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首は躍る 7




 怪異の正体がわかりましたと、宗右衛門の元に知らせが入ったのは翌日のこと。

 その日の夕刻、母屋の座敷には宗右衛門、お夕、滞在中のひな、そして再び訪れた黒埜と銀狐の五人が集まっていた。



「おゆきさんの具合はどうですか」



 黒埜はまずそう尋ねた。



「……相変わらずで」



 暗い声で宗右衛門が答える。



「では、ひどくなってはいないのですね」


「それはそうですが」



 よくもなっていない。

 気が気でないのだろう。顔は青ざめ、憔悴している様子だ。それは誠二郎の位牌を見た衝撃が残っているせいもあるだろうと、ひなは思った。



「それで……正体というのは」



 宗右衛門はすがるような目で黒埜を見る。隣の夕も不安げに眉をひそめた。

 黒埜はうなずいて、



「ですが本題に入る前に、ある兄弟の話をしましょう」



 そう言った。



「兄弟の話……?」



 宗右衛門の顔はますます青ざめる。が、大店の主人としての誇りがそうさせるのか、居住いだけはきちんと正し、話に聞き入る姿勢となった。

 それを待ってから、黒埜は静かに語り始めた──



「その兄弟……兄は呉服問屋の跡取り、弟は兄より九つ下で、五つのときに養子に出されております。弟が出された先は親戚の染物屋でした。染物屋の夫婦は子宝に恵まれず、養子を迎えたのは跡取りにするため。こうして離ればなれになりながらも、兄弟は互いに似た境遇、店の跡目として成長していきました」


「ところがどっこい」



 銀狐が合いの手を挟む。



「性格はちっとも似なかったんだな」


「兄は両親に厳しく躾けられ、謹厳実直、まじめを絵に描いたような男に育ちましたが、弟のほうはと言えば……染物屋の夫婦にちやほやされて育ったせいか、酒に博打に女にと、それこそ絵に描いたような放蕩者。染物屋のみならず、実家の呉服問屋にも顔を出してちょくちょく金をせびっていたようで。実の親は頑として貸しませんでしたので、金を出していたのは兄でした。

 兄もまじめな男ですから、そう簡単に遊ぶ金を渡していたわけではないでしょう。あるいは弟が、自分は兄のいるせいで養子に出された、さびしい思いをしてきたのだと、そういう泣き落としでも使ったのかもしれません。兎角、家族の情に弱い兄は弟に頼まれると断り切れず、幾度も金をやっていたようです」


「ははぁん、だめな兄弟だねぇ。弟は言うまでもねぇが、兄も甘いったらないや」


「ところが年を経れば事情も変わります。呉服問屋の両親が病を得たのをきっかけに隠居、兄が店を継ぐことになった。いざ店の主になってみると、これまで以上に金のありがたみが身に染みたんでしょう。いつものように弟がせびりにきても、兄は金を貸さなくなりました。それに憤慨した弟は、兄弟の縁を切るだのなんだの喚き散らし、揚句、家に籠って浴びるように酒を飲むようになったそうで」


「どうしようもねぇ弟だ」


「しかし、そんな弟にも転機がやってくる。とある女に……惚れたんです」




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WEBTOONコミック版→https://www.cmoa.jp/title/270928/

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