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(仮)犯人当てを趣味にしているニートには霊視の能力がありました  作者: ゆずさくら


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看護師との関係

 坂田教授の部屋は整然としていた。

 と、言うより物がほぼなかった。

 大学教授の部屋なら、自身の著書や研究の為に読んだ洋書がびっしり棚に並ぶようなイメージだったが、本はそれこそ机に置いてある一冊。

 あとあるものといえば、同じ机に置いてあるノートPCだけだ。

 教授の歳は沓沢と同じぐらいだったが、スーツの着こなしのせいか、坂田の方が若く見える。

 今日着ているスーツは、カオナシの映像では見たことがないものだった。が、スーツから醸し出す艶というか、雰囲気からハイブランドのものだろうと思われた。

「狭いですが、どうぞお座りください」

 小さいテーブルを囲んでしっかりとした作りの椅子が四脚置いてあった。

 北上と沓沢は促されるまま椅子に座った。

「その女性がどうかしましたか」

「交通事故に遭われまして」

 探るように、北上は途中で言葉を切った。

「えっ……」

 坂田は驚いた顔をする。

「それで、どうなったんですか、怪我を? それとも他人(ひと)を傷つけたのですか?」

「亡くなられました」

 坂田は立ち上がりかけて、落ちるように椅子に腰を下ろした。

「そんな……」

「失礼ですが、どういった御関係ですか」

「……」

 坂田は呆然としていて、北上の言葉に反応しない。

「坂田教授?」

「えっ? ああ。何も調べてはいないのですね」

 やばい、と北上が思った時、沓沢が割り込んだ。

「ご本人の口からお聞きする方が良いかと思いまして」

 坂田教授は目を隠すように手を額のあたりに掲げた。

「ありていに言えば不倫ですよ。私には妻も子供もいます。仕事が忙しくて家に帰れない。たまに帰れば帰ったで、逆に家のことを無視しているだと文句を言われる。体調を崩して病院に言った時、たまたま話をしていて意気投合した女性…… それが彼女です」

 北上と沓沢が声をかけようとする前に、坂田が言葉を足した。

「亡くなるなんて……」

「昨日、この女性とお食事された後の行動を教えてください」

「何か私は疑われているのですか? 交通事故とおっしゃっていた気がするのですが」

 坂田は自分の机に肘をついて、手で頭を支えるようにして俯いていた。

「いえ、彼女の行動を確認したいのと、彼女が何か悩んでいなかったか知りたいのです」

「食事の後、近くのホテルで休憩して、タクシーで彼女を家まで送っていきました。私はそのタクシーで夜半過ぎに大学(ここ)に戻って来て、仮眠を取った後、書き物をして、今もここで続きをしています」

「覚えている範囲でいいのでそれぞれ時刻を」

 北上は坂田の言う時刻をざっとメモした。

「彼女は悩んでいるようでした。私のせいなのは間違い無いです」

 悩んでいたとすれば、病院での彼女の様子とは全く違う子とになる。

「坂田教授は彼女に妻子があることを隠してお付き合いしていませんでしたか?」

「いいえ。それ、彼女は最初からわかっていたはずです」

 病院では『表面上』明るく、問題なく過ごしていて、本人的には本当は悩んでいた。そう言われば、それまでだ。自殺する人間とて、二十四時間、三百六十五日、ずっと鬱な訳ではない。

「すみません、念のためその行動を証明できる方はいらっしゃいますか?」

「タクシー会社に聞いてみてください。昨日のはマルバツタクシーだったと思います。カードで支払っているので、追えるのでは無いでしょうか。あとは大学のカードのシステムに履歴が残るはずですよ」

「……」

 アリバイの答えが、準備していたようにスムーズだ。それとも大学教授で、地頭がいいからこれほどスラスラと答えが出るのだろうか。

 北上は沓沢の顔を顧みた。

 沓沢は口元に指を当て何か考えているようだった。

 坂田の視線も、沓沢に向けられた。

「まだ何か?」

「北上、スーツの映像を」

「……」

 北上は立ち上がり、坂田の机にタブレットを置いた。

「坂田教授。これらのスーツをお持ちかどうか、お答えいただけませんか」

「いきなりなんですか。これがどうしたんですか」

 この坂田の中に、今までと同じように悪霊が憑いていたらどうなるのだろうか。北上はいきなりそんなことを考えて、怖くなった。

 今ここで能力を発揮されたら。

 坂田の中にいる悪霊が、こっちの考えを読めたりしたら。

「……どうでしょうか? 南東武大に通っていたと言う人から、教授が着ていたと聞いたのですが」

「この映像だとはっきり見えないし、なんとも言えませんが、いくつかは持っているものと似ています」

「このスーツのブランド。ハイブランドだそうですが、教授はお好きですか?」

 坂田の視線が自身の左肩の方に動き、そして正面に戻った。

「ええ。好きですよ。別にハイブランドだから好きというわけではないです。ハイブランドという括りなら、もっと高いものもあるわけで。好きなブランドがたまたまハイブランドだったということですが」

 坂田は少しイラッとしたように、そう言った。

 北上はうまくすれば坂田の本質を引き出せる、と思った。

 すると、沓沢が急にタブレットを引き上げた。

「ご協力、ありがとうございます」

 沓沢はそういうと、北上にも頭を下げるよう背中を押した。

「えっ?」

 北上はこれからなのに、と思う。

 しかし、沓沢の意向で、二人は、逃げるように教授の部屋から引き上げてしまった。

 生徒のいるゼミ室も小走りに通過して、大学の校舎をでた。

 北上は追いかけるように、後ろから声をかける。

「沓沢さん! どうしたんですか」

「何か匂う」

「匂うとは? 何も臭いはなかった」

 沓沢は怯えているようにも思える。

「ここを離れないと。このプレッシャー、俺たちでは手に負えない」

「においなんですか? プレッシャーなんですか? 一体何なんです?」

「なんでもいいだろう」

 沓沢は一目散に駐車場へ向かった。




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