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(仮)犯人当てを趣味にしているニートには霊視の能力がありました  作者: ゆずさくら


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落伍者

 梁巣は滑空していた。

 突然の攻撃に対し、空間の気を引き出して防御フィールドを生成したのだが、そのフィールド生成に注力してしまったために、その場に止まる力が足りず、フィールドごと弾き飛んでしまった。

 こんなに空高く舞ってしまったのは、冷静に考えれば、明らかな失敗だった。

 それも予想を超える高さであり、正気だったら気を失っていたかもしれない。

 しかし、今の梁巣は正気ではなかった。

 自らに課した修行の強度が、明らかに常軌を逸していたからだ。

 心も体も、限界を越していた。

 限界を超えて、梁巣の気持ちは穏やかだった。

 修行の目的は、さまざまなものから『気』を引き出す事だった。

 それがすなわち、癒着した霊と健全な精神を取り分ける為の力になるからだ。

 引き出した気を使えば、その物の性質を変えることが出来る。

 梁巣は修行を信じ、疑問を持たなかった。

 落下している梁巣の体は、コンビニの駐車場に向かっていた。

 しっかり固められたアスファルト。

 梁巣の体は、衝突したら、バラバラになってしまうスピードに達していた。

 アスファルトから気を引き出して、その性質を変えるしかない。

 遅れても、早すぎてもだめ。性質を変えておける時間には限りがあるからだ。

 それに、落ちる場所と、性質を変えた場所がブレてもダメだ。

 だから、衝突のギリギリまで引きつける。

 それはつまり『死』と『生』を分ける時間だった。

 頭から落ちてきた梁巣は、アスファルトに手を伸ばし、ミリ秒後に触れるアスファルトから気を引き出した。

 アスファルトは、吸い込むように梁巣を受け入れ、波紋を描いた。

 しばらくして、梁巣はあたかもプールから上がるように、コンビニの駐車場から這い上がった。




 北上はスマフォを操作していた。

 LINKメッセージを打って、送信。打って、送信。

 沓沢さん、気づいてくれ…… 坂田が戻ってきている。

 車のクラクションが鳴る。

 この位置なら見えないはずだ。北上はとにかくじっとしていた。

 坂田の声が聞こえる。俺でも、堂島でもない、誰かを見つけたというのか。まさか……

 まだ別荘側が視野には入っていまい。

「!」

 北上は坂田がクラクションを鳴らした相手を見つけた。

 黄色のジャージ…… 梁巣だ。呼んだ訳でもないのに、なぜここに?

 今ここで出ていって、梁巣を引き取るべきか? いや、それをしたら沓沢さんはどうなる。

 それに、こんなところに刑事がいたとなれば、こっちの目論見がバレてしまう。

 こっちの状況を知らない梁巣が、俺たちに声をかけてきても不味い。

 北上は坂田から見えないように、そして梁巣からも見えない位置にずれた。

 沓沢さん、早くそこから出てください。北上は再びスマフォでメッセージを送る。

 その時、何かが地面を跳ねて、空高く舞い上がった。

 飛んで行ったのは、黄色いジャージ。梁巣だ。

 何をすれば、人がゴルフボールのように飛んでいくというのだ。

 どれだけの能力を持っているのか。

 坂田は間違いなく人を殺した。

 北上はこの場に出て行って傷害罪の現行犯で捕まえたいという気持ちと、沓沢が坂田の研究室で感じた押しつぶされるような恐怖を同時に感じていた。

 動けない…… どうやってあんな高さに人を飛ばしたか、を説明出来ない。

 何も触れていないのに『坂田の意思』で飛ばされたかどうか、誰も証明も出来ないだろう。

 悔しい。ただ隠れていることしかできない自分に、北上は唇を噛んだ。



「おい、あんた、大丈夫か?」

 目を開けると、白と青の縞柄の制服をきた店員が、しゃがんで覗き込むように見ていた。

 梁巣はコンビニの駐車場に仰向けに寝ていた。

 頭を少し上げ、足先を動かして、動きをみる。

 左、右。

 広げた指先を曲げ伸ばししてみる、右手、左手。

「ああ、大丈夫みたいだ」

「コンビニ開けようと思ったらあんた寝とるから」

「すまん、邪魔だよな」

 梁巣が立ち上がると、コンビニ店員も立ち上がった。

「なんだ、この波紋」

 アスファルトが、水面のように波だった状態で固まっていた。

 梁巣はとぼけた。

「なんだろうね。それより店開けてよ。俺、腹減ってるんだ」

 梁巣は店員と共に店に入ると、弁当を二つ買って駐車場に出ると食べ始めた。

 車止めのブロックに腰掛けてコンビニ弁当を食べていると思い出す。

 高校をサボってコンビニで飯。

 仕事を抜けて、コンビニで飯。

 そうやって逃げてきた思い出。

 どこでも、そこでも、俺は落ちこぼれだった。

 いろんなことが気になってしまって、何かを続けていられなかった。

 九九も、漢字も、覚えられなかった。

 高校は行ったが、中退しかけたところを、なんとか卒業させてもらった。

 してもらったことが身に付かず、何も返せない自分が悔しかった。

 仕事も点々とした。

 いつも、自分が役に立ててないことが恥ずかしかった。

 だから、俺に『霊に対応する力』が備わっていることに気づいたとき、ようやく自分が世界に存在していいのだ、という気持ちを持てた。

 丸山から仕事をもらって、自分に自信がついたはずだったのに。


『僕がみる限り、梁巣さんには除去出来ない』


 ショックだった。

 本当に長い間、降霊と除霊を繰り返したせいで、悪霊と自我が結びついていた。どれだけ力のある人間でも、簡単には出来ないはずだった。だが、梁巣は自分の力を『簡単に』否定された気がした。

 俺はもっと強くならなければならない。

 さらに鍛えなければならない。

 力がないと、自分の存在場所を失ってしまう。

 だから山にきた。これまで読んだ大抵の漫画で、主人公は山で修行してる。

 何もない山では、自分の力が確かめられなかった。

 だが、さっきアスファルトにダイブできたことで、自信がついた。

 きっと今なら癒着した相手でも除霊できる。

 俺は強くなった。

 もう負けない。

 朝空を見上げながら、梁巣は左手を握り込んだ。




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