魔王の本気、隠れた才能
長くなります!!!
俺、ルリオ、レリア、レイードなど含めベレリオル軍で残った者たち八名はどこまでも続く草原の中、ぽつぽつといくつかのテントが張られた場所に到着した。
しかし、そのテントからは何の気配も感じられない。これは俺の「核心崩浄」の影響を受けて死んでいるからだろう。
それでも、一つのテントからは四名ほどの気配が感じられ
た。
それは、デヴァとバディオルドとリリオルドとルファーニである。だがまだこの時の俺は気づいていない。
次の瞬間。その内の一人、デヴァがテントから出て来た。
デヴァが見据えるその先には、空中にぽつんと浮遊する可憐な美少女、ラアの姿が。
「デバとか言ったっけ? ラアがボッコボコにしてあげるよ!」
ラアはその美貌に似合わぬ恐ろしい言葉を発する。
「貴女は魔王ラア・ミーレ様でよろしいですかな? 私の名はデヴァ・ノアルドと申します。魔王様の実力、拝見させて頂きますぞ!」
デヴァも負けていないという感じだな。両者やる気は十分のようだ。異常なまでの覇気を漲らせている。
もういつでも始まる状態になった。
「行くよ!」
先に動いたのはラアだ。俺が操り解除のために戦った時と同じで、剣を抜き、雷鳴の如くスピードでデヴァへと接近した。
遠くで見てもやはり凄いな。
あんな化け物、いくらデヴァでも手も足も出ないんじゃないか? と思うが、その考えは一瞬にして覆される。
なんと、デヴァはそれに自らの腕で受けてみせたのだ。
馬鹿な……ッ───と叫びそうになったが、なんとかグッとこらえることに成功。だが、俺は驚愕の表情を隠すことは出来なかった。
まぁでも、デヴァならば十分可能なことだから、彼からしたら出来て当然というところだろうか。
魔人なのだから、魔王の攻撃にも耐えられる身体強化を施したのだろう。でも次はどうなるのか…
「やりますな!」などと嬉しそうにラアの相手をしているから、まだまだ余裕なのだろうか?
それに対してラアも楽しそうだ。その目はまるで戦いが楽しいと言っているかのようだ。
「えっと……デヴァだっけ? 君、強いね!」
ラアはまたもデヴァの名前を忘れそうになったが、それは無視して、俺はラアがデヴァの実力を認めたことに驚いた。
ラアが強いというのだから、デヴァはそれほど強いということになる。なる、じゃなくて実際あいつはかなり強いんだけどね。
俺はそんな二人を下から眺めつつ、ルリオ達に向き直る。
「どうする?」
「あのテントの中が、気になるね」
ルリオとレリアはテントの中に注目しているみたいだ。確かに、あそこからはさっきから微かに何者かの気配がする。それも三人。そして俺はここで中にいる奴の正体に気づく。
気配を隠しているつもりなのだろうが、俺の感は欺けない。丸分かりなんだよ! ハハハ!…じゃなくて、多分だが、バディオルドとリリオルドと誰か、だろう。
その誰かはちょっと分かんないけど、まぁ強いことは確かだ。
「乗り込むか?」
「そうだねー、早めに片付けて終わらせたいしね!」
ルリオとレリアの中では決定したようだ。俺も後から賛成しつつ、他の人の意見を伺う。
結果は皆賛成だった。
騎士団長のレイードも、他の者達も、皆ラアとデヴァの戦闘に目を奪われていたが、「賛成」とその口から聞けたのだから、後で文句はないだろう。
ということで、我を忘れたかのようにあの二人の戦闘に集中してしまっているレイードたちの手首を掴み、テントまで引きずる俺とルリオとレリアであった。
◇◆◇
「てな感じで、すぐに撤退する。いいな?」
バディオルドはもしデヴァが負けた場合のことについて、リリオルドとルファーニに説明し終えると、一つため息を吐いた。
