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迷鬼 6




「平太……!」



 懐かしい姿を見て笑みがこぼれた。



「ああ、よかった。やっと見つけたぞ」



 平太も顔をほころばせる。

 平太は村にいたときと変わらない身なりだ。都者からすればみすぼらしく見えるだろう。きぬが話していた客人とやらは、やはり平太だったに違いない。



「どうしたの? どうやって、ここに」


「探したに決まってんだろ。どれだけ探し回ったかわかんねぇよ」


「私を……?」


「それ以外にどうして俺が都になんぞ来るか」



 ──ああ。

 なんと懐かしいのだろう。

 ひなは久方ぶりに、故郷の匂いを嗅いだような気がした。



「ほら。帰るぞ」



 あまりにあっさり言うので、ひなはうなずきかけて、目を丸くしてしまった。



「……どこへ?」


「どこって」



 平太は平太で面食らった顔である。



「お前、こっちに来て頭がおかしくなっちまったんじゃねぇか? 村に帰るんだよ」


「だって……そんなの」



 それこそ無理に決まっているではないか。



「帰りたいだろ。お前のおっとうとおっかあもいるんだぞ」


「そりゃ、村は恋しいわ。おっとうにもおっかあにも会いたい。でも」



 そういう──問題ではないのだ。



「私はもう、村の人間じゃない。ここに仕える身よ。この家の人間になったの。それに……あそこへ帰っても、迷惑をかけるだけだもの」


「俺がなんとかする」


「なんとかって、どうするの?」


「それは」



 平太はそこで口をつぐんだ。右手で口元を覆い、暗い目をして何やら考え込んでいる。

 幼馴染のそんな目を、ひなはこれまで一度も見たこともなかった。なぜだか急に恐ろしくなり、足が勝手にうしろへ下がろうとする。



「平太、何を考えているの……?」


「いや」



 手を下ろし、平太はかぶりを振った。



「それより、まずは逃げよう。ここの主は俺の手に負えない」


「主って……黒埜様?」


「大丈夫、村のことは俺がぜんぶなんとかするから」


「でも、平太。あなたさっきから──」


「早く!」



 おかしい。

 玉砂利のうえで地団太を踏まんばかりに焦る平太を、ひなは不思議な気持ちで見つめた。やっぱりおかしい。戸締りのしてある屋敷に、平太はどうやって入ってきたのだろう? いやそれ以前に、なぜこの屋敷を探し当てることができたのだろうか。

 そして──

 どうして、庭の真ん中からこちらへ近寄ろうとしないのか。



「ひな、いい加減に──」



 声がやや険呑になりはじめたところで、平太はぎくりとしたように固まった。

 ひなも気配を感じてうしろを見る。

 気がつけばすぐそばに──

 懐手の黒埜が眠たげな顔をして立っている。

 あまりにも唐突なことだったので、二人とも言葉を失って立ち尽くした。まるで逢引の現場を見つけられたかのような。



「こんな時間に来るとはな……」



 黒埜はごしごしと目をこする。まったく迷惑なことだと言わんばかりだ。

 ひなはとっさに頭を下げた。



「お、起こしてしまい申し訳ありません。あれは私の」


「花婿を殺したあやかし、だろう」



 ──え?


 息が止まる。

 意味がわからず、ひなは呆然と目を上げた。

 黒埜はなんでもなさそうな顔で平太を一瞥し、呟く。



「言っただろう。俺の役に立てば……そいつを祓ってやらんこともない、とな」




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