僕のようやく見つけた幸せだから、そう教えてもらえたから
さあ、最終決戦です!
いつもの文章量の2倍はあるので、じっくり腰を据えてお楽しみくださいませ。
数日後、アルゴス商会はかつてない窮地に陥っていた。
ある日突然、押し入って来たイージス金庫の調査員たちによって、今まで隠してきた財務状況を知られた。
それにより、アルゴス商会のこれからの経営に疑念があるとして、融資金の即時返済を要求してきたのだ。
もうハウルへの賠償金どころではない。
今まで借り入れていた金をまとめて返済しようものなら、営業資金がショートし破産する。
「どうしてこんなことに……」
アルゴスの執務室に来ていたナハルは深刻な表情で呟いた。
ボロスのほうもなにも言えず下を向いている。
彼らの無様な様子に、アルゴスは「使えない奴らだ」と内心で舌打ちしていた。
いつもなら、「黙り込んでいないで、なにか案を出せ!」と怒鳴り散らすところだが、もうそんな気力もなくなっている。
「――アルゴス会長、今お時間よろしいでしょうか?」
そのとき、部屋の扉が控えめにノックされ、若い幹部の声が聞こえた。
ナハルとボロスは微動だにせず、アルゴスは苛ただしげに答える。
「今は取り込み中だ。後にしろ!」
「し、しかし、キュリオン商会のキュリオン会長が急用とのことで……」
「なに? キュリオンだとぉっ!?」
その名を聞いたアルゴスが眉をしかめる。
彼からすれば、着々とアルゴス商会の取引先を奪っている憎き競争相手だ。
そんな商会の会長がいったいなんの用だというのか。
「……分かった、通せ」
「かしこました」
すると、キュリオンは既に部屋の前で待っていたようで、返事をもらってすぐに入室する。
その後ろには、付き人らしき黒いローブを着た者が二名。
深々とフードをかぶっているため、その顔はよく見えない。
背の高い片方は、長い刀を納めた鞘を持っており、護衛のようだ。
ナハルとボロスは、アルゴスの机の前を空け、横へ移動する。
「お久ぶりです、アルゴス会長」
「我々の取引先を奪っているくせに白々しい。いったいなんの用だ、キュリオン」
いきなり敵意を向けてくるアルゴスに、キュリオンは肩をすくめた。
「そうにらまないでください。本日は交渉に来た次第です」
「交渉だと?」
「アルゴス商会の経営危機については、存じております。そこで、当商会がアルゴス商会へ出資しようと考えているのですが、いかがでしょうか? イージス金庫へは、その出資金で返済して頂ければ構いません」
「ふざけるな!」
アルゴスは怒号を響かせると、机を思いきり叩いた。
額には血管が浮き出し、今にも掴みかかりそうな勢いだ。
とはいえ、それもそのはず。
アルゴス商会へ出資するということは、キュリオン商会がオーナーになるということ……つまり、商会の買収だ。
アルゴス商会をキュリオン商会の傘下にするという宣言でもある。
自分たちよりも規模の小さい商会に買収されるなど、屈辱以外のなにものでもない。
しかし、財務状況に危機感を持っていたボロスは、アルゴスをなだめる。
キュリオン商会に買収されることで、破産を逃れることができるのだから。
「ア、アルゴス会長、どうか落ち着いてください。お気持ちは痛いほど分かりますが、ここはどうか、懸命なご判断を……」
「なんだと? ボロス貴様ぁ、誰の味方をしている!?」
「わ、私はただ、アルゴス商会のためを思って……」
「なんだとぉっ!?」
ついにアルゴスの怒りが沸点を超え、机の横から回り込んでボロスの胸倉をつかんだ。
あまりの力にボロスの顔が青ざめる。
ナハルが慌てて二人へ駆け寄り、キュリオンへ聞こえないようささやいた。
「アルゴス会長、ご心配なく。たとえ今は奴らの傘下に納まったとしても、またいずれ、キュリオンを出し抜き、会長の座を奪い返せばいいのです」
「……ふんっ」
アルゴスは忌々しげに鼻を鳴らすと、ボロスを離した。
そしていまだ怒りに歪む目をキュリオンへ向ける。
「いいだろう。キュリオン、貴様の口車に乗ってやる」
「懸命なご判断、痛み入ります」
キュリオンは安心したように肩の力を抜いて頬を緩ませると、横の付き人に持たせていた、数枚の紙を渡した。
契約書だ。
アルゴスは、ひったくるように荒々しくそれを奪い取ると、さっと内容に目を通してサインする。
ナハルとボロスは、緊張の面持ちで見守っていたが、サインが終わると安堵のため息を吐いた。
「これでいいんだな?」
「はい、交渉成立です。あっ、そうそう、経営会議で明らかになるので、今のうちにお伝えしておきますが、アルゴスさん、ナハルさん、ボロスさんの三名は、商会から追放としますので、そのつもりでいてください」
「「「……は?」」」
三人の声が見事に重なった。
思いもよらぬ言葉に理解が追いついていないようだ。
