僕は差し伸べられたリリーナの手をとり、新たな世界へ足を踏み入れるのだった。
「――しくしく……僕、汚されちゃった……もうお婿に行けない……」
気付いたときには、すべてが終わっていた。
今このときをもって、リン・カーネルは死に、『ルノ・カースト』という名の女性が誕生した。
リリーナは、うっとりと赤らんだ頬を緩め、耳元でささやいてくる。
「心配はいらないよ。いざとなれば、私が責任をとって君をもらい受けるから」
やだ、イケメン。
というか、なんでそんなに幸せそうなの?
恋する乙女みたいな顔してるし……
「とにかく、まずは自分の姿をちゃんと確認しなさい」
リリーナにうながされ、大理石の縁できた姿見の前に立つ。
そして、自分の姿に言葉を失った。
「……これが僕?」
軋んでいた髪は、艶のあるサラサラの黒髪となって後ろへ流しており、前髪はぱっつんに切りそろえられている。
輪郭が細く、綺麗な顔に長いまつ毛。そこから覗く翡翠の瞳は、神秘的な輝きを宿しているようだ。
胸に黒いリボンのついた白いブラウスに、紺のロングスカート。
背は高く色白の肌は、洗練された雰囲気によくマッチしている。
……って、誰だよ!?
これじゃ別人、本当に女の子みたいじゃないか!
もちろん抵抗はしたさ。
でも、リリーナが相手だとまるで抗う力が入らず、思うがままにされてしまった。
もう失うものはなにもないと思えば、なにもかもがどうでも良くなったんだ。
でも、前髪を切られた後はすぐ我に返ったけど。
「はぁ……」
おっといけない、自然と深いため息が出てしまった。
だと言うのに、リリーナは今までにないほど目を輝かせている。
「す、素晴らしい……なんて美しさなんだ!」
「まぁ、お世辞でも嬉しいです」
「お世辞だって? バカなことを言うな! 自分では分からないだろうけど、めちゃくちゃ美人だし色っぽいぞ。男だからこその恥ずかしがる様は愛らしくて庇護欲をかき立てられるし、襟から覗く白い首筋は色気がある。前髪を切ったおかげで綺麗な顔も出せて、心なしか声も明るくなったじゃないか。これならどんな男だってイチコロだ!」
「いえ、そんな能力求めてないです……はぁ、男としての僕の尊厳がぁっ」
「伏し目がちなのもグッド!」
リリーナは声を大にして親指を立てる。
小柄で愛くるしい外見も相まって、とてもキュートに見えるはずなんだけど、今の僕から見れば小悪魔だ。
この人、もしかして変態なんじゃないだろうか……あれ? もしかして僕、なにか重大なミスを犯した?
それに妥協は許さないと、下着まで……うぅぅぅ、思い出すのは止めよう。
恥ずかしさのあまり、顔から火を噴きそうだ。
「ふふふっ、もぅ可愛いなぁ」
「むぅ、リリーナさんは酷いお方です……」
「や、止めて! そんな目で私を見ないで! ドキドキしちゃうから!」
「はぁ、もう勝手にしてください」
「ふぅ……危うく新しい世界に目覚めるところだったよ」
彼女は頬を赤らめつつも、胸に手を当て深呼吸すると、コホンッと軽く咳払いした。
「それじゃあ、自己紹介をしてみようか」
「あ、はい。リリーナさんの友人の『ルノ・カースト』と申します。どうぞよろしくお願い致します」
僕は立ち上がり、あらかじめ言われていた通りに挨拶する。
左足を斜め後ろへ引き、右の膝を軽く曲げて背筋は伸ばしたまま。スカートの裾をつまんで軽く上げ、頭を下げる。
「うん、完璧だよ。これでいこう」
「はい、承知致しました」
「それじゃあ、我が友人であり護衛でもあるルノ、ようこそクイント家の屋敷へ。心から歓迎するよ」
リリーナは慈愛をたずさえた溢れんばかりの笑みを浮かべ、ゆったりと優雅に手を差し伸べてくれた。
もしかすると、彼女は寂しかったのかもしれない。
この広い屋敷に一人で住んで、美味しい食事やスイーツを一人で食べ、辛いことや困ったことがあっても、相談する相手もいない。
もしそんな孤独感に心細い思いをしているのなら、助けになりたいと心から願う。
あなたこそ、僕の恩人なのだから。
僕は差し伸べられたリリーナの手をとり、新たな世界へ足を踏み入れるのだった。
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