そして魔王リオルクシに連絡をしようとしたその時。戦場に突如、化け物級の気配が感知された。
「こ、この気配は───ッ!?」
それは、ルリオ達はである。
バディオルドはルリオのことを化け物呼ばわりする。まぁそれは、魔王軍の中では共通なのだが。
特にバディオルドは一番、ビビっている。
そんなルリオがこの場に現れたのだから、バディオルドが慌てるのも仕方ない。
リリオルドとルファーニもバディオルドの反応を見て、これはまずいとすぐに察知した。
「どうしましょう? バディオルド様」
場の空気に流され、ルファーニも焦り始める。しかし、リリオルドだけはまだ冷静さをなんとか保てていた。
「ルリオか! あいつがもうここまで来たか!」
などと言っているし、嬉しそうである。
だが、これは三人にとって緊急事態だ。今すぐにでも撤退すべきだった。でも、ここで撤退すれば魔王リオルクシの命令に従わないと見なされる。せめてデヴァが敗北するその時まで、残らなければいけないとバディオルドは考えた。
決してバディオルドは馬鹿ではない。だが、ここでの考え方は馬鹿だったと言えるだろう。
そこで撤退を決意しなかった時点で遅かったのだ。もうバディオルド達に勝利の未来など薄くとも見えていない。その先には真っ暗な未来しかなかったのだ。
「最悪、俺が出るしかないのか……」
などと、諦めの言葉を発するほどになっていた。
負けを覚悟して挑みに行くなど、無謀でしかないが、もうその手しかバディオルドには残っていない。
彼はまたも大きなため息を吐いた。
しかし、バディオルドは重要な何かを見落としていた。残っている味方に、隠れた最強がいることに気づこうともしなかった。
◇◆◇
さてと。テントの裏までたどり着いたが、どうやら中はパニック状態のようだ。なにやら騒いでいるようだが、この隙に突くというのもありだ。
しかし、それは俺からするととても可愛そうなことに思えた。元は仲間だったやつの不意を突くのだぞ、とても俺には出来ない。でも、ここではそれをやらなければならない。
本当にすまないと、心からバディオルドたちに謝罪を述べながら、俺とルリオでテントをビリビリと破る。
中を覗くと、驚愕の表情を浮かべたバディオルドたちの姿が。
「なっ……ッ!?」
冒険者達は敵のテントへと武器を構えて乗り込む。
敵の戦闘準備が不完全であろうとも、容赦なく戦闘を始める。
これが戦争なのだ。
「待て待てッ! 話を………ッ!!!」
バディオルドが言い終わる前に、ルリオの無慈悲な攻撃が舞い降りる。
これを見ていると本当にバディオルド達に謝罪したい気持ちになるよ。
でも仕方ない、仕方ないんだと心から謝りつつ、俺もバディオルド達に攻撃をする。
テントの中で爆撃魔法をぶちかまし、テントを破壊し一暴れした後、ルリオがその隙を突くべくバディオルド達にすかさず攻撃を───と思ったが、それは目を見張る速さで前に飛び出した男によって受け流されてしまう。
「いきなり侵入してこれですか? 失礼な奴らだ。私が名乗る必要もありませんね。すぐに片付けます」
ルリオを前にして凄いことを豪語したなと俺は感心しつつ、その男の実力を分析する。
その分析結果に俺だけではなく、周りの誰もが驚愕する。その結果とは───魔力量はそこそこだが、戦闘力……いわゆる経験値の数値は異常なほど。
その強さは魔王にも匹敵する。
恐ろしい化け物だったのだ。
俺はそいつの正体が気になった。だから、必死に記憶をたどる。
しかし、この男の記憶はよみがえることがなかった。
「そうだな。俺も名乗る必要がないみたいだね」
ルリオもたいした自信だ。まぁこいつはこいつで化け物だし、自信があるのも仕方ないんだが。
これは熱いな! 俺もちょっとワクワクしてきたよ!
さてさて、どちらが勝つのか!?
