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女装剣豪令嬢  作者: 高美濃 四間
第二章 覚醒
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……なんだろう、この心の底から湧き上がってくる感覚は

 僕は、新たな世界を初めて歩いた。

 場所は今までと変わらない、人通りの少ない細い裏通りだけど、僕の知らない世界だ。

 今までは、長い前髪を通してだったから薄暗い世界が目に映っていたけれど、今はこんなにも色鮮やかな世界だったのかと、感動すら覚える。

 隣を歩く友人兼雇い主には感謝の気持ちで一杯だ。


「ふふっ、感動しているね。ようやく自分の美しさに気付いたと見える」


「いえ、そういうわけではありません」


 そら見たことかと得意げに言ってくるので、きっぱり否定した。

 リリーナには、まったく僕の感動が伝わっていなかったらしい。

 まあいいけど。

 しかし彼女の指導で背筋を伸ばして歩いているから、僕との身長差がかなりあるのだと気付かされる。

 さらに背には斬鉄剣を下げているので、横を歩くお嬢様然としたリリーナとの違和感が凄まじい。

 

「やっぱり、こんな背の高い女の子って違和感ありませんか?」


「なにを言ってるんだ。むしろ、モデル体型だから世の女子の憧れだよ」


「またまたご冗談を。それに、刀剣だって背負ってますし」


「むしろ、凛々しすぎて憧れの(まと)になるだろうな」


 僕の頬が(いびつ)に引きつる。

 リリーナは当たり前のように言ってくるが、そういうこと言うのは止めてほしい。

 もうこれ以上、僕の男としての尊厳を奪わないで……いや、尊厳なんてものが、まだ残ってると思っていること自体が錯覚なのかもだけど!


「さて、ここからが本番だぞ」


「はい?」


「ここまではほとんど人が通らなかったから、気にならなかったかもしれない。だけど、今から歩くのは活気のある大通りだ。老若男女多くの人の目にさらされる。心の準備はしておいたほうがいい」


 僕は緊張に頬を強張らせ息をのむ。

 どうか誰も僕の存在に気づきませんように、と願うばかりだ。

 大丈夫、誰も僕になんて興味ないさ。

 そして意を決し、リリーナに続いて喧騒でにぎわう大通りへと足を進めた。


 次の瞬間、視界に眩い光が飛び込んできて強い圧迫感を覚えた。

 

「ぅっ……」


 想像を絶する空気感に思わず後ずさる。

 無数の視線を感じた。

 勘違いなんかじゃない、間違いなく多くの人々が僕を見ている。

 ダメだ、気持ち悪い。


「っ~~~」


 僕は左手を口元へ当て下を向いてしまった。

 周囲の雑音は耳鳴りになって頭をガンガン揺らし、動悸が激しくなってくる。

 もう視界を遮る髪はないと言うのに、目の前も真っ暗に。

 ごめんなさい、リリーナさん、僕は――


「――ルノ!」


「っ!?」 


 凛々しく高い声がすぐ横で聞こえた。

 いつの間にか、右手を握られている。

 そこから伝わってくるぬくもりは、じんわりと体の芯へ広がるようで、次第に視界も色を取り戻していく。


「よく耳を澄ますんだ。そして顔を上げろ。君へ向けられている視線は、決して悪いものじゃない」


 耳元で優しくささやかれ、僕は目を閉じて耳を澄ます。


「な、なにあの人、めちゃくちゃ美人なんですけど……」

「あんなべっぴんさん、この町にいたっけか?」

「背も高いし、新人のモデルとかじゃない?」

「はぁ~美しいわぁ、ひざまずきそう……」

「横にいるのは確か、クイント家のお嬢さんだよな? あんな可愛い女の子と知り合いで羨ましい」

「靴をなめたい」


 聞こえてきたのは、僕の想像していたのとは違った。

 それは悪意ではなく、羨望せんぼう憧憬どうけい


 ……なんだろう、この心の底から湧き上がってくる感覚は。

 なんだか体が熱い。

 もしかして僕は今、高揚感を覚えているのか?


 熱に浮かされたようにボーっとしていると、リリーナはさらに強く手を握る。


「胸を張って顔を上げるんだ。誰も君を否定したりしていない。むしろ憧れているのさ。誇っていい、君は私なんかよりもよっぽど美しいんだから」


 一言一言が勇気を分けてくれるようだった。

 僕は大きく深呼吸すると、リリーナの手を離し背筋を伸ばした。


「もう大丈夫です。ありがとうございました」


「それでこそ、私の誇る友人だ」


 僕は今度こそ、リリーナと共に歩き出す。

 周囲の好奇の視線を受け流しながら。

 これでようやく、新たな世界を進むことができるのだ。

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