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(仮)犯人当てを趣味にしているニートには霊視の能力がありました  作者: ゆずさくら


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エア・ベースボール

 梁巣は苦戦していた。

 霊力を使った戦いは得意だが、実際の体をぶつけあう格闘は不得意なのだ。

 いや、不得意では済まない。そもそも格闘経験がない。梁巣の育った時代は、暴力自体が絶滅状態で、もし梁巣がヤンキーとして育ったとしても、喧嘩をしたことはなかったろう。

 一方で、サングラスの男の一人は、組織の中で格闘の訓練を受けていた。その上、構成員として共に行動する中で、幾度となく暴力を行使する様を、目の前で見てきたのだ。訓練、実行、経験値が高い、暴力のプロなのだ。

 梁巣は格闘から逃げたり、避けたりで精一杯で、合間を狙って撃たれる霊撃に反撃できない。

 ジリ貧だ……

 梁巣はそう思っていた。

 そもそも角田が現れる前、足を石畳に固定した時に、決着がついているはずだった。

 片足を地面に埋められた男に背後から近づきながら、蹴り返され、組み合ってしまった。

 至近距離から拳を叩き込まれ、腕を振り払って逃げるのが精一杯だったのだ。

「ほら、伊勢いい言葉はどこいった」

 スーツの男は言い終わりに、ハイキックを繰り出す。

 梁巣は軸足の下の地面から気を引き出し、性質を変える。

 しかし、それに気づかれると、男はハイキックで蹴り出した足の反動を利用して、軸足を宙に浮かせた。

「フッ、見え見え(・・・・)なんだよ」

 モノから『気』を引き出すためには、精神の集中が必要だった。位置や空間の把握も大切で、どうしてもそこを見てしまう。

 明確な体の動きは、格闘経験の豊富な相手に読まれてしまう。

 今ここでこの弱点を克服することが出来るだろうか。

 梁巣は焦った。

 ダッシュして間合いを詰めようとする相手の中心をぼんやり見つめ、踏み出す足の下を液化させようと、『気』を引き出す。

 男は液化した石畳を無視するかのように走り続けた。

 やはりだめだ、性質を変える場所が広がって、効果が低くなっているのだ。梁巣は諦めたように立ち尽くした。

「!」

 男の拳が、梁巣の顔面を捉えた…… はずだった。

 堂島が男の服を掴み、引き止めていた。

「だめです、諦めちゃ」

 スーツ男の後ろ蹴りが、堂島の腹を捉えた。

「まさか追いつきゃしねぇだろう、と思ったんだが」

 堂島は痛みにのたうち回る。

「お前をフリーにしとくのはまずいな」

 梁巣はスーツ男が堂島を踏みつけようとする瞬間を狙って、足下を液化させようと構えた。

「しまった!」

 梁巣はもう一人の黒スーツから霊撃を受けてしまった。

「忘れてもらっては困る」

 堂島はスーツ男に腹を踏みつけられた。

「おっ? 少しは鍛えてんのか?」

 堂島は、腹に力なんて入れてない。ただ踏みつけられて痛いばかりだった。

「じゃあ、これならどうだ」

 スーツ男が再び足を上げ、堂島の腹に振り下ろした。

 痛みが体を走り抜ける。

「どうなってんだお前の腹は」

 堂島が感じているものと、スーツ男が感じている感覚に隔たりがある。

「お前の腹は固すぎるな。やり方を変えて、顎を蹴り抜くか」

 右足を引き上げようとしているが、足は上がらず、堂島の腹に乗せられたままだった。

「な、なんだ、どうしたんだ……」

 今度はスーツ男の軸足の下が液化した。

「堂島、すぐそこを離れろ!」

 梁巣の声を聞き、堂島は横に体捻るようにして転がった。

「またやりやがったな」

 梁巣は性質をもとに戻す。

 左足の付け根までしっかりと石畳に食い込んだ。

 右足も伸びた状態で曲げれない。

 相手の一人を完全に無力化した。

「ありがとう!」

「それはこっちのセリフだ」

 言いながら梁巣はもう一人、サングラスの男と対峙する。



 光頭の男は、ボールを投げるかのように腕を振った。

 投げられた方向にいた、藤井は体を傾けて見えない何かを避けた。

「この力はどう使うんだ」

「俺にやらせてみろ」

 腹の出た男は、藤井に向かって手を上下に、波のように動かしてみせた。

 何かが発せられたのかも、見えない。

「何にもならねぇ」

「今度は俺だぞ。強くイメージをすればいいのか?」

 光頭の男は左手と右手をクロスさせるようにして、左手でトスをすると、左手に右手を合わせて降り出す。野球の練習でノックする要領の動きだった。

「!」

 藤井は左腹に衝撃を受けた。

 野球の動きをされると何がどうなっているのか、全く想像がつかない。藤井は腹を押さえながら思った。

 光頭の男は、腹の出た男にいう。

「行ける! お前も野球でいけ」

「おう」

 体を捻りながら両手を引くと、足を踏み込み、両手を強く降り出した。

 いつ力が繰り出されたかがわからない。その軌道も予想がつかない。

 藤井は、大きく避けるしかなかった。

 二人が連続して霊撃を繰り出し始めると、藤井は逃げ回るだけで攻めに回れない。

「やめてください!」

 腹の出た男が、片足を上げたところを丸山は突き飛ばした。

 男はフラつきながら、光頭の男にぶつかった。

