俺の噂
あれから一週間。俺はゆっくりのんびりと身体を休めた───
じゃねぇぇぇー!!!
その休んでいる間に、またまた色んな情報をかき集めたんだよ!
だいたいリュミリーから聞き出せたものだ。思い出話をしていたんだが、そこから予想も入れながら分析できた。
俺の転生体のウォスの性格は分かったとして、他の奴らの情報だ。
まず、ルリオ。ルリオはもう分かってはいるが陽気な少年で、元気、活発。お金大好き。剣が得意。意外と頭が良い。
次にレリア。レリアも陽気な少女で、元気、活発。お金大好き。魔法が得意。まぁまぁ頭が良い。
そして、二人とも最強。(俺も最強)
って、ほぼ同じやないかいっ! しかも情報薄すぎ! 子供の自己紹介かよ! この一週間で集められたのがこれか!
俺としたことが……
俺は俺に呆れ、ため息をつき、寝転んでいたベッドから起き上がって部屋を出た。
リビングにはリュミリーが机の椅子に座って待っていた。
なにやら元気そうだ。にこにこしている。
ちなみに、リュミリーは薬屋で働いている、らしい。俺に回復薬もくれたから、それはほんとうなのだろう。
「なんかあったの?」
俺は気軽な感じでリュミリーに話しかけた。
「それがね、今日、二人が帰ってきたの。だから、お見舞いに来るって」
「そうなの?てか、もう俺元気なんだけど」
はは…と俺は笑いながらリュミリーの前の椅子に腰掛けた。
「まぁまぁ、そろそろ来るらしいから、ここで待っとこうよ」
「そうだね」
「あと、椅子二つ用意しないと。待ってて」
と言ってリュミリーは立ち上がり、新しく二つの椅子を持ってきた。それを机に並べる。
これで一つの机を四つの椅子が囲む形になった。
「うん、完璧」
リュミリーは我ながら上出来とか言いながら、また椅子に座り直して「まだかなまだかなー」と楽しそうに揺れた。
「久しぶりだよね、私がルリオとレリアに会うなんてー」
俺はそんなに二人のことが好きなのかと思いつつ、彼女を見つめた。
今日も可愛い……じゃなくて…
「あ、であとさ、これなんだけど……えっと……」
リュミリーが氷箱からなんかの箱を取り出した。
それは、ケーキだった!
「じゃーんっ! これ、ケーキだよ! 久しぶりに四人揃うじゃん?だから、張りきっちゃったぁ」
リュミリーは机の上にどぉーんっと、ケーキを置き、満足気に鼻をならした。
俺は「凄いね」と言いながら拍手をした。
「これを四当分するとなると、まぁまぁ大きいね」
俺はだいたいで測ってみたが、かなりの大きさだ。食べきれる量ではあるが、少し太りそうだなぁ。
俺がそんなことを考えていると、玄関のドアが叩かれる音がした。
「おーい、ウォスー! ルリオでーす! 医者免許取ったよーん」
などとふざけたことを言う声もする。
俺もリュミリーも待ってましたとばかりに玄関へと急いだ。
ドアを開けると、そこにはルリオとレリアが立っていた。
前と同じ服だが、少し汚れている。冒険で汚れたのだろうか?
「やっほー、ここ久しぶりだねー。なんも用意できなかったけど、お邪魔します」
二人は靴を脱いで家に上がった。
リュミリーが嬉しそうに笑いながら、リビングまで案内し、ケーキを見せてあっと驚かせた。
「わーーいっ! ケーキだぁっ!」
ルリオとレリアはそれを見て椅子に飛び付き、「早く食べたい!」と言い出した。
こいつら、本当に子供だなぁと、俺はまたまた思った。二万歳の俺からしたら、子供とかいうレベルでもないがな。
そして、リュミリーが急いで皿を準備し、四当分し、それぞれの皿に分けた。
「いっただきぃまぁっーすー!」
ルリオが変な口調で喋り、がつがつケーキを頬張った。
レリアはさすがに食べるときは落ち着いて、ゆっくりと味わいながら食べていた。
俺もゆっくり、一口一口を大切にして食べた。
リュミリーはそんな俺たちを眺めなから食べていた。
「やばい、美味しすぎる」
「んぅーっ! 溶けちゃうぅ!」
ルリオとレリアは相変わらずはしゃいでいた。ケーキに興奮し、げらげら大きな声で笑って話している。
俺も同じくらいはしゃいで食べていたが、二人よりもは落ち着いていたと思う。そりゃあ、思いっきり楽しめるわけないさ……一応、演技だからな。
そんなこんなで楽しく談笑していると突然、ルリオが俺に向かって
「そうそう、結局ウォスさ、大丈夫そうなん?」
と訊いてきたので、俺は「あん、もう全然へーき」と軽々しく答えた。
「よかった。じゃあ、俺の旅の話しな」
おいおい、俺の心配もっとしねぇのかよ、と苦笑いしながら、俺はルリオの自慢話を聞いてやった。
オーガクは弱かったらしい。俺がいないから、最初は不安だったらしいけど、二人で全然余裕だったとか。こいつらを見た目で判断してはいけないな。実力は確かみたいだ。
俺はとりあえず「うんうん、凄いねぇー!」とか言って調子を合わせて聞いていた。
リュミリーは興味津々といった感じで、うんうんとうなずきながら、とても集中して聞いていた。
それが終わるとみんなケーキを食べ終えていて、リュミリーが食器を片付けているところだった。
一旦落ち着いたルリオは、また椅子に戻って「そうそう!」と言って話を振った。
それは、魔王についてだった。
「ウォスも、ちゃんと聞いてくれよ」
ルリオが俺の肩をぽんっと叩いてきたので、「う、うん」と少し姿勢を直して向き直った。
「それが、最近なんか魔獣魔物が活発化しているだろう?」
そうなのか……?
