突撃作戦
「……あーしーたー。話し進まないよー。タラコ君といちゃつくのは後にして話進めようよー」
「だ、だれがいちゃついてるってのよ!! こっ、こっ、こっ、こここ、こんな顔面オバQ男のどこにそんな魅力がっ!こんなやつにチョコ渡すくらいならゴムひもにでも渡してた方がマシよっ!!」
「え、なになに? 大園、俺にチョコくれるの、マジで?」
「だ、だだだ、だれがあんたなんかに渡すかっ、このっ、タラコ!タラコ!タラコ!」
「ぎゃー! 痛い痛い痛いやめてよして俺の二の腕、針山になっちゃうぅぅぅぅううう!!」
「はぁはぁはぁ…………まぁいいわ、わざわざ二時間目サボってるんですもの。時間は有意義に使いたいものだわ。椎名君いくらもてないからって私たちの作戦を体張ってでも遅延妨害させるとはなかなかやるわね。虐待するのが楽しくて本分を忘れるところだったわ」
「俺は断じて望んでこの状況に甘んじてるわけじゃないぞ!!っていうか早く放せよ!」
「捕虜の解放は本作戦終了をもって達成されるわ。あなたに選択権は無い」
「せめて捕虜として最低限の身の安全の保障を要請する!」
「却下」
「うわぁぁあああああん!!」
「いい加減にしなさいよっ!!これじゃいつまでたっても白鳥君にチョコ渡せないじゃないっ!!」
永遠と続く漫才もどきにいい加減痺れを切らしたのか、雪子が地団駄を踏みながら叫びます。
「むー、最初は雪子だって乗りのりで虐待してたくせに……」
「あんた達のはマジで楽しんでるからなんかムカつくのよ」
結構、自分勝手な子でした。
「ていうか、新垣さん。つかさにチョコ渡すつもり?」
「ていうか、告白までするつもり」
えーっ、っと大仰に驚く椎名君
「あいつ、誰からの告白にも応えないことで有名じゃん。チョコさえ受け取らないよ」
「うっさい。いい? タラコ君。不可能を可能にしてこそのミッション・インポッシブル。鉄腕の美少女、新垣雪子の生きる道なの」
「……えー、新垣さん言っちゃなんだけど可愛さ普通じゃん。むしろ大園のほうが美少女――ぐへぇあ!!」
「殺されてーのかっ!おんどりゃぁぁぁああああああ!!!!」
鉄腕の美少女の自慢のこぶしが、タラコ・椎名・すまき君の顔面にめり込みます。
「あぁ? ぁあ?! そんなに三途の川渡りたかったら今すぐ重しつけて沈めてくれるわぁぁぁああ!!」
「それ渡してないじゃない」
明日の冷静なつっこみも何処吹く風、椎名・つぶれ饅頭君の襟首を掴んでガックンガックン揺さぶります。
「もうあったまきた!確かにねぇ、私はそばかすもあるし明日みたいなパッチリした眼でも意外と乳首の小さい、かわいらしい美乳でもないわよ! でもあたしは明日じゃあるまいし、下の毛はしっかり生えて…………」
「き、聞いちゃだめっーーーーっ!!」
瞬間、明日の右足が椎名・すまき君のへこんだ顔面を見事に捉えます。
「ぷげれぇあっ!!」
「ち、違うんだからね! 私はただ体質的に薄いだけで、全く生えてないって訳じゃなくて、いつかもっと、生えてくるってお母さんも言ってたし、お医者さんも別に恥ずかしいことじゃないって言ってたし、そもそも水泳の授業のときとか処理しないでいいから楽だなって……って何言ってんの私っ、ちょっと聞いてるの椎名君!っていうかやっぱり聞かないで今のなしなしなしなしなしいいいぃぃぃぃ!!!!」
ビビビビビっと音の鳴るような高速の往復ビンタが繰り出され、椎名・原型をとどめない君の顔は瞬く間に二倍三倍に膨れ上がって行きます。
「はぁはぁはぁ……っと言うことで、今の雪子の言葉は全部忘れるように!」
「ふぁい……」
二分後、そこには囚われのリアル・アンパンマンが鎮座していました。
「で。私たちが椎名君にして欲しいのは、白鳥君に対する情報収集なのよ!」
「でふぉ、情ふぉうすうすうってひっへほ、はひひひはらひいのは」
「ちょっと! 椎名君! 雪子は真剣に悩んでるんだから真面目に聞いてよね!」
「はれのへいはっっっっつつつ!!!!」
とても悲しい子でした。
◆
「――で、お宅、だれ? ……お顔がパンパンマン?」
「お前のひん友のひい名ふぉう兵だ」(注※お前の親友の椎名公兵だ。と言っている)
