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魔王軍


 戦争が始まる二ヶ月前。

 シラスが殺された頃。

 魔王リオルクシ支配領域「ガズドナルメシア」にて。

 魔王リオルクシが緊急会議を開いた。

 これは、魔王軍にとって前代未聞のことで、魔王リオルクシの二万年の歴史を覆した。

 魔王が急に、自ら、会議を開くなど滅多にないのだ。というか、これが初めてかもしれない。

 リオルクシの城、ガズドナルメシア本部大会議室は現在、膨大な緊張感で満ちていた。

 空気が重く、ずっしりとしていて、喋り出すような者は一人もいなかった。


 すると、大会議室の扉が開かれる。

 そこには幹部連中以外は滅多にお目にかかれない、魔王リオルクシ・メピドアルシャの姿があった。

 いつも通りの黒スーツだが、今日はなんだか乱れている。

 その側には、リオルクシの右腕で側近のメイピス・テリシャがいた。彼女は相変わらず冷たい顔をしていて、今も周囲を睨み付けている。

 顔は完璧な美貌で、魔王軍の中でも有数な美女と言われているのだが、性格も表情も勿体ない。

 だが、そんなことを口にする馬鹿はどこにもいなかった。

 そんなことを言ってしまえば、即殺されるからだ。


 大会議室の緊張感はさらに増すばかり。

 幹部連中も今にも汗を垂らしそうなほどだ。

 皆、息を飲んで主である魔王リオルクシを見つめた。

 そして、リオルクシが大会議室の用意された玉座に座るなり、緊張感で重々しかった空気は固まり、静まり返る。

 それから数秒もしないうちに、メイピスの「起立」の合図でリオルクシの配下達は、その場から綺麗に息を合わせて立ち上がる。

 そして静かに、綺麗に、乱れず、息を合わせて全員リオルクシに向かって礼をした。


「着席」


 そのメイピスの合図で、また配下達は息を合わせて顔を上げ、席についた。

 その配下一人一人が今回の緊急会議がどんな内容なのかが気になって仕方なかった。

 すると、メイピスが口を開く。


「これより、緊急会議を開始する!」


 その声は大会議室全体にまっすぐ響いた。

 振動は会議室内の者全てに圧をかけ、さらに空気の重みを感じさせた。


「まず、リオルクシ様からお言葉だ」


 それだけ言ってメイピスはリオルクシの後ろに控える。


「お前ら、魔王である俺がこんなことを言うのはおかしいかもしれないが、俺は今、焦っている。重要なことばかりを話すから、最後まで聞き逃しのないよう、しっかりと聞いてほしい」


 最後まで聞き逃しのないよう、しっかりと聞いてほしい───そんなこと、この場にいる誰もが言われなくても理解していた。

 会議室内の者全員は、黙り込んだ。

 そして静かな空間が出来上がる。


「うむ。ではまず、俺が今焦っている理由からはなそう。それは……俺に死が近づいているからだ」


 リオルクシがそれを言った瞬間、会議室内は一気にどよめいた。

 魔王であるリオルクシに死が近づく。それは言ってしまえば、あってはならないことである。


「静粛に!!! 魔王様がお話をなさっているというのに、無礼だぞ! 意見があるのなら、挙手をしろ!!!」


 メイピスが叫ぶと、会議室内はまた静まり返った。

 するとリオルクシが話を続けた。


「死が近づいているというのはな、何者かが……いや、もう言ってしまおう。この世界に、もう一人の俺がいる」


 もう一人、魔王リオルクシがいる。その一言で会議室内はまたもどよめいた。

 皆、リオルクシの言っていることが理解できていないのだ。

 会議室内がざわざわと騒がしくなってしまったが、またもメイピスが黙らせた。


「よく聞いてくれ。俺がもう一人いるというのは、もうひとつの俺の魂がこの世界のどこかにあるんだ。というより、もうすでに受肉していると考えてくれ。もうわかったか? この世界の絶対的なルールとして、同じ魂は同じ空間に存在できない」


 この世界の絶対的なルールでは、もし同じ魂が同じ空間に存在した場合、弱い方の魂が消滅する。

 ということは……


「俺の魂が、もうひとつの魂に負けているということだ」


 その言葉が発されたとたん、さらにどよめきは激しさを増した。もうこれではメイピスでも止められない。

 「嘘だ! 魔王様が魂の力量で負けるなど、あり得ない!」と叫ぶ者もいれば、「おかしいぞ!!! そいつはどこだ!!!」と叫ぶ者もいる。

 もうこれでは会議どころではない。

 メイピスが止められないとなると、リオルクシが止めるしかない。


「黙れっ!!! 事実として、俺は押し負けているのだ!!!」


 そう、リオルクシが叫び、認めることで他の者は反論することは許されない。

 これによって会議室内はまたも静まり返った。

 なんどもなんどもざわつき、静まり、その繰り返しだった。

 会議室内が静まり返ると、深呼吸をする者や、ため息をつくものなどが現れた。

 それを見てメイピスが「お前ら落ち着け!」と注意も予て叫んだ。

 そうだ、何をしているんだ私たちは……と、配下達は落ち着きを見せ始めた。

 それを確認したリオルクシは、また話を続ける。


「さて、そこで俺はいきなりだが、人間社会に戦争を吹っ掛けることにした! もうこんな死が迫り、弱体化してしまっては、急いでこの世界を潰すしかない!!! シラスの復讐とでも言っておいて宣戦布告でもしてこい!!!」


