Nシステム
沓沢はスマフォで連絡をとりながら、駐車場に向かった。堂島もそれについて行くと、途中で北上と合流した。
「堂島くん、沓沢さんはどこと連絡している?」
「Nシステムがどうとか」
「そうか。車で移動した可能性があると言うことか」
三人は駐車場に着くと、北上が運転席に、堂島は運転席の後ろに、沓沢が助手席に座った。
エンジンをかけるだけかけ、沓沢の電話が終わるまで待っている。
「C高速に乗ってN県に向かう」
「大雑把ですね」
「いいから発進しろ。坂田がN県のどこに行っているのかは、今調べてもらってる」
北上が車を出すと、国道を西に進んだ。
「N県って、これから行くんですか? いつぐらいまでかかりますか?」
「ブラックですまんな。日当は弾むよ」
「いえ、そういうことではなく、家に連絡をとっておこうかと」
沓沢が言う。
「すまんがいつまでかかるか分からん。今日は帰れないのは確実だ」
「……はい」
堂島はLINKで家族に連絡した。
いつもの母親のヘンテコな『了解』スタンプが返ってきた。
堂島は緊急車両の赤色灯を屋根に乗せるのかと思って見ていたが、普通の速度で車を走らせているので、少し期待外れだった。
車は高速に入り、しばらく進んだ。
すると道路照明が急に暗くなった。
高速道路は山中を走っているようで、車の数が急に減った。
沓沢が言った。
「情報が入らないと高速をどこで降りていいのかも分からないからな。近くのサービスエリアで飯にするか」
「大きいサービスエリアは出るのも時間がかかりますから、小さいサービスエリアに入りますよ」
「ああ、構わん。堂島くんもそれで我慢してくれ」
沓沢が堂島の顔を見ていたので、声で返事をする代わりに、堂島は頷いてみせた。
車は順調に高速道路を走り、小さいサービスエリアに入った。
コンビニしかない小さいエリアで、北上はトイレに行って車に戻ってくると、代わりに沓沢と堂島がコンビニに買い物へ出た。
「何でも好きなものを買ってくれ、と行っても車の中で食べるからそれなりに考えてくれ」
堂島は沓沢の意図が分からなかった。
簡単なものにしろという意味なのか、粉が溢れるようなものにするな、とか、匂いがキツイものを買うなと言う意味なのだろうか。
とりあえず、堂島はカップのアイスを買ってもらうことにした。
「そんなものを晩飯にするのか」
「ええ」
堂島はそのアイスを見て、笑みが溢れていた。
コンビニの金シリーズの最高傑作と言われているものだった。
自分では勿体無くて買わないが、他人の奢りなら問題ない。
「自分の息子だったら、ちょっと困るな」
「けど私はあなたの子供じゃありませんから」
「……」
堂島の言い方は沓沢をイラッとさせた。
堂島は渡されたアイスへの喜びで、沓沢の態度が気にならなかった。
「北上はおにぎりとお茶だったな」
「ありがとうございます」
全員が食べ終わった頃、沓沢のスマフォが振動した。
「何かわかったか?」
電話の相手は地名や住所を言って、その説明をしているようだった。車内も車外も静かだったので、堂島にも小さい音がよく聞こえた。
沓沢はスマフォで会話を続けながら、車のナビに行き先の住所を打ち込んでいる。
「そうか。別荘を持っているのか。Nシステム的にはそのエリアから抜けていないと言うことだな。一応、LINKにも入れてくれ」
そう言うとスマフォを切った。
「出発する」
北上が頷くと車が発進した。
盆地へと高速道路は降って行き、その盆地の端の坂を再び上がっていく。
いくつかの坂とコーナーを曲がりながら、車はインターを降りた。
さらに暗い坂道を登っていくと、N県の目的地に着いた。
道沿いの別荘ではなく、中に入った場所のようだった。
北上と沓沢が指さしていた。
「間違いない。あの灯りの家だな」
「えっと、ただ、あそこに車で近づくわけにはいかないですね」
これだけ暗い山中、ライトを灯火して車両が走れば、光と音ですぐバレてしまうだろう。
そもそも別荘地に入るための山道は『私道』だ。捜査令状がなければ何も出来ない。
「堂島くんは何か見える?」
「いえ、僕は霊が見えるだけで『エスパー』ではないので」
沓沢が林の中の空き地を見つけて、そこに止めさせた。
三人は車を出ることにした。
「寒……」
見上げると、木々の隙間から星が見えた。
歩いて移動すると少し上空が開け、その小さな空の空間にさらに多くの星が見えた。
周りに明かりがないせいでこんなに見えるのだろうか。それとも空気が汚れていないからなのか。はたまた山をかなり登っていて、空気が薄いせいだろうか。
「ほら、上着」
北上は堂島に上着を渡した。
薄いダウンジャケットをいくつか用意していたようで、沓沢も北上も同じようなものを羽織っていた。
「張り込み用なんですか?」
「まあ、そうだな」
また少し林の中を進んで、坂田の別荘がよく見える位置に移動する。
別荘がよく見えると言うことは、逆も然りと言うことだ。
「こんな山の中、クマとか出ないでしょうか」
「どうかな、調べたことないが」
北上が言うと、沓沢が小さい声で怒ったように言った。
「声が大きい。とりあえずクマのことは忘れろ」
三人は岩陰に隠れるようにして座り、北上と沓沢が交代で見張ることになった。
堂島は木々の間の小さい空を見つめた。
空はまだ暗かったが、明るくなる兆候が見えていた。
沓沢が休む番になると、どこかに出かけて行った。
しばらく静かだったが、沓沢が帰ってくると、堂島は肩を叩かれた。
「……」
無言で缶コーヒーを差し出された。
堂島は会釈をして、それを受け取った。
「北上、ほら」
同じように北上にも缶コーヒーを渡した。
「ありがとうございます」
「そこの車のナンバーを確認した。坂田所有の車で間違いない」
「……カオナシイコール坂田なんでしょうか。俺にはまだ角田議員が」
沓沢は顎に手を触れた。
「角田議員は公園の殺人ぐらいだ。他は『カオナシ』の犯行の確率が高くて、『カオナシ』の着ていたスーツは坂田のものである確率が高い。堂島くんと大学の監視カメラ映像を確認したときに、丸山の顔を変化させたのが『カオナシ』だとすれば『カオナシ』イコール『坂田』の可能性は非常に高い」
「確かにそう何ですが」
「!」
沓沢が、木の影に避けるような動作をした。