「何すんだ」

「こいつが押すから」

「おい、そいつはお宝女じゃねぇか。こいつを連れ出せば俺たちの勝ちだ」

 光頭の男は丸山に近づく。

「そっちからこっちに近づいてくるなんて」

 藤井は、二人の様子を見て『エア足払い』の動きを仕掛ける。

「お前のことは忘れてねぇんだよ」

 腹の出た男は藤井に向かってバットスイングのような動きを見せる。

 藤井も気づいて大きく避けた。だが、顎に強烈な打撃を受けてしまった。

「グランド状態によってはイレギュラーなことも起こるってか」

 藤井は、不意の霊撃を受けてひっくり返ってしまった。

「おい、女を連れ出すのを手伝え」

「一人で頑張れよ。俺はこっちの女にとどめをささなきゃならない」

 光頭の男は無言で返して、丸山の腕を背中の方に捻りあげ、公園の外へと歩かせ始めた。

 堂島の中に、藤井の考えが浮かんできた。

 思い出す。

 藤井と透が、一緒に遊んでいた子供の頃の話だ。ESPカードと言って簡単な絵柄が書いてあるカードを、見ずに言い当てるゲームがあった。兄と三人で遊んでいた時、僕はこんなふうに全て玲香の意志が伝わるせいで、全てを正確に言い当てることが出来た。

 兄には玲香の考えが聞こえない。だから僕はそのことを説明しても、兄は信じなかった。

 そして、『絶対にタネがある』と言って何度も、何度もやらされたのだ。

「丸山さん!」

 堂島が光頭の男を追いかける。

「丸山さん、イメージするんだ。丸山さんはその通り動ける」

「……」

 顔だけひねって、丸山は堂島の方に振り向いた。

「本当だ。パワーはあるんだ。行ける」

「何言ってやがんだ」

 光頭の男は丸山の足を払って倒し、近づいてくる堂島に向き直る。

「至近距離から死のノックだ」

 右手のトスを思い切り叩くと、走っている堂島は避けきれずに腹に霊撃を受けてしまった。

 光頭の男は言った。

「さあ、立ち上がりな」

 振り返ったところに、丸山の人差し指が伸びてきた。

 丸山は倒れていなかったのだ。

 憑かれたような遠い目をしたまま、ゆっくりと手を伸ばす。

 まるで吸い込まれるように、肋骨の真ん中を丸山の指が捉えた。

 触れた瞬間、光頭の男の何もかもが停止した。

「すごい……」

 膝をついて倒れている堂島には、光頭の男の霊気が全て、背後に飛び出して、消えていくのか見えた。

 丸山には除霊の能力はない。この力は藤井が丸山に向けて送り出しているものだ。つまり丸山がイメージし藤井の力を使って除霊したという訳だ。

 ただ死、丸山は無意識にその力を増幅して出力している。直撃された方は溜まったものではない。

 光頭の男は力が抜けたように倒れた。

 丸山は驚いたように言う。

「私、この人を殺しちゃったの?」

「大丈夫、突然、体の一部だったものが消えたから気を失っただけだよ」

「何だと!?」

 腹の出た男が振り返る。

「この女も術が使えるのか。ならば」

 腹の出た男は、お尻のポケットから飛び出しナイフを取り出した。

「連れ去れないなら『()れ』と言われているからな」

 ナイフの光に、丸山が気づいた。

 堂島は丸山の視線を追うと、同じナイフに気づいた。

「だめだ、そんなことさせない」

 堂島は立ち上がると、丸山と腹の出た男の間に入る。

「こういうときどうすると思う?」

 堂島は両手を左右に広げ、通さない姿勢を見せつつも、首を横に振る。

「お前から『殺る』んだよ!」

 視線が体の上にあり、堂島の後頭部と、腹の出た男を見下ろしている。

 まるで自分を客観的に見ているようだ。と堂島は思った。

 騒いでいるような声がするが、強い風が吹いているようで歪んで聞き取れない。

 上向きのナイフが堂島の腹を目がけて突き出される。

 だめだ、このままじゃ死んじゃう。

 せっかく由依さんに貰ったサインが破れて血がついてしまう……

 なんだ、ナイフが、遅いな、取れる、んじゃないか?

 堂島は両手で挟むようにナイフを取った。

 だが腹の出た男の勢いは止まらず、ナイフの先端がネルシャツのボタンに触れた時だった。

 堂島の胸と腹の間を中心にして、空間が光った。

 何かが存在する訳ではない。フィールドが展開された、と表現するより他がない。

 その光った空間が、ナイフを受け止めてしまった。

 腹の出た男はさらに力を入れてくるが、光った空間は前にも後ろにも動かない。

『このフィールド、長くは持たないわ』

 堂島はまだ奇妙な視点から自分の体を見ていた。

 姿も見えない相手の声、いや思考なのかもしれない。

『由依さん?』

 自分で言いながら、違うような気がしていた。

『いいからナイフを折りなさい』

 光っている領域が、急速に小さくなってく。

 折れるか分からないが、やるだけやるしかない。

 堂島はナイフを挟んでいる両手に力を入れた。

 腹の出た男と、堂島はもつれるように倒れる。

 腹の出た男にのしかかられ、堂島は背中を打ち、擦った。

「刺された! 堂島くんが刺された」

 丸山が声を上げた。

 藤井も甲高い声で叫んだ。

「透さん!」

 藤井は立ち上がり、堂島の下に向かう。




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