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(仮)犯人当てを趣味にしているニートには霊視の能力がありました  作者: ゆずさくら


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容疑者

 料亭で坂田の偽物と戦った日、堂島は由依にもらったサインのおかげか、無事に家に帰り着くことが出来た。

 北上の体につけてしまった『坂田が持っていた悪霊』は、藤井の手で、いとも簡単に取り除かれた。

 坂田は警察の半ば強引な令状に従い、警察に勾留された。

 複数かけられた容疑に対し、坂田は黙秘を続けた。

 なんとか坂田から証言が欲しい北上は、監視カメラの映像を洗い直していた。

 その映像を見ている時だった。カオナシ状態で映っているものの中に、坂田の顔がはっきり映っているものがあった。

「えっ?」

 北上は思った。この映像は、以前カオナシ状態で映っていたはずだ。

 なぜいま坂田の顔がハッキリ映っているのか。

 女子大生の不審死と、看護師が車道に飛び込んで自殺した際に収集した映像は、坂田の顔がハッキリ映っている。

 会社員が裏通りで撲殺された事件と、同じように公園で手も触れずに撲殺された事件は、カオナシの状態のままだった。全てに映っているスーツは、看護師の事件の際に聞いた坂田のスーツコレクションの一部だったから、同じ坂田の映像なのに、一部はカオナシ効果が消え去って、一部はまだ残っていることになる。

 北上はさらに監視カメラ映像を調べる。

 丸山が取材に大学に入った時の映像を見た。

 丸山が帰る時の映像を見ると、坂田の横には『丸山』ではなく、女子学生の顔が映っていた。

「……」

 このカオナシ効果が残っている、残っていない、の違いがわからない。

 何か、違いがあるのだろうか。

 そもそも一度録画された映像だとしたら、歪んだまま残っているはずだ。警察の中に誰か入って、証拠映像を誰かが改竄したのだろうか。

 北上は、不審に思い一度行った学生街のビルに行った。

 もう一度、オリジナルの映像を見れば早い。

「ああ、まだ残してますよ」

 北上は確認する。

 後ろから、警備員が映像を見る。

「あれ? その人でしたっけ。顔が歪んで見えなかった人。しっかり顔映ってますね」

 北上は腕を組んで考えた。

 実際の記録は、最初から歪んでいないのかもしれない。監視カメラの性能の問題ではない。おそらくだが、人が映像を見る時、人が感じる時に『歪む』のだ。

 その力が無くなった。

 だとすると、まだカオナシのように見える映像は、坂田ではない可能性がある。

 北上は急いで帰り、坂田の取り調べを申し込んだ。

 坂田も暇なのか、取り調べを受け入れた。

 いくつかのカオナシ映像が関わる殺人事件に関連する映像を印刷し机に並べた。

 坂田に内容を告げて、北上が右と左に分けていく。

「この意味がわかるだろう?」

 沓沢が入ってきて、机に並べた事件を眺めた。

「……」

「こっちは、あなたが起こした事件だ」

 印刷物を一つ一つ指して、内容を説明した。

 次に、反対側に並べた印刷を指で叩いた。

「だが、こっちは誰だ? 誰の犯行だ」

 坂田が一瞬、目を逸らした気がした。

 北上は一つ指差して、説明する。

「ある会社員が飲み屋街の裏通りで撲殺された。発見者と監視カメラの映像から、このカオナシ映像になっている男の犯行だと思われている。これが一つ」

 北上には、坂田の唇が青くなっていくように思えた。

「二つ目は角田議員の公園での街頭演説のあと……」

 机の下に下げている、坂田の手が震え始めた。

「公園内で撲殺された事件だ。監視カメラには坂田、お前が持っているスーツと同じものを着た男が、手も触れずに、公園で酒を飲もうとしていたその男をメッタ打ちにしている映像が映っている」

