1 ノルマはこなしているのに、なんで追放まがいなことを!手首も切られるし!
まえがき 異世界物で、王道的な感じ。
「ジャドは目立たないけど、頑張っているやつだ。真面目で仕事もきちんとやる男だ」
まさしく縁の下の力持ち。それがオレに対する、周囲からの評価だ。
魔物や災害から人々を守るギルドで仕事をしていて、上のようなことは何度も言われてきた。周りともコミュニケーションを取り、師匠から与えられている魔力トレーニングも欠かしたことはない。
だから、目の前のギルドリーダーの話す言葉に目を見開いてしまったんだ。
「お前、そろそろギルドから抜けてくんない? こういうこと言いたくないんだけどさ、ちゃんと仕事してくれないか」
「えっ……ちょっと、どういうことだよ。なあコーク!」
エイオンというギルドで、リーダーとして大活躍のコークは不満をオレにぶつけてきた。でも理解は出来なかった。ギルド内のノルマはこなしてきたし、周りから特別嫌われる理由もない。
意味がわからなくて声を荒らげてしまったせいか、周囲から視線を感じた。いや突き刺さってきた。オレを心配する感情でなく、コークに何かあったら殺すという感情を。
「ハァ……まあまあ落ち着けよ。これでも温情かけてやってるんだぞ? 30歳の無能を自主的に辞めさせてやるんだ。優しすぎるだろ?」
「そ、そんな……ノルマだってこなしているし、ちゃんと頑張ってきたはずだ……!」
そうだ、オレは頑張ってきたんだ。ギリギリでもちゃんとノルマは終わらせた。周りははスピードに終わっているけど、なんとかノルマはこなした。
「まあ頑張りは認めるぜ? お前のおかげでギルドも大きくなったな。今や全ギルドで2位、まさしく縁の下の力持ちってところだ。……他の連中がやらなかっただけだ」
やらなかっただけ、それってオレは必要じゃなかったってことか? そんな……
「退職金は出してやるよ。地元に帰って休みな? お前じゃなきゃいけないって仕事はないからさ」
人を小馬鹿にするような態度をしながら、コークは何かが入った麻袋を差し出した。震える手で受け取り中を見ると、金貨が6枚程度が入っている。一人暮らしなら残りの人生を楽しめるくらいだ。
でも納得は出来ない。麻袋をそのまま手を滑らってしまい、木で出来た床にまっすぐ落ちた。
「待てよ! ほら、ギルド創設メンバーじゃないか! 役に立つか……ら」
コークに掴みかかった瞬間、オレの手は切り落とされた。魔物討伐でもここまでの怪我はしなかったのに、ギルド仲間に、コークの囲いに切り落とされてしまった。
手は、傷だらけで豆だらけ。勲章のようなものだったのに、一瞬で切り落とされた。
「汚い手でコーク様に触れるな。さっさと金を貰って帰れ」
切り落とした人物は、創設期にいたレイナ。何年も一緒に居た仲間なのに……
「あ、ああ。オレの手が」
「レイナー、それだとギルドが汚れちまうだろ。ほれ、ガーネット。ヒールかけてやれ」
「了解です! こーく様!」
ヒール、と聞いたときには手はくっついていた。傷は治ったけど、頭がうまく動かない……床には新しい血が残っているから、血までは治してくれなかったみたいだ。
「穏便に終わらせたかったんだがな。んーまあ、しょうがないか。床も汚れたし取り替えないといけねえ。もう面倒いから、テレポートでどこかに飛ばすぞ?」
まばゆい光に包まれると、ズシンと重い感触がした。目的地に達したらしい……ちょっと廃れているような町だ。
眠たい。痛い。うぅ……倒れて、うつ伏せで泣いてみた。泥が顔について気持ち悪かった。でも、今だけは泥が優しく思えた。