これにてもう一つの激戦が繰り広げられる───
◇◆◇
空中戦では蹴りはほぼ無意味であると理解しているデヴァは、一方的にラアに拳を振っていた。
対するラアは余裕そうだ。
平然とした顔でデヴァの攻撃を全て流している。
デヴァはひたすら殴りを入れるが、これもここまで簡単に受けられては、無意味に思われてくる。
そしてピタリと動きを止めたデヴァ。
「うん? どうした?」
「いえ……」
ラアは固まってしまったデヴァを気にせず話続ける。
「まぁでも、君強いね。認めるよ、実力を。これはお世辞でもなんでもないから」
これはデヴァとしては嬉しいことだった。魔王に実力を認めてもらうなど、普通なら無い。だからデヴァは心から感謝の気持ちを伝える。
「光栄でございます。ラア様。私のような者にお褒めの言葉を───」
「うん、まぁ? てことだから、君にはちょっとだけラアの本気を見せてあげるよ!」
「おおお! 光栄でご───」
デヴァが言い終わる前に、ラアが動く。
「ラアが何も策を考えていないとでも思った?」とだけぴしゃりと言い放つと、デヴァを囲むように無数の炎が出現した。
そう、ラアは戦闘中に空中にこれを準備していたのだ。
その炎はやがて青くなり、激しさを増してゆく。
「爆円命中!!!」
ラアのその合図で、中に浮かぶ青い炎たちはデヴァに向かって光線となって走り出す。
「な………ッ!?」
デヴァはこれでもかと焦がされる。が、それはデヴァには通じなかったようだ。
「素晴らしいッ!!! 素晴らしい威力だッ!!! まさかこれほどとは……私も少々舐めておったようだ……。しかし! 私だって無策なわけがないでしょう?」
デヴァは一瞬にして丸焦げにされた体を再生し、ラアへと向けなおる。そして、パチンッ! というデヴァの指ならしを合図に、ラアと同じような炎を出現させた。
「まさか私と同じような罠を仕掛けてくるとは、思いもしませんでした。本当に驚きましたよ。なので、とっておきを見せて差し上げましょう!!!」
ここまで言われてもラアの顔色はぴくりとも揺るがない。
はじめは内心驚いたものの、デヴァごときの魔法で自分がやられるわけがないと確信を持ち、冷静さを取り戻していたのだ。
しかし、決して威力が同じというわけではない。衰えている場合もあれば、強化されている場合もあるということを、ラアは忘れていた。
「爆円命中!!!」
ラアを囲む炎たちは、彼女に向かって全速力で走り出す。
起動は真っ直ぐ、ターゲットだけに集中している。そのスピードは眼では追えぬ、爆速。
ラアは守る必要もないと判断し、無防備なままだ。
その考えが甘かった。
「なっ、なにこれっ!? ラアより高威力って、どうなってんのよぉぉ!?」
馬鹿の嘆き声とはこういうことか、とデヴァはラアを嘲笑う。
ラアは全身丸焦げにされ、地面へと落下してゆく。地につくギリギリのところで軌道を変えてなんとか空中に戻ってきたが、とても困惑している様子だ。
「や、やるな……。ラアも油断しすぎたみたい。最近の敵が弱すぎて……」
などと言い訳を付け加えながら、体を再生させていく。それでも服は修復出来ない。真っ黒だ。
こうなったら仕方ない───と、ラアは決意する。
「もう本当に本気を見せてあげる。感謝してね」
可愛らしい無邪気な笑顔を浮かべ、その身体を光が包む。
デヴァは、おおお! と喜びながらその光景を眺めていた。
ラアの本気戦闘形態。
「あーよかった。こういう時のためにもう一個の戦闘服用意しといて」
漆黒の鎧がラアの体に、パズルのようにくっついていく。
一見重そうに見えるが、それはとても軽くて動きやすい。
幻級を越えた謎の装備。
「漆純神護」
ラアの隠れた兵器である。
「うーん、久しぶりに使うからか、なんか慣れないなぁ……これじゃあ本気出せないかも?」