 もしかしたら、何か証言するかもしれない。北上は期待した。

「この違いは…… あなたなら分かるはずだ。スーツはどちらも貴方が持っているものだ。だが、決定的な違いがある」

「……」

 坂田の手の震えは、体全体の震えとなり、それが止まった。

「坂田さん」

 北上は促すようにそう言ったが、坂田の口は開かなかった。

 沓沢と顔を見合わせて、そこで坂田の取り調べを終えた。



 料亭の件から十日を過ぎた頃、堂島の家に北上がやってきた。

 母が玄関に出て行き対応すると、北上は言った。

「北上さん…… 警察の方が透にどんな御用で」

「すみません、失礼ですが、お嬢様でいらっしゃいますか?」

 母は笑った。

「お世辞がお上手ですわね。透の母です。堂島清美(きよみ)と申します」

「……」

 北上は驚いた顔をした後、すぐに顔が曇った。

「息子さんとお話ししたいのですが」

「理由は教えていただけませんか」

「とにかく、息子さんに私の名前を言ってもらえませんか」

 母は不審な顔をして階段を上がっていく。

 透の部屋でノックする。

「透、警察の方が…… 北上さんとおっしゃって。名前言えば分かるとだけ」

 扉越しに話すせいで少し声が大きくなる。

「ああ。すぐ行くよ」

「なんで警察なの。夜に街に出かけたりして、何か良くないことに関わってるんじゃないわよね」

「大丈夫だよ」

 部屋着から、透はいつものネルシャツに着替えた。

 扉の外で母はまだ質問を続ける。

「大丈夫、じゃなくて、どんな関わりがあるのか、詳しく教えて」

「その人は知り合いなんだ」

「だから、大丈夫、とか、知り合い、だけじゃ説明になってないじゃない」

 透は扉を開けた。

「ある人からの紹介で、警察関係のバイトをしているんだよ」

「……」

「大丈夫だから」

 透は階段を下りて玄関の北上に会釈する。

 そして靴を履き、二人で北上の車に向かった。

 振り返ると、心配そうな顔で堂島の母が見ている。

 車は、知らない警察官が運転していた。そして北上は透の横に乗り込んできた。いつもなら北上が運転するはずだ、と思い北上の顔を見る。

「母親がいる前では言えなかったんだが、今日はいつもの『バイト』じゃない。任意同行だ」

 そう言うと北上は説明した。

「坂田教授がホテルで殺害された。監視カメラの映像から、容疑者としてお前が上がってる」

「えっ? 坂田さん警察で勾留してたんじゃないんですか」

 車が走り出した。

「一応、お前は容疑者として上がっていて、その件で呼ばれている。あまり細かいところは話せない」

「……」

 ハメられた、というやつか。堂島は考えた。

 僕はやっていないが、時間帯によっては、ただ部屋に篭っていると言う時間が何時間もある。家族に隠れて外出して戻っていた、と言われればアリバイを立証できない。

 ただ、そのホテルがどことか、何号室だ、とか情報を持っていないのにどうやってその場所に至ったか、とか、どうやって殺したか知らないのだから、犯人ではないとしか言えない。

「発言は十分注意するんだ。いいか。繰り返すが、いつもの『バイト』じゃないからな」

「はい」



 堂島の取り調べが始まった。

 建物内では、北上も、沓沢も、他人のような顔をして遠くで眺めているだけだった。

 取り調べも当然、知らない警官が行った。

「北上と知り合いなのか」

「はい」

「そこで坂田の宿泊先を教えてもらったのか」

 いきなりそこなのか。と堂島は思った。

「教えてもらっていませんし、知りません」

「x月x日、x時x分ごろ、お前はどこにいた?」

「自宅の部屋です」

 間髪入れずに、次の言葉を繰り出してくる。

「誰が証明できる?」

「母です」

「自宅の部屋に母と一緒にいたと?」

「一緒の部屋ではないです。僕の部屋です」

 なんとしてもアリバイがないことにしたいようだ。

「『僕の部屋』には他に誰もいないんだな」

「そうです。けど、そのすぐ三十分ぐらい後には母と食事しましたから」

「……」

 警官はムッとした表情になった。

「僕、いつも食事はx時にしているから」

「その日もそうだったのか? 母なら口を合わせてくれるとでも思っているのか。そもそも犯行現場の監視カメラには、お前の姿が映っている」

「そのホテルを知らないです。当然、行き方も知りません」

 この警官から得るものは少なさそうだ、と堂島は考えた。

「行き方なんてスマフォですぐ分かる」

「だからそのホテルに行ってません」

「お前は坂田に恨みがあったな? 知り合いの丸山という女性を傷つけられ、恨んでいた」

 今度は動機か。質問も強引すぎる。

「いいえ」

「言い方を替えようか。知り合いの丸山を寝取られて、恨んでいた」

 ため息をつこうとして、堂島は警官を逆上させると思いとどまった。

「別に丸山さんにそういう感情はありません」

「お前は、北上からいくら貰ってる」

「……」

 なんの金かは言えない。ここは黙秘だ。

「答えろ」

「もういいですか。これ任意なんですよね。僕は帰ります」




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