 この言葉にも、リオルクシの焦りが少しばかり感じられたし、とても大胆なことだったが、もう誰一人として驚くことはなかった。

 皆、落ち着き、黙って頷いている。

 それを見てメイピスも少しほっとしているようだ。


「今回の戦争では、まず人間社会の中でも一番大都市で、武力最強とも言われるベレリオル王国を攻める。そこにもし他国からの援軍があれば、そこは不意打ちする。ベレリオルを打ち落としさえすれば、あとは残った雑魚国を潰していくだけだ!!! 全力でやれ!!!」


 そのリオルクシの力ある言葉は、魔王として完璧である。凄まじい迫力と威圧感を感じられる。

 それに応じて配下達も全員揃って「はいっ!!!」と、力強い返事をする。


「そして部隊編成だが、幹部ごとに分かれることにする。まずバディオルドとリリオルドはベレリオル本国に突撃隊で行こう」


 それを聞いたバディオルドとリリオルドは、立ち上がり、「はいっ!!!」と力強い返事をし、礼をした。

 もちろん、二人には異論などない。

 ここは魔王リオルクシに従う以外、なにもないのだから。

 

「次に、その後ろからデヴァ・ノアルドだ。本当は前列に出したかったんだが、バディオルドたちの部隊でベレリオルの前列に大ダメージを与えたあと、一気に追撃って感じで行きたいからな」


 それにはデヴァも異論はない。

 リオルクシに従うだけである。


「そして、残った元シラス配下軍は、もしベレリオルに向かって他国からの援軍が動いたら、そこを不意打ちする役割を担ってもらう。いいな?」


 そう問われた元シラスの配下の者達は、一斉に立ち上がり、大きな返事をして礼をした。

 それはシラスがいなくなった今でも、揃った綺麗な礼だった。

 皆、思うことはあるだろうが、我慢しているのである。

 これで全幹部の部隊編成が決まった。

 話し合うことなく、全てリオルクシ一人で決めてしまったが、異論がなく、全員が認めているので、これで決定だ。


「よし、これで完璧だが、もしものため、もしものために、俺は今人間に化けて冒険者をやっている裏魔王のラア・ミーレの力を使う。あいつは覚醒前の俺とほぼ同じ強さを誇るからな。陽動のため、利用させてもらう」


 すると、それはよい案だ! などと手をたたく者達が現れた。

 が、それと反対でそれはやめた方がいい。と言う者も現れた。

 ついに反論者が出たのだ。

 裏魔王とは、面には名乗り出ない魔王のことで、その実力を知るものなど、極少数なのだ。

 だから、実力も正確に分からないラア・ミーレは危険だ。だが、使えるっちゃ使えるのだ。そう考えると、利用しないと勿体ない。

 ここで意見と意見が対立し、ぶつかり合うことになる。


「危険です! 魔王様! それで失敗したら、ど、どのようなご対応をっ!?」


「いいや、使えるものは使っといて損はしない!」


 などと、意見が多々浮かび上がる。

 これはどちらも正論だ。

 利用しないと反論した者達だって、馬鹿ではない。ちゃんと正しい選択をしたまでなのだ。

 そもそも、ラア・ミーレを利用するかしないかなど、究極の二択なのである。

 意見が飛び交う会議室内をおさえるため、リオルクシが口を開く。


「安心しろお前達、俺の大魔法で操って見せる」


 と、断言したのだ。

 その多大なる自信はどこから来たのかと疑問に思う者が大半だが、リオルクシの力強い言葉に気圧されて反論するものはおろか、意見する者も途絶えた。

 そもそも、リオルクシが決定したことに反論するなど、自殺行為でしかないからだ。

 僅かに聞こえる声は、「魔王様が仰るのだ、異論はあるまい」という賛成意見しかなかった。

 これにて裏魔王ラア・ミーレについてもあっさりと決定してしまった。

 ほとんどは魔王リオルクシが直接的に。

 これも仕方ないことなのだ。

 魔王リオルクシは焦っている。かなり焦っているのだ。

 「死」が間近に迫ってきている状況で、落ち着くことなど出来ないのだ。


 会議が終わりへと向かい始めた頃。ベレリオル軍の人間について、集まった情報から注意すべき危険人物について話される。

 まず、ルリオとその仲間だ。

 本名はルリオ・リスリドラ・リミオン。

 覚醒したシラスすらも意図も簡単に殺した勇者である。


「こいつに遭遇したらすぐに報告すること」


 そうなったら、ラア・ミーレをぶつければいい。リオルクシはそう考えた。

 覚醒したばかりのシラスと、古くからの魔王であるラア・ミーレでは格が違う。

 だからか、心の底から勝てるという自信が湧いてきた。

 その後は、ウォスとレリア、他にも有名な勇者達などが紹介されたが、それらをルリオと比べると雑魚でしかなかった。

 が、それはリオルクシの価値観であり、配下達とは違う感覚だ。

 紹介しといて損はない。


 そして会議は終了した。

 魔王リオルクシの配下達はさらに士気を高め、来る戦争の日に向け、さらに日々精進することになる。


   ◆


 やろうと思えば、リオルクシにとって世界を滅ぼすなど、簡単なことなのだ。

 朝飯前……とは言い難いが、簡単ではあったのだ。

 しかし、死が迫り、魂の弱体化によってそれは簡単なことではなくなった。

 以前の力はもうない。失われているのだ。

 だから、全軍を動かし、少しづつ滅ぼしていくという手を打つしかなかった。

 逆に、弱体化しているこの状況で、リオルクシ自身が戦場に出るなど、自殺行為でしかなかった。

 リオルクシはさまざまな作戦、計画を思案し、戦争の日に向け、準備を始めた。

 もう、戦争が始まるのも、時間の問題であった。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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