帰ろう その1
俺はウォスを殺した後、奪った小袋を大切に保管し、ラアの元へと向かった。
「大丈夫? ラア、ラア!」
貫かれた頭には、まだ一つの穴がぽかんと空いている。
血が吹き出ていて、脳も貫通されており、再生は無意味となってしまっている。
これはもう、完璧に死んでいるということで間違いないだろう。復活も……やはり出来なさそうだ。
脳に魂が宿っている以上、魂も貫かれたと考えていいだろう。だから、ラアは魂ごと殺られた可能性が濃厚だ。
「ラア……」
ラアは本当にミニシャに似ているとよく思う。今も、初めてあったときも、ずっとミニシャのような雰囲気を漂わせていたのだ。
そんな彼女も、人間によって殺された。
もう、俺には何も残されていない。
元の姿に戻り、また世界を滅ぼそう。
今度こそ、成功させてみせるから。
俺はそう心に誓い、もう死んでしまったラアに抱きついた。そして、ラアの唇に別れのキスを交わしたのだった。
二万年振りのちゃんとしたキスかもしれない。その、二万年前のキスは、ミニシャだった。
少し俺は嬉しい気持ちになり、鼻がくすぐられたようだった。
◆
戦場へ戻ると、それは絶望的だった。俺がそこに着いたときには、もう手遅れだった。
俺はその光景を見て唖然とする。
そこにあったのは、ベレリオル軍の兵であろう数万の人間の死体と、魔王軍の兵であろう死体兵の大群。
そして───
理性を失って暴れ狂う、暴走状態のウクラルがいた。
そのドラゴンは、どうみてももう普通じゃなかった。ラアが死んだことによって怒っているのか、それとも、ラアが死んだから制御が出来なくなったのか。
原因は分からないが、あれはもう元のウクラルではない。
凶暴化したドラゴンだ。
「ギュオオオオオオッ!!!」
ウクラルはこれでもかと雄叫びをあげ、周りにいる死体兵達を吹き飛ばす。
しかし、吹き飛ばされた死体兵は、数秒間その場に倒れたまま固まるが、またすぐに起き上がり、ウクラルへと歩き始める。
これは、不死身ということだろう。
これは厄介だなと思いつつ、ベレリオル軍に残ったのは俺だけだということに気付く。
ウクラルが理性を失くして暴れてくれているおかげで、死体兵たちを食い止めることは出来ているが、永遠に倒すことが出来ていない。
というか、殺すことが出来ないのだ。
一度死んでいるから。
こうなったら、もう打つ手は無い。
いや、ひとつある。
死体兵の動きがやけにおかしい。
普通、死体という種族は、集団で動くことがますない。しかも、死体は魂がなく、考えることが出来ないので、通常ならばそこらをうろちょろすることしか出来ないのだ。
なのに、ここにいる死体兵達は集団での戦闘を可能としている。
これは何者かに操られているという可能性が濃厚だ。だから、その操縦者を殺す、そうすれば倒せる……という方法だ。
その操縦者も、心当たりはある。そう、メイピスだ。
今回の戦争の元凶であり、人間からするボス。
そんなメイピスの仕業に決まっている。しかし、俺としてはもうメイピスと戦う意思は無い。
なので、ここで今までずっと考えてきた作戦に出ようと思う。
魂の移転の方法も、だいたい分かったのだから、もう本当に魔王軍に寝返ってもいいかもと思いつつあるのだ。
人間の国に帰っても、もう俺には何も無いのだし、ここで死んだと思わせて寝返る。
完璧だろ。
よくないか?
そうだな、そうしよう。
そうなったら答えは簡単だ。
ついでに、ここでウクラルを味方につけてしまおう。
なので、まずはウクラルの暴走状態を元に戻すことからだな。
俺は心の中で強い決心をし、戦場へと走った。
そして、暴れ狂うドラゴン、ウクラルを見上げる。
「おい、ウクラル! 聞こえるか? 俺だ! ウォスだ!」
本当はリオルなのたが、ウクラルには秘密にしているので、ここではウォスと言う。
「ギュオオオオオオッ!」
ウクラルは俺のことを無視して叫びまくり、周りの死体兵達をまたなぎ倒した。
ま、そうだよな。
そう簡単にはね。
と思ったのだが───
「おいっ! ウクラル!!!」
俺が腹の底から声を出して叫ぶと、ウクラルはピクリと動きを止め、俺の方を振り返ったのだ。
「───その声は、ウォスか?」
いきなり冷静になったのか、いつものウクラルに戻った。
俺は一瞬、こんなに簡単に元に戻ることあるのか? と、戸惑ったが、すぐに冷静になる。
ウクラルだから出来たのだと思い、そのことはもう考えないことにする。
「ああ、俺だ。とりあえず落ち着け」
俺が言うと、ウクラルは「ああ」とだけ言い、後ろから殴りかかってきた死体兵を蹴りとばした。
「ラアが死んだ」
俺は唐突にそう伝えた。
今のはウクラルがまた暴走状態になるのを覚悟して、放った言葉だった。
しかし、ウクラルは至って冷静に、「知っている」と答えた。
「そうか、なら話が早い。いまか───」
「それより、俺はもうラアがいないから人間の味方をするつもりはない。これから、竜の谷に帰ろうと思う」
俺の言葉を遮ってウクラルが話してきたが、その言葉はとても怒っているような口調だった。多分、ウォスに対しての怒りをまだ押さえきれていないのだろう。
ちなみに、竜の谷とはその名の通り、竜が多く暮らす谷のことだ。何万年も前から存在していたと言われている。
そんなのは今はどうでもいい。
このウクラルの怒りを利用して、俺はこいつを仲間に引きずり込もうと思う。
「俺の話を聞いてほしい。俺も、もう人間の味方をするつもりはないんだ。今まで秘密にしていてのだが、俺は人間じゃない。魔王リオルクシの生まれ変わりだ」
俺は、前置きも無しに唐突に情報だけをウクラルに投げていく。情報量が多すぎてウクラルには迷惑かなと思ったが、そんな心配は無用だったようだ。
なんと、俺がリオルクシだということを知っていたらしいのだ。
それならば簡単だな。俺はさらに話を続ける。
「そこで、俺はベレリオルに帰らずに、魔王城に帰ろうと思う。そこで、俺はラアの仇とも思い、人間への復讐を計画しようとしているんだ。だからウクラル、お前もラアの仇と思って、一緒に来ないか?」
これで完璧だろう!
来い、引っ掛かれ!
俺はウクラルの説得を釣り感覚で行っている。
余裕だと確信しているからだ。
しかし、ウクラルの答えはこうだった。
「考える時間をくれ。俺も一人になりたい。考えがまとまったらお前のところに行こう。それでいいな?」
うーん、出来ればすぐに来てほしいが、まあ仕方あるまい。ここは考える時間をあげるとしよう。
話が終わると、ウクラルは後ろを振り向く。
そこには、まだ死体兵の姿が。
「まずはこいつらを片付けないとな」
そう呟くウクラル。
また翼を使い、羽ばたこうとするが、その動きはすぐに止まる。
なんと、死体兵達が驚きの行動に出たのだ。
俺を見た瞬間、死体兵数万の全てが、ピタリと動きを止めたのである。
ほーう。
俺は戸惑うことなく状況を理解する。
これも、メイピスの仕業だろう。
待ってましたよ、早く帰ってきてください。という、メイピスの声が聞こえたような気もした。
あいつは俺のことをずっと待っていたんだな。
今、帰るよ。
その後、死体兵数万が襲ってくることはなく、俺は誘導されるようにして敵軍本部へと歩いていくのだった───
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