「ほうほう、……その砲兵さんが何故こんなところに。この学校に高射砲台でも配備されたかな?」
「ひょうほうほ、へいほうほ、ひょうひゅうふる」(注※情報の提供を要求する)
「何々、兵法は平方根のうひょーはひょーする、だって? 公兵、いくら数学が苦手だからって平方根は√で表すもんだ。ほれ、言ってみ?√3=1.7320508075 (ひとなみにおごれやおなご)」
「……ふーほはん、ひほーふ、ひほはひひほごへはほなほ」(注※ルート3イコール、ひとなみにおごれやおなご)
「何々、肥後は狒々。ホモは俺。オナホ。なんだ公兵、あんまりもてないからって猿畜生や、男にまで手を出す気かっ!ましてやオナホだとっ!? ……やさしくしてね?」(頬を赤らめる)
「ひはぁぁああああう!!!」
とことん悲しい子でした。
「で、ぼこぼこのおまえの胴から伸びた縄をもってスズメ取りの罠よろしく物陰に隠れてるあの女の子二人はなんなんだ?」
「じふは、俺、虐待されて……ぎゃーー!!」
「おー、すげぇ。一瞬で縄のさきの物陰に引っ張っていかれた……」
生傷の絶えない子でした。
「つかさ! 親友としての一生の頼みだ! 何も言わず、今日だけは女子のチョコを受けとれ!」
「断る!」
「即断かよっ!! お前には血も涙も無いのか! 鬼! 悪魔! イケメン!」
「確かに僕の姿かたちは美しいが、イケメンと言われるとなんか頭軽い感じがする。時にイケメンって池ノめだか師匠のようなメンズの意味だと高校一年生まで思っていた」
「それ、つい最近だよっ! っていうか、めだか師匠懐かしいな!」
彼、椎名君とクラス一の伊達男白鳥つかさ君はこういった軽口を叩き合う仲なのでした。
「ていうか、何で、片っ端から断りまくるんだよ! 付き合うとかならともかく、チョコ受け取るくらい別にいいじゃんか!」
「別に誰にも迷惑はかけとらん。一人受け取るとゴキブリみたいに増えるから嫌なんだ。ゴキブリは巣から撲滅せねばならん」
「……俺に多大な迷惑がかかってるんだよ……ていうかお前そのうち刺されるぞ! ていうかもういっそ刺されてしまえ!!」
「刺されるなら公兵がいいな♪ もてない男代表として♪」
「うっさい!っていうか!」
「出たな、妖怪テユーカー! 相方が落としたおにぎり欲しさに漆(ウルシ科ウルシノキ、触るとかぶれる)の茂みの中に手を突っ込んで痒さのあまり悶死した男の霊が妖怪化した化け物め!! ムヒ塗りこむぞ!」
「地味に嫌な妖怪だなぁ!おいっ!」
「まぁ、それはともかくとして、俺がチョコ受け取らないとなんで公兵に迷惑がかかるんだ?」
「うっ……それは……」
ちらりと物陰をうかがう椎名君。その先には彼を結わえている縄をしっかりと握りしめた明日と雪子の姿がありました。
「一身上の都合です……」
「ふーん、まぁいいけどね。壁の向こうの子猫ちゃんに言っといてよ。姑息なことしないで真正面から来たら、付き合ってあげてもいいよって」
「マジで!?」
「イエス、高洲クリニック」
「――――って言うことなんだけど。やけにあっさりでさ」
「罠の匂いがぷんぷんするわね……」
明日たち三人はもとの空き教室にまで戻ってきていました。椎名君がつかさ君からの伝言を伝えると雪子はもう有頂天外で踊りださん勢いです。
「ねぇ、雪子。彼の親友の椎名君ですら裏がある気がするって言ってるんだから、もうちょっと慎重に行ったほうがいいんじゃない?」
「何言ってるのよ! 全校生徒の憧れの的、白鳥君の彼女になれるかもしれないチャンスなのよ! これを逃がしたら奈良第一高のミセス・インポッシブルの名が泣くわ!!」
「ミセスじゃ既婚者だし。不可能奥さんってどんなのよ」
もの凄く家事とか苦手そうなあだ名でした。
「とにかく! 私は行ってくるからね! タラコ君! 彼は教室に居るのよね? 雪子、突貫しまーす!!」
言うやいなや、雪子はチョコレートの包みを持ったまま音速を超えて駆け抜けていきました。
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ぽてとー