パーティー解散
あれからまた一ヶ月。
俺はもう何事もなかったようにとっくにリュミリーのこを忘れ、今はラアと一緒に平穏に暮らしていた。
いや、正確には邪魔モンがいるんだがな。
「ししょおッ!!! コイツ、ほんとにキモイッす!!!」
「ちょっ、アユ! ラアのウォスになに言ってるの!?」
コイツだ。タキカワ・アユだ。
俺のことを助けてくれた奴なんだが、ようわからん。助けてくれたことに対して恩を抱いているから、感謝の気持ちを伝えているだけなのに、「キモイ」と言われる。
それと、ラアの俺とはどういうことなのか。
それは置いておいて、この生活、本当に大変だ。
俺はラアと二人きりでラブラブイチャイチャなスローライフを送りたいだけなのに、いちいちコイツが邪魔をしてくる。
「お前さ、俺がキモいなら出ていけばいいじゃん?」
こんなことを言っても
「は、はぁっ!? 師匠と離れるなんて絶対に無理だし!!! 無理無理無理無理、死んでも無理!」
はぁ…
コイツはラアに異常な執着心を抱いてしまっている。本当に面倒だ。
「そうだね、アユも我慢しなくていいから」
ほら、ラアだってちょっと嫌そう。
「し、師匠……師匠が言うなら、出ていきますよ。でも、たまに来ますからね!」
一生来んな! って叫びたかったけど、ここでは我慢する俺。
アユが出ていったのを確認すると、俺はラアに向き直る。
「アイツ、面倒くさいんだけど」
いきなり真面目な顔になり、キリッとした姿勢でラアに直接言う。
それはラアも同じ気持ちだったようだ。
「うん、それはラアも分かる。なんとか今は撒けてもあの子また来るしね。でさ、リオル? 一つ聞いてもいいかな?」
「もちろん」
「ずっと聞こうと思っていたんだけど…。もしかして、未来から来た?」
───うん、今頃?
遅くないすか、ラアさん? いつ聞かれるかないつ聞かれるかなって、俺もそわそわしてたけど、結構遅かったっすね。
今まで何度かチャンスはあったと思うんですけど。
おっと、ここで色々言ってしまっては仕方ない。
「うん、そうだけど」
ここはさりげなく正直に答えるのが正解だ。
「あー、やっぱりね」
俺とラアはリビングの机に二人で向き合う形で座り、少し重苦しい空気を漂わせながら話している。
「だから魂の押し合いで勝てたわけかー」
どうやらラアはスッキリしたのか、急に脱力してリラックスし始めた。腕を組んでうんうん、と頷いている。
俺もすんっと重苦しい空気から脱出し、リラックスする。
「あ、おしまい?」
「うん、それだけ」
なんだったのだろうか?
俺はいろんな疑問を抱えながら、机から立ち上がってリビングを出た。
今日は特にやることもなく暇なので、ついにあの邪魔者もいなくなったということで、久しぶりのラアとのイチャイチャタイムの準備を───
とその時、玄関が無理やりこじ開けられたー!?
「師匠ー!!! 大ッニュースです! 今すぐギルドに向かいますよ!」
あ、あ、あ、あぁぁぁぁ!!!
戻ってきやがったァァァァ!!!
伝説の邪魔者、た、タキカワ・アユじゃねぇぇかぁぁあ! ぎぃぃやぁぁあ!
「はーい、何? 大ニュースって?」
「まあ、とりあえず来てくださいよぉー。あと、えーっと、なんだっけ? とりあえずアンタも」
アンタって誰だッ!
俺か。
◆
という感じで、俺も強引にギルドへと引きずられるのであった。
ギルド本部についた。
何やら中はとても騒がしい。冒険者達がざわざわ何か話しているようだ。
俺とラアと邪魔者は、かなりの人で押し詰められたギルドの中の人と人の間の隙間を通って騒がしくなっている中心地へとたどり着いた。
なにやら、なんかの討伐依頼が出たようだな。
これは何カ月ぶりだろうか。あの戦争が終わって以来、魔物魔獣が発生することは無くなったが、また何か出たのか?
俺はかなりぎゅうぎゅうに詰められた人混みの隙間から、依頼書が張られた縁を覗き込む。
そこにあったのは、Sランクのゴーレム型巨大魔物の討伐依頼書だった。
最近の冒険者には、迷子探しやアルバイトなどの仕事しかなかったから、この依頼を求めて争っているのだろうか。
金の無い者達は可哀想だなぁ……じゃなくて、多分そうだろう。
争っているのはほとんどがAランク以上の猛者達。
そんなに金が欲しいのか、皆血相変えて奮闘している。
俺がそれを見て、これ誰も止めないのか? と思ったタイミングで、受付の奥からギルマスが現れた。
「皆さん、落ち着いてください。今から、この依頼達成大会を行います! 簡単に説明させてもらいますと、この依頼を皆さんに受けてもらい、この魔物を討伐したチームに報酬を渡すというルールです。いいですか?」
なんか、イベントが始まった。
これ、俺らも強制参加なの? と思ったが、すぐに答えが降ってくる。
「ちなみに、自由参加です。命の保証はいたしません。それでも参加したいという方だけ、ご参加下さい。それでは、スタートですッ!!!」
おいおい、なんか急に始まったぞ?
まあ俺は参加しないけど。
さっきまで血相を変えて奮闘していた冒険者達は、一目散にギルドを抜けだし、国門の方へと走り出した。
残ったのは俺とラアとの邪魔者…それと、珍しく私服のルリオだった。私服かは分からないけど……てか、こいつはいつも私服か!
「あれ、あなたたちは参加しないのですか?」
「はい。俺は参加しません」
きっぱりそう断った俺だが、そこに邪魔者のタキカワ・アユが突っ込んでくる。
「えぇー!? やらないんですか? 師匠は?」
「ラアもやらない」
「えぇー!? …じゃあ、私もやりません」
一番やりたそうなコイツは、ラアがやらないと言ったからしぶしぶ諦めたようだ。なんかムカつく。
ルリオもやる気はなかったらしく、ギルマスが受付の方へと戻ると、俺に話しかけてきた。
「ウォス、話がある」
「お、おう」
俺はラアとの邪魔者をおいて、ルリオに着いていき、ギルドの用意されていた一つの席に着いた。
そして、ルリオに単刀直入にこう告げられた。
「パーティーを解散しよう」
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