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(仮)犯人当てを趣味にしているニートには霊視の能力がありました  作者: ゆずさくら


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決闘

 梁巣は、コンビニの駐車場の端に立つ人物を睨んだ。

 それはフリースの部屋着にサンダルを履いた、中年のおじさんだった。

 緊張感のかけらもない姿だが、対面している梁巣の気は張っていた。

「さっきは腹減ってたからな。今は飯食って気合い十分だぜ」

 梁巣が別荘地をフラフラ歩いていたところを、後ろから『波動』で攻撃された。

 体を守ることが精一杯で、繰り出された『波動』の力に弾かれこのコンビニまで飛ばされてしまったのだ。

「俺はその車の中にいる女に用があるだけだ。邪魔するなら、今度は道の駅まで飛ばしてやる」

 車の中の女…… 丸山さんのことか。この男が、なんで丸山さんを追いかけているんだ。

 梁巣には状況が分からなかったが、梁巣の中では丸山は正義で、霊の力を悪用するこの男は悪だった。

 そこははっきりしている。

「だから、飛ばされねぇよ。腹が減って踏ん張れなかっただけだ」

「……」

 男は梁巣の様子を頭から足先まで、じっくり確認した。

 そもそも波動が直撃している筈なのに、そんな傷すらない。それどころじゃない。あんな高いところから落ちたはずだ。五体満足でいられる訳がなかった。

 男は警戒した。

「こねぇならいくぞ!」

 二人の距離は離れている。

 十数メートルはある。サクラ教団の施設で梁巣が戦った時と同じだ。

 梁巣は空手の型を始めるように、構え、とても届かない打撃を放った。

 何もない空間に、何が伝わるのか、フリースの部屋着の中年は、左腹を叩かれたように体がズレた。

「……」

「まだまだぁ!」

 梁巣はそう言うと、何度も空間を突いた。

 一つ一つの打撃が、十数メートルを動いている様子はわからない。

 しかし、部屋着のおじさんは、叩かれたように体をくねらせ、後退する。

 後退しながらも、右手を腰の高さで後ろに引いた。

 体を捻り、足を広げて踏ん張る。

 梁巣の放った打撃が全て届いた瞬間、右足を蹴り出し、右手を素早く押し出した。

 部屋着のおじさんから、渾身の一撃が放たれた。

 黒い波動。

 ある者にはそれが黒い粒子のように見える。

 煙や、水のように、空間を流れる粒子。

 部屋着おじさんの右手を離れた大量の黒い粒子は、梁巣の体を目がけ、空間に伸びていく。

「来た……」

 梁巣は左手の掌を正面にむけ、それを右手で補助するように重ねた。

 流れ、伸びてくる黒い波動の中心に向けて、左手を突き出すと『空間の気』を引き出した。

 左手に黒い波動が当たったか、と思った瞬間。

 黒い波動は壁に当たったように方向を変えた。

 梁巣の左手を中心にした球に沿って、黒い粒子が均等に流れていく。

 丸い空間の壁があるようだった。その空間を、黒い粒子が流れ、広がり包み込んでいく。

 ある者が見れば、梁巣は霊力に飲まれ、動けなくなったと思うだろう。

 その球が次第に小さく縮んでいき、中の者も死ぬのだと。

 波動を撃ち終わった部屋着おじさんも、そう思っていたに違いない。

「今度こそ仕留めた」

 そう言って、車に向かって歩き出した。

 ふと見ると、足元に血が垂れていた。

 手で口元を抑えると、鼻から血が出ていることがわかる。

「?」

 黒い球体は、縮んではいない。

 見てみると、黒い粒子が薄いところから、光が漏れ出ていた。

「まさか」

 部屋着おじさんは、血を噴き出し、腹を抑えて膝をついた。

 黒い粒子を失った状態で、相手の攻撃を喰らうことがどれだけ危険なことなのか。

 攻守に必要な力が体の外に出ている訳で、剣道で、面、胴、籠手など防具をつけていない状態で相手の竹刀を受けているようなものなのだ。

「戻れっ!」

 黒い粒子は球体の中を彷徨うだけで、一向に戻ってこない。

 部屋着おじさんは、額をアスファルトに着いて固まった。

 閉じ込められていた黒い粒子が、部屋着おじさんの方へと動き始めた。

「……」

 中にいた梁巣は頭をついて倒れている男へ近づいていく。

「除霊はしてないが…… 勝ったな」

 その時、黒いワンボックス車がコンビニ駐車場に入ってきた。

 車は、部屋着おじさんと梁巣の間に入って止まる。

「あぶねっ」

 梁巣が後ろに避けると、車はすぐに走り出す。

「なんだ…… 何なんだよ!」

 部屋着おじさんの姿もない。

 車が乗せて行ったに違いない。

「本当になんなんだよ!」

 梁巣は叫ぶ。

 後ろの車から堂島が降りてくる。

「霊気も全部さらって行ったね」

「そんなことわかってんよ」

「チキショウ!」



 車が突っ込んだコンビニに、死者は出なかった。

 北上と沓沢も、大したけがはなかった。

 突っ込んでくる車の映像を見たが、運転席には誰も映っていない。

 カオナシ効果で顔が映っていないのではなく、本当に誰も運転していないのだ。

「アクセルペダルを踏みっぱなしにするような細工はなかったのか」

「見たところは。鑑識が運転席の調査はしていますが、今のところは」

「霊の力で踏み込ませたってところか」

 北上は頷いた。

 車が突っ込んだ後、内部の防犯カメラは明後日の方向を監視していて役に立たなかった。

 外側の防犯カメラは動作していたが、その映像がなんなのか、見ても説明が出来ない。

 駐車場で空手の型を披露する男と、カメハメ波のような仕草をする男が戯れているだけに見える。

 カメハメ波を演じていた側が突如、苦しんで膝をつくと、黒いワンボックス車が入ってきて、その男を連れ去ってしまう。

「黒いワンボックスのナンバーも映ってない」

 北上の言う通り、車番は歪んでしまって映っていない。カメハメ波の仕草をしている男は坂田教授なのだが、当然のように顔は歪んでいて、拡大したり解析をかけても正しい画像は取り出せない。

「車もカオナシ能力を持ってるのかよ」

「車内に能力者がいて協力しているんだろう」

「この車、サクラ教団……」

 沓沢は首を振る。

「決めつけはできない」

 結局、ここの監視カメラ映像も、捜査にとっては何の役にも立たない。

 突っ込んできた車に関しても、誰かが意図的に突っ込ませたという証拠は出てこないとなると、丸山を監禁していた件も全てなかったことになってしまう。

「奴らの力で解決するしかないのか」

 沓沢はため息をついた。




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