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物語の社

おかしな話

作者: 五月雨

 おかしな話がある、と聞かされたのは秋も半ば。木枯らしを聞くには早い、夕立の疎ましさを忘れかけた頃だった。


「何があったのだい?」


「昨夜、墓参りに行ったのさ」


 このような云いかたをする。訊かれたことに答えない。かと思えば、必要なことは喋るため会話が途切れることもない。


「正体見たり枯れ尾花、というだろう?」


「ああ、そのとおりだ。枯れ尾花でなかったら、お前さんはどうなっていたろうね」


「月が明るくてな。歩きやすかったぞ」




 ☆★☆★☆★☆★☆




 ふと思い立って散歩に出かける。そのような経験をした人は多い。たまたま深夜だったり、墓地だったりするのかは別として。


 彼岸花。極細の花弁が血の糸を引いたように、柔らかく反る。


 山梔子。願いを込めて[朽ち無し]、想い届かず[口無し]とも。


 不吉な存在、とは無理な言葉。在り様が忌を呼ぶ論拠はない。


 名が体を表す、こちらも同様。彼岸に近づくとされる季節の花、しかし彼岸――死後の世界が実在するのかは分からない。山梔子の花は朽ちる、口を持つ花はない。


 枯れた尾のような花、とは……[枯れた][尾のような花]か。[枯れた尾のような][花]か。


「…くだらないことを考えるのだね。君は」


「[枯れた花]は存在する。果実だ」


 [尾のような実]、すなわち[尾実]。枯れたのは尾か花か。これなら正確に表すことができる。




 ★☆★☆★☆★☆★




「…それで結局、何が言いたいのかね」


「月を背にした枯れ尾花。あれは美しいものだな」


 異論なし。周りが墓標で埋め尽くされ、あまつさえ人魂が飛び交うとしても。


「おかしな話、はどこへ行ったのだい。そいつを聞くために、わざわざ足を止めたのだぜ」


「団子というのは美味いな。幾つでも食べられる。さほど腹は空いていなかったのだが」


「………?」


 またしても。[おかしな話]を促したのに[おかしな話]が出てこない。


 おかしな話だ。いや待て……これはそもそも、そういう話なのか。


「…月を愛でていたのさ」


 不思議そうに囁いた。評判の甘味を頬張りながら。


「おかしな話もある……翌朝になったら、私の目方が恐ろしく増えていたのだよ」

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― 新着の感想 ―
[一言] そんな見方もある、と。
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