表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女装剣豪令嬢  作者: 高美濃 四間
第一章 女装剣士の誕生
5/48

むぅ、なんか悔しい……でも、手は止まってくれないやっ!

 リリーナ・クイントの屋敷は、町の外れにあった。

 漆黒の柵の内側に広がる芝生の庭の先に堂々と建つ、赤レンガの豪邸だ。

 庭はところどころ手入れが行き届いていないところがあったり、壁の表面が少しばかり色褪せていたりと、やや古びた雰囲気を醸し出している。

 それでも大きく立派な屋敷であることには変わらない。


 正面玄関から入り、広いホールを歩くリリーナの背へ僕は問う。


「リリーナさん、あなたはもしかして……」


「いいや、貴族ではないよ。それは昔の話だ」


「そう、ですか……」


 それ以上はなにも言えなかった。

 彼女の表情が見えたわけじゃないけど、触れてはいけないことなんだと分かったんだ。

 少し気まずさを感じながら、中央の階段を上っていく。


 二階に上がってすぐに、応接室があった。

 

「ソファに座って少し待ってて」


 リリーナはそう言うと、部屋を出て行った。

 色々と気になることはあるけど、さすがにこんな広い屋敷を一人で歩き回ったりしたら迷子になるので、大人しくソファに座る。


 凄いっ、ふかふかだぁ。

 周囲を見渡すと、絵画や高級そうな装飾品がたくさん飾ってあったりして、なんだか落ち着かない。

 ただ、この屋敷には人の気配を感じない。

 それがどうも気がかりだ。

 さっきのリリーナの言葉から察するに、彼女は没落貴族といったところだろうか?

 でもそうなら、まだ屋敷に住んでいるのも、さっきみたいな高級料亭で人に食事をおごれるのも少し違和感がある。


「でも、聞きづらいよなぁ」


 僕が腕を組んでう~んと唸っていると、銀のトレイを持ったリリーナが戻って来た。

 トレイの上には、紅茶の香るティーカップと、フルーツの乗ったケーキタルトが二人分乗っている。

 彼女は楽しそうに笑みを浮かべながら、ティーカップとケーキタルトをテーブルへ置いた。


「甘いものは好きかな? 良かったらどうぞ」


「っ! ありがとうございますっ、いただきます!」


 思わず笑みがこぼれる。

 スイーツを用意してくれるあたり、リリーナさんも女の子なんだなぁ。

 なんだかほっこりする。

 どうしても凛々しくてカッコいいイメージが強いから、甘いものが好きっていうのは親近感がわいてきた。


 それじゃあ、まずは紅茶から……うん、美味しい。

 なんだか心が落ち着くようだ。

 さて、それではお待ちかねの……ゴクリ。

 のどが鳴る。


 そういえばスイーツなんて食べるのは久しぶりだ。

 稼ぎの少なかった僕にとっては、嗜好品を食べられるのも、一か月に数回程度。

 それでも、相当の甘党だと自負してる。

 リリーナさんには申し訳ないけど、僕の舌は厳し――


「――美味しい!」


 ダメだ、庶民の舌では敵わなかった。

 生娘(きむすめ)みたいな僕の素直な反応に、リリーナは顔をほころばせる。


「そうか、良かった」


 むぅ、なんか悔しい……でも、手は止まってくれないやっ!


 そして、一瞬でケーキタルトをたいらげ、幸せのあまり僕が目を細めていると、リリーナが急に真剣な表情になって低い声で問う。


「それで、なにがあった?」


「え? それはどういう……」


「その格好に極度な空腹、そして居合わせたのが闇市場に近い裏の通り。あれだけの実力を持つ君だからね、どうも違和感を覚えるんだ。なにかしらの事情を抱えているであろうことは、簡単に分かるよ」


「っ!」


「私に話してくれないかな?」


 まるで心を(わし)掴みにされたかのようだった。

 それほどの衝撃を覚えたのだ。

 今まで誰も、僕に興味を持った人はいなかった。

 そんな僕の話を聞いてくれようとする人がいる、その事実だけで気が楽になるようだ。

 

 だから、彼女にすべてを打ち明けようと思う。

 これは僕のエゴだ。

 そっちから聞いてきたんだから、後悔したって止めてあげない。

 僕の我慢という壁を壊したのは、あなたなんだから。


「僕は、軍事国家の『オリファン』から移住してきました――」


 すべてを話した。

 僕が元々は、鬼人の国であるオリファンに住んでいて、一族は滅亡したこと。

 その後、この先進国『ドルガン連邦国』のイージス州へやってきたこと。

 そして、アルゴス商会で長年護衛をしてきたことを。


「――ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 途中まで真剣に聞いていた彼女だったが、突然手を挙げて話を遮ってきた。


「はい? なにか?」


「す、すまない。話の腰を折るような不作法なこと、普段はしないんだけど、可及的(かきゅうてきすみ)速やかに確認しないといけない案件が発生したもので」


「は、はぁ。それは?」


「……君はまさか、女ではないのか?」


「は? 見ての通り男ですけど」


「ふ……」


「ふ?」


「ふぇぇぇぇぇっ!?」


 当たり前のことを告げた途端、リリーナは赤面して頭を抱えた。

 突然の反応に僕は困惑する。

 いったいどうしたんだろう?


「わ、私はなんてことをっ……知らなかったとはいえ、男の子の手を握るだなんて、なんて大胆な……ぐぉぉぉっ」


「リ、リリーナさん?」


「ハッ! な、なんでもない! 話の腰を折って悪かったね。さ、続けて?」


 なんかすごく頬が引きつってるんだけど……

 それに、顔もまだ赤いし。

 まぁいいか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