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後片付け、そして始まり


 あの日から二ヶ月という月日が過ぎた。

 時間とはあっという間で、俺が死んで復活してからもう三ヶ月が経っていた。

 恐ろしい早さである。

 あ。ちなみに、あの日から二ヶ月の間は、まぁ忙しかった。

 まず、有名人になりすぎて毎日人が押し寄せて、商人が強引に………思い出すだけでうえっとなるな。駄目だ、やめておこう。まぁ色々あったな。

 それと、ギルドの移動だ。

 俺らのパーティーはAランクだったが、Sランクに昇格し、ギルド本部で働けることになった。

 そこは思った通り、高難易度な依頼ばかりが出されていた。

 魔獣討伐はもちろん、悪魔や魔族などの討伐依頼もあった。

 そうそう、魔族とは、俺の拠点に築かれた王国に住む魔の者たちだ。人型が多いため、魔族と呼ばれている。例えば、鬼とか豚とか、まぁ色々である。

 それらはとても強い者達が多い。そりゃあ暴れることもあるから、討伐依頼が出るのも納得である。

 てな感じで、最近の俺たちはそんな高難易度依頼を達成して、超大儲けしている所である。もちろん、シラス討伐の金もあるため、現在大金持ちだ。

 俺は思いきって引っ越しをしてしまった。それはリュミリーも跳び跳ねて大喜び。

 新宅はとても豪華にしてもらった。

 前の家の三倍は余裕であり、二階建てだ。一部屋一部屋が、前の家のリビングぐらいの広さがあって、とても快適だった。おまけに防音防寒防熱完備だ! これ本当にありがたい。

 言っちゃえば、快適というレベルではないのだ。

 貴族みたいな気分になっていた。冒険者でこんな豪華で快適な暮らしが出来るのは、幸せもんだなと俺は心から思った。

 魔王が人間の、敵対関係である冒険者の暮らしを羨ましがった瞬間であった。


 それからというもの、金を使えるだけ使った。

 依頼を達成する度に、高級レストランに通い、満足するまで食べ放題していたのだ。先のことなど考えもせず、金を漁るように使った。

 新しい武器も買った。首都に行けば、幻級ファントムとかいう馬鹿げた武器だってあるのだ。それを買い漁った。

 結果。俺は全身を幻級ファントム装備で包んだのだった。杖も幻級ファントムにした。「メイシェル」という新たな杖を手に入れた。

 ルリオとレリアも新しい武器装備を手に入れて喜んでいた。

 だが、ルリオは剣だけは変えなかった。愛剣だと言って新しくしなかったのだ。ま、実際その剣も幻級ファントムだったのだが。

 初めて知ったが、「聖勇幻剣イリージェン」というらしい。ま、俺にはそんなの関係ないっと。

 という感じで、みるみるうちに金が消えていってしまった。

 元一般冒険者に金の管理など、出来もしないのだ。

 おっと、俺は例外だかな。

 ちゃんと、限度を考えて使っている。

 決して夜の遊び場なんかに金を使ったりしていない。そして、まだ金もたんまり余っている………うん、余っている。

 ん?見せてくれって?それは無理だよもちろん。

 どちらにせよ、最近の高難易度依頼を達成したお金でなんとかなっているのだし、大丈夫である。


 俺はその後、ルリオに呼ばれてギルド本部へと向かった。

 引っ越した家からはかなり近かったので、すぐにたどり着くことができた。

 俺は大きな門を手にかけて押し開けた。やはり、本部は全然違うなぁ元のギルドとは……

 豪華すぎる。まるで貴族のようで、おもてなしさせれているかのようだ。

 というか、元は魔王という高い権力を持っていたのだがな。

 今ではもうすっかり人間の一般人という感覚が染み付いてしまった。


「よお、ウォス」


 俺はその声のする方へと振り向き、ルリオが座っていた席へと駆け寄る。

 机や椅子までもが豪華だ。本当に冒険者ギルドなのかと疑ってしまうほど。


「で、話ってなんだ?」


 俺は豪華な椅子に腰を掛けて、早速ルリオに用件を聞く。

 それにしても、座り心地も最高だ。もふもふしていて、素材の質も良質で……まったく、贅沢なもんだ。

 俺はリラックスして寛いだ。

 ルリオの顔を覗いてみると、なんか浮かない顔をしている。何かあったのだろうか?


