迷鬼 2
「それにしても──」
四つめの団子を頬張りながら、百花は物思うように首をかしげる。
「大首ってのは、どうして呉服問屋になんか潜り込んだんだい?」
「え?」
「いくら記憶を操る物の怪と言ったって、あすこは面倒じゃないか。宗右衛門も善三も、誠二郎から話を聞いていたんだし。それだったら、ぜんぜん違う家のほうが都合がよいだろ」
「あらまぁ、そんな妖怪がいるんですか」
きぬは湯のみを抱えて目を丸くした。
人の記憶を塗り替え、家に潜り込む恐ろしい妖怪。
大首。
今となってはいると言うより、いた──と言うべきか。
「それにあたいだったら、もっと大店を狙うけど」
「うーん」
ふぅふぅと熱い番茶を冷ましつつ、銀狐は苦い顔つきをする。
「あいつの目的はおゆきちゃんだったからなぁ……」
「ゆき? あの誠二郎の娘?」
「そ」
「小さい娘が食べたいだけなら、そこらにたくさんいるだろ?」
「物騒なこと言うねぇ、百花姐さん。でもおゆきちゃんみたいな子はなかなかいないと思うよ。あの子は何しろ──」
あやかしの伽、だからさ。
「えっ」
驚いて声を上げたのはひなだ。
「おゆきさんが、あやかしの伽……?」
あの子が──
自分と同じだというのか。
「ま、おひなちゃんほどじゃないけどね。とにかく大首はその味を覚えちまって、忘れらんなくなっちゃったんだぁな。誠二郎に切られて焼かれて、それでも諦めきれなかったくらいだからね」
「ふぅん。じゃあ……こっちの伽でもよかったんじゃない?」
百花は不敵に笑いながらひなを見る。
すると、銀狐はあっさりうなずいた。
「うん。それが夜一郎の作戦だったのさ」
「作戦、ですか……?」
「まず、おいらたちはおゆきちゃんに会ったろ。そんときおゆきちゃんの脈を測るふりして、夜一郎は枕の下に護符を仕込んだのさ。それだけであやかしを防ぐことはできないけど、手が出しにくいのは確かだし、さらにおひなちゃんがすぐ近くにいるわけだろ? おいらが一目で惚れ込んじまうような強力な伽がさ」
「はあ」
うなずきながら、ひなは感心してしまう。
つまり──
あの家に入った瞬間から、自分は囮であったのだ。
「怒るなよぅ、おひなちゃん。うかつな隙を見せない相手だって、事前にわかっていたからね。他に打つ手はなかったんだよ」
「いえ、怒っているわけでは……」
「本当? そんならよかった。しかし、まぁ……運が悪いというか、うまくいかなかったんだよね。おひなちゃんの力が強すぎて、あの化け物奥さんが引っかかる前に、別のあやかしを引き寄せちまった……誠二郎だ」
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