デヴァは目を輝かせてラアのその装備をまじまじと見つめている。
「す、すすす、素晴らしいッ!!!」
もう人生十分楽しめた奴の顔をしており、体は喜びで崩れ落ちている。
おかしな奴ね……とラアは面白がる。
「さてと、行くよ!」
その瞬間、ラアが一気に間合いを詰めた。
一秒もしない内にゼロになり、拳に握り締められた剣が陽の光に反射して光輝く。
剣は振り下ろされる。
また一秒後、その場にガギンッという耳に響く金属音が鳴る。
ラアの剣と……デヴァの右腕が激突した音だった。
「はぁ……君の腕硬すぎるでしょ」
ラアも文句を言いながら次なる攻撃へと行動を移す。今度はラアが攻撃一方という状況になった。
この間にまた爆円命中を発動させても、もう相手には通じないと理解しているラアは、次なる手を思案する。
デヴァも冷静に状況を分析し、次なる策を思案する。
「ラア様ばかりが本気を出していては戦いがつまらない。ならば私も本気を出そう!!!」
だんだんと言葉が通常通りになっていくデヴァだが、この状況で気にする者などいない。
ラアも何も気にしていないようだ。
そしてデヴァはさらなる身体強化を施す。限界まで、いや、さらにその上……限界を突破していく───
「まぁ、嬉しいわ」
ラアも面白そうにその様子を眺める。
ここで、両者ともに本気の形態での戦闘となる。
もう負けた時の言い訳などきかない、最初で最後の最強の戦いが今、始まる───
◇◆◇
まさかここまでとは思わなかった。
この男、何者だ?
名前名乗ってくれないし、思い出せない。そもそも、こんな男が配下にいたかすらも覚えていない。
唯一強いということだけが判明している。
ルリオ相手にここまで互角に戦える者など、俺とシラス以外にもいたとは……と、俺はその男の実力を心から認める。
まさか、俺の配下にこんな隠れた才能がいたとは……と、今更思う。こいつがあの時、ルリオと決戦をしたあの時、そばにいてくれればと思うと、本当に悔しい気持ちになる。
「フンッ、なかなかやるではありませんか? ルリオ?」
その男は、ルリオを知っているようだ。ようだというか、そりゃあ知っているか。そもそも、知らない奴の方が少ないんじゃないか?
「おん、お前も…な? シラス以上に厄介だよ」
おお、ルリオもこの男の実力を認めた! やっぱり、この男、只者じゃあないみたいだね。
二人は睨み合い、間合いを詰め、また激突する。さっきからその繰り返しで、がむしゃらすぎてまるで策を考えていないようだ。
目の前の敵だけを見据えているその瞳は、興奮一色であった。
敵の武器は槍で、ルリオは剣。この組み合わせも見物である。だが、ただ見ているだけではただの鑑賞だ。ここは戦場である。
俺たちはルリオの戦いにお構い無しに、バディオルド達に集中しなければならないのだ。
そしてもう一方ではまた新たな戦闘が始まる。
今現在、戦場は大乱戦となっていた。
「ルリオッ!!! これはどうだぁっ!!!」
その男は、槍を持ち手を中心に回転させ、ルリオに向かって高速で突く。回転した槍をルリオはなんなく剣で受けてみせた。
両者引きをとらない。
「おお、今のを受けるとは……やはり楽しいな! ルリオ!」
こいつはルリオとの戦いを楽しんでいるようだ。でもルリオは嫌そう。
「あん、お前は強いよ。まじ何者だ?」
ルリオはここで相手に質問を投げ掛けた。
その質問に、男は槍を振り回しながら答える。
「ここまで来たら仕方ないな。私の名はルファーニ。魔王軍でのバディオルド様リリオルド様の部隊所属で、少将だ」
「ルファーニ、か。頭に忘れないよう刻んでおくよ」
「おうルリオ、私も忘れないようルリオのことを頭に刻んでおくとしよう」
戦闘中に楽し気な会話をしているが、身体は目の前の敵を殺すためだけに動いている。
武器が回り、敵を突く。それを流すようにして受ける剣。