キュリオンの表情はにこやかで、あまりにも発言の内容と一致していないのだから。
アルゴスはみるみる顔を憤怒に歪めた。
「キュリオン、貴様ぁっ!」
しかし、契約書にサインした時点で、既に契約は成立している。
キュリオン商会は、アルゴス商会の経営に口を出すことができるのだから、アルゴスたちの解雇も簡単だ。
商会の窮地は逃れたものの、今度は自分たちが窮地へ追い込まれることになり、アルゴスたち三人は焦った。
「くっ、そんなもの無効だ!」
ナハルが慌てて契約書をキュリオンから奪い取ろうと迫るが、その間に付き人が割って入った。
彼が居合の構えをとり、ナハルは足を止める。
「えぇいっ、邪魔をするな!」
「往生際が悪いな。オーナーから経営を退けと言われたんだから、おとなしく去るのが筋だろうに」
透き通るような凛々しい声で告げたのは、背の低いほうのもう一人の付き人だった。
そして二人は、かぶっていたフードを外し、その正体を明らかにする。
「き、貴様らはっ!」
――僕とリリーナの顔を見たアルゴスたちは、驚きに目を見開いていた。
そう、僕たちは最初からずっと、キュリオンとのやりとりを見ていたのだ。
すると、ボロスは急に強気に出て怒鳴り散らした。
「なぜ部外者がここいる!? とっとと出て行け!」
「いえいえ、リリーナさんは我がキュリオン商会のオーナーですから、部外者ではありませんよ」
「な、なんだと!?」
キュリオンが表情を変えず穏やかに告げ、ボロスは眉を寄せた。
そしてアルゴスはすべてを悟る。
「そうか……貴様か、貴様ごとき没落貴族がはかったのかっ、この小娘がぁぁぁっ!」
怒り狂ったアルゴスがリリーナへ掴みかかろうと迫る。
そんなこと、僕が許しはしない。
――飛燕。
「っ!?」
斬撃による衝撃派で、アルゴスが踏もうとしていた木製の床に穴を空けた。
それで足を踏み外した彼は、体勢を崩し、前のめりに倒れる。
その目の前にはリリーナがいて――
「ふごぉっ!?」
その横っ面を僕の拳が思い切り殴り飛ばしていた。
――ドゴォンッ!
アルゴスは棚に頭から激突し、白目を剥いて意識を失う。
それを見ていたナハルとボロスが震えあがっていた。
だけど、それだけでは許さない。
「こんなものでは足りません。我が親友への侮辱、そしてアリエスさんの受けた傷はこんなものじゃありません。失ったものはもう返ってこないんだ――」
――不可視の一閃・無間の殺傷範囲――
次の瞬間、無数の剣閃が煌めく。
目にも止まらぬ斬撃は、床、壁、机と次々に斬り刻んだ。
そして、嵐のような凄まじく鋭い風切音が止んだとき、刃のかすっていたナハルとボロスの頬から血が垂れ、彼らはショックで気を失ってしまった。
完全に沈黙。
僕は深呼吸すると、背後を振り返り頭を下げた。
「リリーナさん、キュリオン会長、勝手なことをして申し訳ありませんでした。この部屋の修理費は必ずお支払います」
「いえいえ、いいんですよルノさん。アルゴス商会の横暴さには昔から困っていましたし、なんだかスカッとしました」
「君やアリエスの受けた仕打ちを考えれば、まだまだ足りないくらいだよ」
「……いいえ、もう十分です。これからは明るい未来の話をしましょう」
僕は、刀を鞘へ納め背へ担ぎ直す。
これでようやく落ち着ける。
胸のつかえがとれたような、なんだか清々しい気持ちだ。
過去を振り返るのはやめよう。
輝き出した新しい世界で、素晴らしい友たちと楽しく過ごせればそれでいいんだ。
それこそ、僕のようやく見つけた幸せだから、そう教えてもらえたから。
リリーナは、まるで無垢な少女のように可憐に微笑むと、僕へ手を差し伸べてくれた。
「ああ、また君の好きなものを食べに行こう」
「はいっ!」
優しくて凛々しい、それでいて美しく気高い親友の手をとり、僕は歩き出すのだった。
その後、追放されたアルゴスたちはこの町から姿を消し、その後どうなったのかは誰にも分からない。
アルゴス商会を買収したキュリオン商会の規模は急拡大し、そのオーナーであるリリーナには大量の資金が舞い込んだ。
それによって、キュリオン商会への出資権はとてつもない評価額となり、それを他の投資家へ売り渡すことで、彼女は一時的に大量の資金を手にした。
貴族へ舞い戻るという夢に、大きく近づくことができたのだ。
それによって、僕がフリーになるだろうと思ったアリエス、ケシー、ウィニングが次々に迫ってきたが、僕がたじたじしている間に、リリーナがいつもの如く悠々とあしらうのだった。
これにて本編は一旦完結でございます。
最後までお付き合い頂き、誠にありがとうございましたm(__)m
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もし物足りないと思われた方は、おまけへ続きますので、どうぞ楽しみくださいませ。





