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女装剣豪令嬢  作者: 高美濃 四間
最終章 リン・カーネルの逆襲 
47/48

僕のようやく見つけた幸せだから、そう教えてもらえたから

さあ、最終決戦です!

いつもの文章量の2倍はあるので、じっくり腰を据えてお楽しみくださいませ。

 数日後、アルゴス商会はかつてない窮地に陥っていた。

 ある日突然、押し入って来たイージス金庫の調査員たちによって、今まで隠してきた財務状況を知られた。

 それにより、アルゴス商会のこれからの経営に疑念があるとして、融資金の即時返済を要求してきたのだ。

 もうハウルへの賠償金どころではない。

 今まで借り入れていた金をまとめて返済しようものなら、営業資金がショートし破産する。


「どうしてこんなことに……」


 アルゴスの執務室に来ていたナハルは深刻な表情で呟いた。

 ボロスのほうもなにも言えず下を向いている。

 彼らの無様な様子に、アルゴスは「使えない奴らだ」と内心で舌打ちしていた。

 いつもなら、「黙り込んでいないで、なにか案を出せ!」と怒鳴り散らすところだが、もうそんな気力もなくなっている。


「――アルゴス会長、今お時間よろしいでしょうか?」


 そのとき、部屋の扉が控えめにノックされ、若い幹部の声が聞こえた。

 ナハルとボロスは微動だにせず、アルゴスは苛ただしげに答える。

 

「今は取り込み中だ。後にしろ!」


「し、しかし、キュリオン商会のキュリオン会長が急用とのことで……」


「なに? キュリオンだとぉっ!?」


 その名を聞いたアルゴスが眉をしかめる。

 彼からすれば、着々とアルゴス商会の取引先を奪っている憎き競争相手だ。

 そんな商会の会長がいったいなんの用だというのか。


「……分かった、通せ」


「かしこました」


 すると、キュリオンは既に部屋の前で待っていたようで、返事をもらってすぐに入室する。

 その後ろには、付き人らしき黒いローブを着た者が二名。

 深々とフードをかぶっているため、その顔はよく見えない。

 背の高い片方は、長い刀を納めた鞘を持っており、護衛のようだ。


 ナハルとボロスは、アルゴスの机の前を空け、横へ移動する。


「お久ぶりです、アルゴス会長」


「我々の取引先を奪っているくせに白々しい。いったいなんの用だ、キュリオン」

 

 いきなり敵意を向けてくるアルゴスに、キュリオンは肩をすくめた。


「そうにらまないでください。本日は交渉に来た次第です」


「交渉だと?」


「アルゴス商会の経営危機については、存じております。そこで、当商会がアルゴス商会へ出資しようと考えているのですが、いかがでしょうか? イージス金庫へは、その出資金で返済して頂ければ構いません」


「ふざけるな!」


 アルゴスは怒号を響かせると、机を思いきり叩いた。

 額には血管が浮き出し、今にも掴みかかりそうな勢いだ。

 とはいえ、それもそのはず。

 アルゴス商会へ出資するということは、キュリオン商会がオーナーになるということ……つまり、商会の買収だ。

 アルゴス商会をキュリオン商会の傘下(さんか)にするという宣言でもある。

 自分たちよりも規模の小さい商会に買収されるなど、屈辱以外のなにものでもない。


 しかし、財務状況に危機感を持っていたボロスは、アルゴスをなだめる。

 キュリオン商会に買収されることで、破産を逃れることができるのだから。


「ア、アルゴス会長、どうか落ち着いてください。お気持ちは痛いほど分かりますが、ここはどうか、懸命なご判断を……」


「なんだと? ボロス貴様ぁ、誰の味方をしている!?」


「わ、私はただ、アルゴス商会のためを思って……」


「なんだとぉっ!?」


 ついにアルゴスの怒りが沸点を超え、机の横から回り込んでボロスの胸倉をつかんだ。

 あまりの力にボロスの顔が青ざめる。

 ナハルが慌てて二人へ駆け寄り、キュリオンへ聞こえないようささやいた。


「アルゴス会長、ご心配なく。たとえ今は奴らの傘下に納まったとしても、またいずれ、キュリオンを出し抜き、会長の座を奪い返せばいいのです」


「……ふんっ」


 アルゴスは忌々しげに鼻を鳴らすと、ボロスを離した。

 そしていまだ怒りに歪む目をキュリオンへ向ける。


「いいだろう。キュリオン、貴様の口車に乗ってやる」


「懸命なご判断、痛み入ります」


 キュリオンは安心したように肩の力を抜いて頬を緩ませると、横の付き人に持たせていた、数枚の紙を渡した。

 契約書だ。

 アルゴスは、ひったくるように荒々しくそれを奪い取ると、さっと内容に目を通してサインする。

 ナハルとボロスは、緊張の面持ちで見守っていたが、サインが終わると安堵のため息を吐いた。


「これでいいんだな?」


「はい、交渉成立です。あっ、そうそう、経営会議で明らかになるので、今のうちにお伝えしておきますが、アルゴスさん、ナハルさん、ボロスさんの三名は、商会から追放としますので、そのつもりでいてください」


