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(仮)犯人当てを趣味にしているニートには霊視の能力がありました  作者: ゆずさくら


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神隠し

 角田議員が演説した後、演説した公園で殺人事件があった。

 その公園にあるサクラ教団の施設では、本の少しだが異変が起きていた。

 正面のオートドアはまだ壊れたまま臨時にいたで塞がれ、脇のドアから出入りすることになっていた。

 異変は、事務所の中でのことだった。

 来訪者の受付などを担当する、ショートボブの山下嬢は、館長の長澤義満のところへ書類を持っていった。

「館長、ここに印鑑を」

「……」

 いつもの慣れた内容の書類だった。

 だが、館長は書類に目も通さないし、印鑑を用意する訳でもなかった。

 館長は無視するかのように、じっとしている。

「館長? どうなさいましたか」

「!」

 山下の言葉には気がついたようだったが、長澤は遠くを見たままだった。

「大丈夫ですか?」

「ダイジョウブ」

 山下は書類を置いたまま、自分の席に戻った。

「最近、館長の様子はおかしいですよね」

 向かいに座っている泊は、スマフォを取り出した。

「テメェの基準でおかしいとか決めつけんじゃねぇよ」

「けど、以前はこんなことなかったです。あのオートドアが壊された時から」

「自分が美人受付嬢だからって、ババアのいうことを否定すんな」

 話にならなかった。

 山下は半ば泊を無視して話し続ける。

「少なくとも書類にすぐ目を通してくれましたし、そうでないときには『後で目を通しておくから』とか少なくとも何か反応があったじゃないですか」

「……」

 山下はさらに続ける。

「何かぼーっとする感じが多いですし、時々、悪魔でもいるんじゃないかというほど邪悪な顔をします。本当にどうかしちゃったんじゃないかと」

 泊は頭から、長澤館長の変化を許容している。

「年齢だよ。年取るとボケるんだよ。許してやれよ」

 その時、施設の中に設置したセンサーが反応した。

 来客があった場合、すぐに気づくようセンサーを横切るとチャイムがなるのだ。

「私が対応する」

 長澤館長は分かっていたかのようにそう言った。

「お待ちください。どなたか確認します」

「私が出るから。ここにいなさい」

 長澤館長は立ち上がって、さっさと事務室を出ていく。

 年の為、山下は自席のモニター画面を切り替えて来訪者の画像を確認する。

 角田議員だった。

 もし通常の訪問なら、山下がまず予定を把握しているはずだった。

 おそらく突然の、時間指定のない訪問だ。それとも長澤館長にだけ伝えてあったのか。

 だとしても画像を見ずに角田議員が来たことを察知するのはおかしい。

 ちょっと前にも信者の入館があった。

 泊さんからボケた、と言われる長澤館長は、さっきからスマフォやパソコンの画面を見ている様子もなかった。

 犬が主人の到着がわかるように、音や匂いを感じていたのだろうか。

 あまりに不自然な出来事だったが、山下はそれ以上考えることをやめた。

 山下の向かいに座っている泊は、居眠りを始めた。

 それに影響されたのか、山下も欠伸をして、疲れたように机に伏せてしまった。



 角田議員は、事務室から出てきた長澤館長に向かってまっすぐ指を突き出した。

 長澤館長はその指先に向かって、吸い付けられるように近づいてく。

 角田議員の腕を掴み、突き出した人差し指を自らの額の真ん中に誘導した。

「すべて手はず通りに。いいな」

 角田議員の手をもつ、長澤館長の手が震え始める。

 しかし、額の真ん中をとらえた指は額から離れない。

 ついに長澤館長の手の震えが酷すぎて、角田議員の腕を掴んでいられなくなった。

 今や、長澤館長の全身が痙攣している。

「……」

 突然、スイッチが切れたように長澤館長はがっくりと床に膝をついてしまう。

 角田議員はそのまま踵を返すと、施設から出て行ってしまった。



 居眠りしていた山下が目を覚ますと、机に書類が置いてあった。

「確かこれは……」

 考えるが、山下は寝てしまうまで何を考えていたか思い出せなかった。

 館長の名前すら思い出せない。

 何かあったかと思って手元のモニターを切り替えて録画内容を確認しようとするが、不審な映像は出てこない。

「泊さん」

「……」

 ちゃんとした答えは期待できない、と思いながらも訊いてみた。

「当館の館長の名前って、覚えてます?」

「随分前から井上館長だったでしょう」

 井上? 確か、壮年部だったかしら。山下は思い出した。

「そうでしたっけ? あの井上さんが館長」

「はっきり覚えてるんだけど」

 あまり真面目に考えたくないが、そう言われると井上さんが館長をされていた気がした。

「けど、今日はどちらに?」

「選挙前の幹部会議で長島まで行ったじゃない」

「そうでしたそうでした」

 あまり明確に覚えがないが、言われるとそう思えてくる。

 山下は前年にあった選挙を思い出していた。大変だ。また選挙事務所のボランティアを大勢集めなければならない。小学校の頃の知り合いに声をかけたら、去年はやってくれたけど、今年もやってくれるか怪しい。

 山下は憂鬱な気分になった。




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