その場には金属音しか練り響かない。だがその金属音が一つの音楽のように奏でられる。
楽し気なリズムを刻み、揺れる。
そのリズムに乗るのは二人の戦士。
しかし、リズムはそこで止まる。また新しいリズムが生まれる予感───
ルリオはこのままでは埒が明かないと判断し、ルファーニとの距離を取った。そして無詠唱魔力弾を次々とルファーニに投げる。
その魔力弾もルファーニに弾かれ、リズムを刻む。
(これも無意味か…)
ルリオは今までさまざまな攻撃を繰り出し、策を必死に考えていたが、その全てがルファーニによって粉々にされた。
ルリオは全ての手の内を晒してしまったので、残されたのは最後の手。
「滅魔───ッ!!」
それはルリオの能力「正義勇神」の権能魔法の一つ。魔に対する耐性が爆発的に上昇し、魔に対してめっぽう強くなる。
さらにこの能力を発動すると、同時に自身の聖の力が爆発的に増幅する。
勇者のルリオにとっておきの能力であった。魔に対して最強の能力と言っても過言ではないだろう。
「嘘だろ……この能力が使えた奴がまだッ!?」
ルファーニは冷静さを失い、驚愕の表情一色になってしまう。そんなルファーニを置き去りに、ルリオはそのまま攻撃を繰り出す。
いける! という確信を持ち、その身を持って全力でかかる。
「まてまてっ!? そんなの私でも無理ですってッ!!!」
ルファーニはもうさっきまでの余裕さなど無い。完全に焦っており、状況の分析も追い付かず、逃亡という手段に出る。
もちろん、そんなルファーニを逃がすルリオではない。逃げたルファーニの首めがけて、飛び付いた。
「グハッ……ッ!!」
ルファーニは首を一刀両断され、血を吹きながらその場に倒れ伏す。
ルリオの完全勝利であった。
「その能力は、我等魔人が……封印したはずでは……?」
ルファーニは首を切り落とされても、最後に必死になってルリオに問う。だが、そう気安く答えてくれるルリオではない。
「実力だよ」としか言いようがなく、それ以上何も話そうとしなかった。
そして、ルファーニはこの世から散って行った。
「久しぶりに楽しめたよ」
ルリオが最後に残した言葉は、本物である。
コマ送りのようにあっという間に終わった。
最強と才能の決戦が、ここで幕を閉じる。
◇◆◇
ルリオとルファーニの戦闘を、レイード達を相手にしながら横目で観察していたバディオルドは、まさかの事実に息を飲む。
ルファーニの強さだ。
あれは異常というレベルではなく、自分よりも強いと確信し、下手をすればデヴァよりも強いのでは? という疑問へと至る。
あのルリオと互角以上に戦えていたことから、魔王級と言っても過言ではない。
そんな隠れた才能が自分の軍にいたとこの状況で気づいたので、驚きというより、呆れという気持ちの方が高かった。
そもそも、あのウォスという化け物の「核心崩浄」から一人生き延びていた時点でおかしかったのだから。
その気持ちはリリオルドも同じである。
ルリオに圧倒的な実力の差を見せつけられたリリオルドだから、その気持ちはバディオルド以上だ。
(おいおい、嘘だろ? 僕より強いってか)
少し悔しさをにじませるほどである。
それでも、勝利への道は遠く感じられた二人だった。
ルファーニも強いが、ルリオに勝てるかはまだ分からない。
デヴァが今、どうなっているかも分からない。
自分達が今相手しているレイード達にだって勝てる自身はない。ましてや、ウォスがそこにいるのだ。
「核心崩浄」を使ったからか、全力は出せていないようだが、それでも強さの限度は計り知れない。
二人の兄弟は絶望する。
こうなってしまっては撤退は許されない。
どうにかして相手するしかなかった。
しかし、そんな二人に天からの助けが舞い降りる。
「お前ら、何してるの?」
上から目線で堂々とした喋り方をして登場したその美女は、魔王リオルクシの側近で右腕、メイピスその人である。