「「「……は?」」」


 三人の声が見事に重なった。

 思いもよらぬ言葉に理解が追いついていないようだ。

 キュリオンの表情はにこやかで、あまりにも発言の内容と一致していないのだから。


 アルゴスはみるみる顔を憤怒に歪めた。


「キュリオン、貴様ぁっ!」


 しかし、契約書にサインした時点で、既に契約は成立している。

 キュリオン商会は、アルゴス商会の経営に口を出すことができるのだから、アルゴスたちの解雇も簡単だ。

 商会の窮地は逃れたものの、今度は自分たちが窮地へ追い込まれることになり、アルゴスたち三人は焦った。


「くっ、そんなもの無効だ!」


 ナハルが慌てて契約書をキュリオンから奪い取ろうと迫るが、その間に付き人が割って入った。

 彼が居合の構えをとり、ナハルは足を止める。


「えぇいっ、邪魔をするな!」


「往生際が悪いな。オーナーから経営を退(しりぞ)けと言われたんだから、おとなしく去るのが筋だろうに」


 透き通るような凛々しい声で告げたのは、背の低いほうのもう一人の付き人だった。

 そして二人は、かぶっていたフードを外し、その正体を明らかにする。


「き、貴様らはっ!」


 

 ――僕とリリーナの顔を見たアルゴスたちは、驚きに目を見開いていた。

 そう、僕たちは最初からずっと、キュリオンとのやりとりを見ていたのだ。

 すると、ボロスは急に強気に出て怒鳴り散らした。


「なぜ部外者がここいる!? とっとと出て行け!」


「いえいえ、リリーナさんは我がキュリオン商会のオーナーですから、部外者ではありませんよ」


「な、なんだと!?」


 キュリオンが表情を変えず穏やかに告げ、ボロスは眉を寄せた。

 そしてアルゴスはすべてを悟る。


「そうか……貴様か、貴様ごとき没落貴族がはかったのかっ、この小娘がぁぁぁっ!」


 怒り狂ったアルゴスがリリーナへ掴みかかろうと迫る。


 そんなこと、僕が許しはしない。


 ――飛燕(ソニック)


「っ!?」


 斬撃による衝撃派で、アルゴスが踏もうとしていた木製の床に穴を空けた。

 それで足を踏み外した彼は、体勢を崩し、前のめりに倒れる。

 その目の前にはリリーナがいて――


「ふごぉっ!?」


 その横っ(つら)を僕の拳が思い切り殴り飛ばしていた。


 ――ドゴォンッ!


 アルゴスは棚に頭から激突し、白目を剥いて意識を失う。

 それを見ていたナハルとボロスが震えあがっていた。


 だけど、それだけでは許さない。


「こんなものでは足りません。我が親友への侮辱、そしてアリエスさんの受けた傷はこんなものじゃありません。失ったものはもう返ってこないんだ――」


 ――不可視の一閃(インビジブル)無間の殺傷範囲(キリングレンジ)――


 次の瞬間、無数の剣閃が煌めく。

 目にも止まらぬ斬撃は、床、壁、机と次々に斬り刻んだ。

 そして、嵐のような凄まじく鋭い風切音が止んだとき、刃のかすっていたナハルとボロスの頬から血が垂れ、彼らはショックで気を失ってしまった。


 完全に沈黙。

 僕は深呼吸すると、背後を振り返り頭を下げた。


「リリーナさん、キュリオン会長、勝手なことをして申し訳ありませんでした。この部屋の修理費は必ずお支払います」


「いえいえ、いいんですよルノさん。アルゴス商会の横暴さには昔から困っていましたし、なんだかスカッとしました」


「君やアリエスの受けた仕打ちを考えれば、まだまだ足りないくらいだよ」


「……いいえ、もう十分です。これからは明るい未来の話をしましょう」


 僕は、刀を鞘へ納め背へ担ぎ直す。

 これでようやく落ち着ける。

 胸のつかえがとれたような、なんだか清々しい気持ちだ。


 過去を振り返るのはやめよう。

 輝き出した新しい世界で、素晴らしい友たちと楽しく過ごせればそれでいいんだ。

 それこそ、僕のようやく見つけた幸せだから、そう教えてもらえたから。


 リリーナは、まるで無垢(むく)な少女のように可憐に微笑むと、僕へ手を差し伸べてくれた。


「ああ、また君の好きなものを食べに行こう」


「はいっ!」


 優しくて凛々しい、それでいて美しく気高い親友の手をとり、僕は歩き出すのだった。


 その後、追放されたアルゴスたちはこの町から姿を消し、その後どうなったのかは誰にも分からない。

 アルゴス商会を買収したキュリオン商会の規模は急拡大し、そのオーナーであるリリーナには大量の資金が舞い込んだ。

 それによって、キュリオン商会への出資権はとてつもない評価額となり、それを他の投資家へ売り渡すことで、彼女は一時的に大量の資金を手にした。

 貴族へ舞い戻るという夢に、大きく近づくことができたのだ。


 それによって、僕がフリーになるだろうと思ったアリエス、ケシー、ウィニングが次々に迫ってきたが、僕がたじたじしている間に、リリーナがいつもの如く悠々とあしらうのだった。

これにて本編は一旦完結でございます。

最後までお付き合い頂き、誠にありがとうございましたm(__)m


もし「おもしろかった!」と思って頂けましたら、この下にある☆☆☆☆☆から作品への評価をお願いしますm(__)m

また、レビューもして頂けると幸いです。


もし物足りないと思われた方は、おまけへ続きますので、どうぞ楽しみくださいませ。

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