「えっとな、実は………」


 俺はその衝撃な話を聞いて、息を飲んだ。

 なんと……


「これから戦争が始まるんだ」


「ど、どういうこと?」


 なんだよ、こんな絶好調な時期に人間の醜い争いかよ……付き合ってらんねぇ……

 しかし、それは大きな勘違いだった。


「魔王と人間の戦争」


 俺はそれを聞いて、驚きのあまり、何も言わずにガタッと机を叩いて勢いよく立った。

 周りがざわついている。

 俺に視線が集まっているのが分かる。


「落ち着け」


「…」


 俺はもう一回座り直した。

 よく周りを見ると、他の奴らも浮かない顔をしてるな。うきうきしてるやつなんて、一人も……


 いた。


「おいおいおい、お前らなぁーにげっそりしてんだよぉ!? これから魔王と戦争だぞ? ここで魔王をぶっ倒して、終わりにしようぜ!?」


 一人で大胆に論じている。うるさい奴もいるもんだ。

 もう少し静かにしてくれれば、聞く耳をたてるというのに。

 まぁ、そいつは無視して俺はルリオに向き直る。

 ルリオは一息吐いたあと、話を続けた。


「で、俺らも参加することになった」


 俺は驚きもせずに頷いた。

 大体は理解できた。魔王おれがシラスの復讐とかなんかしてくるってことだろう。

 それは正解だった。


「前、俺らがシラスを倒しただろう?その借りを返しに来るんだとか……」


 やはりな、と俺はため息をつく。


「周りの奴は別に俺らは悪くないと言ってくれてるけど……」


 そうか、それで曇った顔をしていたのか。人間のメンタルは細胞膜のように薄いんだな……と、俺はひそかに嘲笑いした。


「決戦は明後日。準備は完璧。あとは魔王が攻めてくるのを待つだけって状態だ」


 ルリオが詳しく教えてくれた。

 てか、早くね!? いきなり戦争とか、俺聞いてないんですけど!!!

 なんか色々おかしすぎる。歴史はもうごちゃごちゃだ。

 やっぱり変な夢でも見ているんじゃないかと思う。

 そうだよ、これは夢だ。

 いつか覚める。

 きっと覚める。


「おい、ウォス? 大丈夫か?」


「え?」


「よかった、じゃあ話を続けるぞ」


「あ、うん?」


 おっと、うっかりふらふらして机に頭を打ってしまっていたみたいだ。

 落ち着こう、しっかりしよう。


「レリアもそろそろ来るけど、あいつは戦争には参加したくないと言っているんだ。そうなると、俺たちは二人の部隊で出撃となるけど、それでもいいか?」


「二人部隊?」


「あ、そうそう。この戦争では主に守備になると思う。というか、そうなる。で、部隊編成が各パーティーごとらしいんだ。だから、俺たちはレリアが出れないとなると、二人部隊ってこと。ちなみに俺らは上位冒険者部隊っていう軍隊で戦う」


「そういうことか」


「どうする?他のパーティーと合体でもするか?」


 どうしようか、二人でも十分な気がするが、ここは足した方がいいのか?

 しかし、守備なら、全員まとまって行動するんじゃ?

 なら別にいいかもしれない。


「いいよ、二人で。十分だろ?」


 俺はルリオの顔を覗き込むように問うた。

 二人が黙れば、ギルド内もしんとする。

 何も音がならない。

 静かな、草原のような……そんな感覚にされる。


「そうだな。あとはレリア次第だ」


 それからはしばらくレリアを待った。

 その間に、俺は思案する。

 なぜ、こんなに早く戦争が始まるのか? 

