見て、見て?外国の商人たちが、こぞって、買って行ったの。それも、面白いくらい言い値で、あたしって、頭が良いでしょう」


「そ、そんな」


 王太子ヘンリーは、敗戦以上のショックを受けた。

 膝を落とし、むせび泣いた。


「ウグ、ウウワーーン!」


「フフフ、嬉しいのね。まだ、お金がいっぱいあるの。ヘンリーも服を買えばいいわ」



最後までお読みいただき有り難うございました。

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