捕獲作戦
きーんこーんかーんこーん
「さて、とりあえず取り巻きAを捕獲してきた訳ですが」
「むぐー! むぐー!」
「しゃべんな、暴れんな、制裁キックっ!」
「むぐぃう!」
「あんたの身柄は『対白鳥つかさヴァレンタイン作戦』用に徴収された。異論は認めない。返事はイエス以外聞きたくないわ!」
「……雪子、あんたのりのりね」
満面に笑みを張り付かせ歓喜の愉悦におぼれる雪子とそれを呆れ顔で見やる明日なのです。
二時間目、二人は人気の無くなった空き教室でどうやら一人の男子生徒を折檻することにしたようでした。
「折檻……? ちっちっち……甘いわね。拷問といってもらおうかしら。さぁ手始めに左右のつめどこから逝く? あっははは! そっか! いきなり耳からがいいって!?じゃあまずは左からスライスだだだぁぁぁぁぁああああ!!!」
「こーらー、大事な捕虜をすぐ壊さない」
ごす
鈍い銀色に輝く怪しげな器具と芋剥き器を構えて今まさに哀れな捕虜をその毒牙にかけようとしていた雪子を、それまで腕組で眺めていた明日が背後からのチョップで止めます。
「見なさい。このコ、怯えきってるわ。」
拘束され、あまつさえ口にまでガムテープを張られたその男子生徒は某CMのチワワのような目で明日を見ます。目じりには涙がいっぱいに浮かんでいました。
「ごめんね、椎名君。私たちはあなたにちょっと協力して欲しいだけなの。だから協力してくれるかな?」
明日の呼びかけに椎名君と呼ばれた少年はこくこくと何度も頷きます。
「んー、このままじゃ話しにくいわね……これ、はがしても叫ばない?」
壊れたおもちゃのように頷き続ける少年を見て肯定の意と汲んだのか明日は彼の口をしっかりと塞いでいたテープの端を思い切り引っぺがします。
「うっ、ぷはっ、……っ誰かー!!助けーーー!!――――ぶがぁ!!」
「叫 ば な い っ て 言 っ た よ ね ?」
こくこくこくこくっ!!
「……まぁいいや。叫んでもどうせ聞こえないし。もし人が来たとしても」
「……来たとしても?」
「血液型の違う二人、一緒にミキサーにかけてミンチにしちゃったらやっぱり固まってゼリーみたいになるのかしら」
「いやだあああああああっ!!!」
「叫ばないでよ、椎名君。唇引きちぎってタラコの隣に並べてまぁ、そっくり☆って言って欲しいの?」
「それもいやだああああっ!! って、そこまでぶ厚くないぞっ!」
「うるさいわねタラコ。吐く息が公害並みに大気汚染だからちょっと黙ってろって言ってるのタラコ」
「二回も言われた!ていうかさり気にもっと酷い事言われた!父さんにも言われたこと無いのに!」
「ガンダムかって。あんたのその『ちびまるこちゃん』に出てくるハマジ君並みの卑猥物体はクラス全員の統一見解だから今更いちいち傷つかないでよね。私たちあんたのお安い一発芸につきあってるほど暇じゃないの。悔しかったらDNAからやり直しなさい」
とても、容赦の無い子でした。
「お、俺が何したってんだよぉ! ていうかお前ほんとに大園か!? そんなヤツだったの!?」
哀れ椎名君はデンジャラス&コケティッシュ&ブラックサバスな明日たちの性格を良く知らなかったようです。合掌。
「む、そんなやつとは失礼なやつだ。そんなこと言う口なんて縫ってしまえー」
そんな事を言いながら縫い針を構える明日。そう、椎名君はとても美男子と言えないとてもタラコな魅惑のくちびるを持つだけのごく一般の男子生徒なのです。
「やだー! 助けてー! 人殺しー!!」
いやいやをしながら必死に抵抗する椎名君
「ふっふっふ。嫌がられれば嫌がられるほど求めたくなる……そう、これは狩人の本能?私、楽しいのね。うふふ。うふふ」
目の中に永井豪作品並みの螺旋を描き、皆様にはとてもお見せできない類のサディスティックな表情でにじり寄る明日。
そんな彼と彼女たちは結局は一つの教室で学ぶ同じクラスメイトなのです。本人達がどうあれ、仲良きことはよき事かな、なのでした。
ご拝読ありがとうございました。
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ぽてとー