俺はごくりと、たまった唾液を飲み込んだ。
「それ、魔王の仕業だった…てこと。」
この時期とタイミングからして、これは……俺が拠点を移した時のことだな。
「どういう……こと?」
とレリアが首を傾けながらルリオを見つめた。
「それがな、魔王が……拠点を移した」
ルリオのその一言で、その場の空気は入れ換えられたかのように一変した。
俺もその話の続きに固唾を飲んでいる。
「それが、理由は分からない」
それを聞くと、「なんだよー」と言いながらみんな脱力してだらしなく机にもたれかかった。そこまで知れると思っていたのだろうか?というか、俺としては少し安心だ。
普通に知られたくないんじゃない、というか………言いづらいが………
拠点を移した理由が、ただ元の拠点が寒かったから………だからだ。
最強と言われる魔王が寒いからという理由で城を移すなんて、恥ずかしくてとても言えない。
このまま気づかれませんようにと、俺はかつて敵対関係だった神に祈りを捧げた。
「で、だ。拠点は俺らの街に近づいたんだ。だから、近隣の森林の魔獣魔物は、魔王の城から漏れ出るエネルギーに反応して、活発化した…てこと」
ルリオが言い終わると、みんなまた大きく脱力して、ため息を吐いた。
俺はそういえばこんなこともあったっけな?と、懐かしみを感じていた。
そういえば、このあと俺はこの街に幹部をつれて襲撃したような…?
そうすれば……こいつらを罠にかけるチャンスが生まれるかもしれない!?
そして、俺は元の……いや、それは分からないな。元に戻れたらそりゃあ、ハッピーエンドだけど、そもそもどうやって…
もう少し大人しくしておくか。そうだな、元に戻る方法が分かって魔王と対峙することになったら、そこで罠にかけよう。
そして、戻る!
俺はルリオとレリアを、にやりと笑みを浮かべて睨み付けた。
俺が一人、頭のなかで嘲笑っていると、レリアがびくびくしながら口を開いた。
「てかさ、魔王って、捕まえた者を死ぬまで奴隷にし、地獄のような牢屋に放り込むっていう噂なかったけ……?」
ん!? なんだそれ!? 俺は決してそんなことはしていないぞ!? …いや、したっけな? してないよな?
リュミリーも嫌そうな顔をしている。ルリオはいつも通りの態度で動揺もしていない。
ちなみに俺はそのレリアの言葉に戸惑いを見せた。て、違う違う、落ち着け。俺は三人に合わせるようにわざと眉をひそめた。
だって俺はそんなことしてないもん。絶対、幹部の奴らだもん。なんかそんなことしている奴いた気がするし!
俺も幹部の管理が甘かったな……と今頃反省する。
てことで大丈夫だ。俺は悪くない。
と、一人で安心しているとレリアは続けた。
「それで、私の友達二人ぐらい死んでるの…」
おいおいおいおいおい、さすがにそれはやりすぎじゃないか!? 俺の幹部!!! 幹部!!! 多分、アイツ!!!
ちなみにアイツとは、俺の直属の配下であり、幹部最強と言われる、デヴァ・ノアルドだ。絶対にあいつの仕業だ!!! 俺はなにもしていない!!!
おっと、危ない危ない。危うく頭から噴火するところだった。
俺は心を落ち着かせるため、ゆっくり深呼吸をして大きなため息を吐いた。
「あ、ごめんごめん、なんか空気薄暗くなっちゃったねー」
レリアは無駄に慌てて空気を戻そうとした。
俺はこの二人に、遠回しに嫌悪感を抱かれているということになる。
が、今の俺は自分の心を押さえることで精一杯という感じだったから、気づくこともなく……
「まぁそういうことだから、これからはギルドの依頼が高難易度なやつばっかになると思う。だから、気を引き締めていこう!」
そんな乱れた空気をルリオが綺麗にまとめてみせた。
俺は動揺と焦りがばれないように小さく拍手を送っていた。
それから世間話とかして、全て終わるとルリオとレリアは家を出ていく準備をした。
俺はあと一日は休めと、念を押して言われた。
のんびりしよう……そう思った。
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