……え? どういうこと? なにがイケるの? なんだかとても不安になってきたんだけど!?
「――で、そういうわけの分からない理由でアルゴス商会を解雇されたんです。その後の根回しも酷くて――」
途中でいったん中断したものの、僕はすべてを話していた。
さすがに、カーネル家の秘密のことは話せなかったけれど、この地へ来てから今日に至るまでのことはおおよそ伝えられたと思う。
さきほどまでなぜか取り乱していたリリーナだったけれど、今は悲しげに眉尻を下げ肩を落としていた。
「リン、君も大変だったんだな」
一言だった。
深く理解を示したような重い言葉。
だが、その一言に救われた気がした、話して良かったと心から思った。
「……ん? こらこら、男の子が泣くもんじゃないぞ」
「な、泣いてましぇんっ!」
「ふふふっ」
リリーナは慈愛に満ちた笑みを浮かべ、僕はとても恥ずかしくなった。
リリーナは腕を組んで目線を下げ、しばらく難しい顔をして考え込んだ後、顔を上げた。
僕を見る眼差しには、決意とも呼べる迷いなきまっすぐな眼光をたずさえている。
「よし、決めた。リン・カーネル、君を私の護衛として雇いたい。もちろん、住み込み、まかないつきで」
「えぇっ!?」
突然の提案に仰天し、僕は思わずテーブルへ身を乗り出した。
「実は、再び貴族になることを目指していてね。そろそろ付き人の一人も欲しいと思っていたんだ。腕が立ち、強い欲もなく、なおかつ信用のおける存在。そんな条件に当てはまる人物がなかなか見つからないでいたが、君になら……いや、ぜひ君にお願いしたい」
「で、でも、今日会ったばかりの僕なんかを信用していいんですか?」
「見くびってくれるな。これでも人を見る目はあるつもりだ。貴族の身分を剥奪され、一族が路頭に迷ってからは、特に磨きをかけている。ここまで接してきた中で、君の言葉に嘘偽りはなかったと断言できるし、そんな酷い状況にあっても闇を抱えていない。そんなリンだから、信用できると思ったんだ」
「あ、ありがとうございます! でも……」
僕はまず礼を述べて深く頭を下げた。
自分を肯定してくれる言葉で胸が一杯だ。
それに、護衛は言わば僕の唯一の取柄が活かせる天職。
そばでリリーナを守ってあげたいと思う気持ちに嘘偽りはない。
しかし、リン・カーネルの名と悪評は、アルゴス商会に町中へ広められているし、姿を知っている人も多い。
「とても嬉しいお誘いです。でも、僕があなたのそばにいては、きっと迷惑をかけてしまうでしょう」
「だから、構わないと言っているだろう。私が君にそばにいてほしいと言っているんだ。でも、それで君が気に病んでしまうのなら……一つ、素晴らしいアイデアがある」
彼女は不敵な笑みを浮かべて告げると立ち上がり、テーブルの横から回り込んで僕の目の前まで歩み寄った。
そしてその細く小さな手を僕のおでこに当てる。
そのまま前髪を上へ上げて僕の素顔を確認した。
「っ……」
僕は我慢するように唇を噛む。
コンプレックスである女性のような顔を間近で見られたのだ。
突如として不安な気持ちが大きくなり、至近距離にある彼女の顔を見れず目が泳いでしまう。
だが彼女は、少し頬を赤らめ微笑むと告げたのだった。
「……イケる」
……え? どういうこと?
なにがイケるの?
なんだかとても不安になってきたんだけど!?
「い、今なんと?」
「私に素晴らしい考えがあるんだ」
僕の不安など気にしていないのか、リリーナは興奮気味に頬を紅潮させながら告げた。
「女の子になるんだ、リン」
「………………は?」
まさか、これが僕の人生における転換点になるとは、このときは思いもしなかったんだ。





