ダミー
細かく話していくなか、まずは大学の監視カメラの映像を確認することになった。
警視庁の一室で、堂島に南東武大からコピーしてもらった画像を見せる。
北上は思った。この動画は、丸山の行方を確認する目的だったが、おそらく坂田教授も映っているだろう。一石二鳥だ。
「その坂田という方は……」
「聞き取りした状況だと昨日の晩、タクシーで大学に戻ってきたと言っていた」
画像をすすめていくと、画像の中でタクシーが南東武大の正門前についた。
「これか?」
映像はタクシーから出てくる男を映している。
スーツをきた、中高年。
北上が堂島の顔を見て言ってくる。
「どうだ?」
「霊は憑いてますが」
「なんだ、その先を話してくれ」
堂島は腕を組んで考えた。カオナシにしては、力が弱いような気がする。角田議員に匹敵するような力がないと、あの『カオナシ』の映像を作り出せないと思っていた。堂島は霊が憑いているかどうか、そのものの力の強さは何となく感じているが、どの程度の力で、どんなことができるかについては明るくなかった。それがわかるには、もう少し経験を積む必要がある。それは堂島自身が感じていることだった。
「ちょっと細かいところは話せません。僕の発言で、変な先入観を持ってしまうのは良くない気がします」
沓沢が割り込んでくる。
「わかった。憑いている、憑いていない、で言うなら、憑いている、で間違い無いわけだな」
「はい」
「たとえば、本人を見た方がよくわかる、ということはあるのか?」
堂島は震えた。
「動画で見るものよりは精度は良くなると思います」
「沓沢さん、その前に丸山の確認をしておきましょう」
「堂島くん、聞いているかわからないが、丸山さんの行方不明と、この坂田が関係しているかもしれない。丸山さんの行方が分からなくなる前、この大学教授の取材をしていたんだ」
沓沢が喋っている間に、北上が動画を準備する。
「取材した時の監視カメラの映像がこれで」
大学内に入ってくる丸山が映っている。
いつものメガネ姿で、ゲスト用のカードを下げている。
「この大学の研究室は、カード操作で鍵を開けるんだ。実際、現場に行ってるから間違いない」
北上は続けて、時刻を変えて別の動画を再生する。
「そしてこれが帰り。これ丸山だよな」
堂島は画面をじっと見つめる。
何かが違う。堂島の直感がそう言っている。北上からマウスを奪うと、何度も再生する。何かが、行きと違う。
行きは一人で、通行していて、帰りは坂田教授と一緒に歩いている。
見た感じは一緒なのだが、何か不自然なものを感じる。
「!」
堂島は北上の顔を見た。北上も何かに気づいたようだった。
「……何かおかしいな」
「そうです。この動画はもしかしたら、坂田の持つカオナシとしての能力を使って、別人を『丸山』さんとして記録させたものかも」
再び『行き』の動画を再生する。
「ほら、ゲストカードが無い」
堂島が言うと、北上も賛同した。
「そうだ、首にかけていたカードが無い」
「映像を見ると、学生は身分証を首からかけていない。丸山さんのような一時的に入室する人だけが、ゲストカードを首から下げてる。きっと帰りの記録は、坂田が学生と一緒に歩いているところを『誤認』させようとした映像なんだ」
「うん。その考えは実態とあってる」
北上は大学の中を歩いていた時のことを思い出し、そう言った。
「よし、坂田の動きを見張ろう。坂田が丸山に接触するかもしれない」
大学の駐車場に車と停めると、建物が見える位置に移動した。
そして坂田の研究室の位置を、外から確認した。
研究室の明かりは点いている。
北上が言う。
「まだいるな」
堂島は反論する。
「明かりが点いているだけかも」
「……確認しよう」
そう言うと、沓沢は誰かに電話している。
「そうだ。坂田教授に電話しろ」
何か質問をされたのだろうか。
「何でもいいだろう! それくらい自分で考えろ。とにかく結果を返してくれ」
「どうしたんですか?」
「知り合いの警官に電話で坂田教授が学内にいるか確認させてる」
しばらく待っていると電話が返ってきた。
「わかった。ありがとう」
沓沢は言った。
「カードリーダーのシステムで、在館しているかわかるそうだ。それで確認してもらった結果、研究室にいるらしい」
「……」
堂島は黙って、明かりを凝視した。
「何か見えるのかい?」
「いいえ」
北上と沓沢が交代して部屋を監視し、堂島は車の中で休んだ。
夜半を過ぎたあたりで、堂島は三十分ほど寝てしまっていた。
車の中に残っている沓沢が、北上からの連絡を受けて言う。
「すまん。明かりが消えたらしい。一緒に来てくれ」
堂島は沓沢について建物を回る。
出入りできそうな場所は二ヶ所。
一つは北上が抑えて、もう一つを沓沢と堂島が見ていた。
校舎は緑の非常灯が廊下をボンヤリ見せているだけで、真っ暗に見える。
すると校舎の扉から警備員が出てきて鍵を閉めた。
沓沢はスピーカー通話にしていたスマフォに話しかける。
「……そっちから坂田は出てきたか?」
「いいえ」
「こっちから警備員が出てきたから、確認する。一旦切るぞ」
堂島は沓沢について、警備員を追いかける。
「すみません。警察のものですが」
警備員は帽子をとって、沓沢に頭を下げると言った。
「ああ、夕方の刑事さん。どうなさいました?」
沓沢は警備員の出てきた校舎を指さし言う。
「そこの校舎、坂田教授の部屋の明かりがついていたのですが」
「ああ、そうだったので、私が部屋に入って声かけしたんですが、どこにもいらっしゃらないので、こちらで明かりを消してきました」
沓沢の声の調子が少し変わった上に、口調が速くなった。
「誰もいなかった? 電話で聞いた時にカードのシステムでは在館されていると聞いたのですが」
「たまに、カード操作だけして入らずに、出て行ってしまう方がいるんですよ。そうすると在館している表示が残ってしまうんです」
警備員から目をそらし、沓沢は小さい声で言う。
「やられた」
警備員に礼を言うと、堂島の肩を叩いた。
「車へ急ごう」




