エピローグ
すっかり遅くなってしまった。
残業帰り、ケーキ屋で彼女の好きなシュークリームを買って、家路を急ぐ。
家に着くと、まだ居間の明かりはついていて、ソファーで本を読む彼女の姿があった。
「おかえり。ご飯温める?」
「先にシャワー浴びるよ。あとこれ」
シュークリームの袋を渡すと、彼女は喜んだ。
「今日ね、何度も蹴って来たんだよ。あ、ほら今も」
彼女は大きくなってきたお腹を、いとおしそうに摩りながら、優しい顔をする。
僕もお腹に手を当てて、しゃがみ込んでから耳を当てる。
「聞こえないなあ……」
いつもそうだ。お腹を蹴ったと聞いて、すかさずお腹に耳を当てても聞こえた試しがない。彼女は笑った。
「体に障るから、もう寝て。ご飯は自分で温められるから」
僕は彼女を寝室に追いやった。
寝室に入り、すっかり眠った彼女の隣に体を横たえる。
すずは小さな寝息を立てて、気持ちよさそうに眠っている。
時々、ふと考える。
あの夢は何だったんだろうと。
本当に未来の記憶だったのだろうか。
それとも、妄想? ただの夢?
何年経ってもわからない。
だけど、一つだけ言える。
あの時、あの夢がなかったら、僕は一歩踏み出せなかっただろう。
そして、この隣にいる大好きな人と、こんなふうに幸せな日々は過ごせなかったのではないだろうか。
寝室の壁には、真っ赤なトウカエデの葉が飾られている。
僕たちを巡り合わせてくれた、大切な思い出の詰まった赤い葉っぱ。
きっと、これからも僕たちを見守ってくれる。
——病めるときも、健やかなるときも、ずっと。
最後まで読んで下さり、ありがとうございました!