 俺だから分かるのかも知れないけれど、なんか魔王おれは焦っているような気がするな。なにかに怯えて、一刻も早く人間を滅ぼそうとする……そんな感じだ。

 いいや、ただの思い込みだろ。

 しかもこの俺が、一人の幹部が死んだくらいで急いで戦争! なんてあり得ない。それだったら別に急ぐ必要も無いだろうし、ゆっくりと念入りに準備するだろう。

 だから、他になにか事情があると考えておこう。


 そこへレリアがやってくる。

 レリアもいつもと比べて暗い顔だ。

 そして、レリアは俺らの席に来るなり、「戦争、参加する」と、単刀直入に言った。

 あまりの急さに俺らは一瞬、へ?っとなったが、すぐに落ち着いて


「そう、わかった」


 と言った。

 レリアは「うん」とだけ言って椅子に腰かけた。


「じゃあ、この三人で一組でいいね?」


「うん、そうしよ」


 と、決定したそのときだった。


「私も、入れてくれませんか?」


 そう問いかけて来たのは、一人の少女だった。

 この俺でも一瞬「ほへ?」となるほどの超絶美少女だ。

 茶金髪の長い髪がサラリと靡いて、周囲の目を一瞬にして引き付けた。

 その目は全てを見透かしているかのような、綺麗な銀色の透明な眼で、その肌はスライムのように柔らかい、そんな見た目をしている。

 胸部と腹部を鎧で包み、腰の辺りもしっかりと防備されている。それがきゅっとしまっていて、彼女のスタイルの良さを強調している。

 その左腰には、細剣レイピアが備えられていた。

 可愛い……と、俺もつい見とれてしまった。

 これが一目惚れというのか。

 元魔王の俺がこんな感覚になったのは、生まれて初めてだ。なんだろう、この全てを握られたような……

 そこで俺はハッとする。


 ルリオとレリアはまだぽかーんと口を開けたまんまだ。俺が話さないと。


「えーと、確かに俺らの組は人数少ないので、どうぞ」


 俺の口は勝手に動いた。来て欲しい、そう心の中の何かが反応したかのように。

 ルリオがキョトンとした目で俺を見つめてきた。

 が、それは無視。


「ありがとうございます! 私、ラア・ミーレです! ラアって呼んでください! よろしく!」


 その子は軽く挨拶をすると、空いていた俺のとなりの椅子にゆっくりと腰かける。

 すると、彼女の体からモワァッと花の香水のとてもいい香りが漂ってきた。

 操られたかのような、そんな感覚に俺は溺れる。

 いやいや、だめだ! 落ち着け。

 俺は頭をぶんぶんと振り、ルリオへと振り向いた。

 そして小さな声で、「いいよね?」と聞いた。

 ルリオの答えはもちろん「イエス」だった。


「えーと、じゃあ、名前を教えてくれますか?」


 俺らが軽く話を交わしたあと、ラアは俺らに質問をしてきた。


「あ、えーと、俺はレ……じゃなくて、ウォスです」


 とあぶねぇ……緊張のあまり、口が滑るところだったぁ…まぁでも今の俺が言ったところでなんにもなんないだろうけど。

 そのあと、ルリオとレリアも自己紹介を済ませた。


「てか、敬語使わなくてもいいよ、リラックスして」


 紹介を追えると、俺はそんなことを言っていた。また口が勝手に動いたみたいだ。

 これは慣れるまで時間がかかりそうだな。


「ありがとう、じゃあリラックスするね」


 と言い、ラアは固くなっていた言葉がすん、と軽くなった。

 こうして、俺たちは改めてパーティーを組んだのだった。


 しかし、この時の俺は、ラア・ミーレという少女が自分と並ぶほど恐ろしい存在であるということは、まだ知る由もなかった。

最後までお読みいただきありがとうございます。

少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら、ブックマーク登録、評価よろしくお願いします。


さて、次回。

物語は一気に動きます!!!

お楽しみに……☆

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