首は躍る 6
夜道に。
先ほどまで善三と話していた美女が立っている。
猫目に涙黒子の──百花である。
その隣には、やはり先ほどの笠をかぶった坊主。
坊主は大きな杖を楽しげに振りまわしては、軽快な足取りで百花の周りを行ったり来たりしている。
「へへ、うまくいったね! さすがは百花姐さん」
「あんたもなかなかのもんだったよ」
「誠二郎の姿があそこまで効くとはねぇ」
言いながら大きな笠を取り、坊主の格好をした銀狐はニカリと笑う。老爺ではなく、二十かそこらの若者である。
それを見て、百花はちょっとあきれたように息をついた。
「よくもまぁ、そうコロコロと顔が変わるね。見ているこっちは気味が悪いよ」
「そりゃひどい言い草だ。百花だってコロコロ変わるじゃんか」
「あたいは化粧と演技だもの。化け狐と一緒にされちゃかなわないわ」
「おいらにとっちゃ、化けるのなんて朝飯前さ。そっちこそ人間の癖に変化するんだからおっかないや」
「あんたも口が減らないねぇ」
そんなことを話していると、道の向こうから黒塗りの駕籠がやって来た。駕籠を担いだ与吉と六助が、いつもの通り顔色ひとつ変えず走ってくる。
「大将のおでましだぃ」
銀狐はひゅるりと口笛を吹いた。
二人の前で駕籠は止まる。小窓が開いて黒埜が顔を覗かせた。
「……どうだった」
「万事うまくいきましたわ、夜一郎様」
「御苦労だった」
「いえ」
百花は恥じらうように肩を縮めて、頬をほんのりと染める。
「あ、夜一郎! おいらも! おいらのことも労ってくれよぅ」
「お前は誠二郎を逃がしたからな。これで帳消しだ」
「……ちぇっ」
雲間から、すぅと十六夜の月が顔を覗かせる。
月光は彼らを青く照らした。
「これでようやく手札が……そろったな」
黒埜の眼が獲物を捕らえたように光る。
そのあやかしのごとき美しさを、百花はぞくりとしながら見つめていた。
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