彼女はバディオルド達とレイード達の間に、割り込むようにして顕現した。
メイピスは黒スーツのままの姿だった。その完璧なまでのスタイルを見せつけるような、キュッと引き締まったスーツだ。
「す、すみません。私た…」
バディオルドが全て言い終わる前に、メイピスが首を絞めて止める。
「もういい。下がってて」
もう用ナシとばかりにピシャリと言い放つと、バディオルドを放した。
乱暴ではあるが、バディオルドからしたらこの状況下ではメイピスは女神である。至極当然とばかりにメイピスに言われた通りに、後ろへ下がる。
メイピスがこの戦場に現れたことで、形成は一気に変化することになる。
本当の化け物とは何かを、理解させられることとなる。
◇
おいおいおい、ここまでくると呆れるわ。
もうこれは勝ったと思わせといて、奥の手登場ですか。
しかもメイピスだよ。最悪だよ。そりゃちゃんと覚えているに決まっているさ。
側近だったし。
レイードや他の一緒にいた冒険者達も、メイピスの圧倒的な覇気に気圧されている。
「もういい。下がってて」
メイピスがバディオルドとリリオルドを下がらせ、一人で前に出る。
さすがに無理だわ。
俺は直感で敗北を感じ取った。
ここまできて、ベレリオル軍は絶望的な状況に落とされる。
「ほんっと、使えない駒ね」
ラアほどではないが、その美貌に似合わぬことを言う。
俺は内心ため息を吐きつつ、戦える構えを取る。
この時点で戦闘は始まっていた。
次の瞬間、メイピスが眼に追えぬ神速で動く。一秒もたたぬ内に、レイードと他数名が殺られたのだ。
は……?
俺は何が起きたのか理解できずに、その場に何も出来ずにぼーっと突っ立つ。
そして目の前にメイピスが出現する。
あ、終わった…
気付けばメイピスのその手には長剣が握られており、今の俺では到底追い付けない速さで、その剣は振り下ろされる。
───しかし、俺が死を覚悟したその瞬間。
目の前に一線の抜けがない、完璧なまでの構えを取れた美少女が、俺の目の前に現れる。
少女は、長い髪の毛を後ろに伸ばし、上下よく分からない青いダボダボした物を着ており、その手には長刀が握られていた。
ガギンッ!
という金属音がしたあと、俺は救われたことに遅れて気付く。
「大丈夫…そ?」
少女はタキカワ・アユと名乗った。恐らく同行していた冒険者の一人で、細かいことはあまり知らないが、この戦いが終わったら話しかけてみようと思った。
「ふん、今のを止めるとは……人間にしてはやるじゃない?」
「うーん、まあまあ?」
少女とメイピスは睨み会う。
そして二人の戦闘はいきなり始まる。それは、今までで見たこともないスピード戦だった。
両者光の速さで動き、激突し合う。
天と魔の頂上決戦……それも、俺とルリオの戦いみたいな。思い出したくはないが、それっぽいなと俺は思う。
まさかの隠れた才能は、我が軍にもいたというわけだ。
俺は安堵のため息とともに、その場から一歩後ろへ下がる。
もう、疲れた。自分のやるべきことは全てやれたと俺は自負する。
後は勝手に暴れて構わない。
ちょっと俺は休憩ということで、メイピスとタキカワ・アユの攻防を後ろから見守りつつ、タキカワのほうの援護をしようと思った。
そして、全ての決着がもうまもなく、片付くことになる───
最後までお読みいただきありがとうございます。
前書きにも記した通り、長くなりました!
でもかなりのスピード感があったと思います(?)
戦闘シーンも一瞬で終わらせたし!
その分面白くなっていたら嬉しいです…!
よかったらブックマーク登録、評価よろしくお願いします。
今回こそは決着をつけようと思ったんですけど、ぜんっぜん無理でした(笑)
あと三話くらい続くかもしれないです。
………………。
頑張ります!!!