僕は改めてリリーナの恐ろしさに戦慄したのだった
アリエスはベッドでぐっすり眠り、僕たちは居間でこれからのことを話していた。
「準備は整っているということでしたけど、具体的にはどのように?」
「店を妨害した賠償金を支払わないというのなら、それを逆手にとろうって話だよ」
「どういうことでしょう? なにか良い方法があるのですか?」
「ああ、既にケイト店長にお願いして、イージス金庫へ相談に行ってもらった」
「イージス金庫? もしかして、店の被害をカバーするのに、金を借りる必要があるということでしょうか? しかし、わざわざ金利の高くつく金庫番の融資を受けなくても……」
「違う。狙いは、イージス金庫がアルゴス商会へ行っている融資だ。まず、カフェ・ハウルがアルゴス商会から営業妨害を受けたという事情を話す。実行犯の証言もあるので、賠償金を請求してはいるがまったく応じないと。そこで、アルゴス商会は今、経営難に陥っているのではないかと訪ねるわけだ。当然、彼らもアルゴス商会へ融資している以上は、経営状況を把握しているだろう? というニュアンスを込めてね」
リリーナが二ヤリと薄い笑みを浮かべる。
彼女の狙いがようやく分かった。
アルゴス商会の経営危機をそれとなく示唆することで、イージス金庫を動かそうというのか。
アルゴス商会の規模を考えると、おそらく融資している額は決して少なくないはずだ。
当然、金貸しとしては、融資が焦げつくのを恐れる。
「まさか、既にそこまでの手を打っていただなんて……」
「きっと今頃、イージス金庫は慌てて調査の準備をしているはずさ。上手くいけば、商会へ直接踏み入ってその目で財務を確かめようとするだろう。そうなれば、窮地に陥っている現状が明るみになる。貸し剥がしまでしてくれれば御の字だな」
リリーナは勝ち誇ったように頬を緩ませ、優雅に紅茶を飲む。
貸し剥がし……融資先の返済能力がなくなったと判断した金庫番が、返済期日を待たずして融資金を全額回収しようとする行為だ。
もし現金での回収が困難な場合は、資産価値のある屋敷や商品の在庫を差し押さえる。
それが決行されれば、間違いなくアルゴス商会は破産するだろう。
なんて恐ろしい妙案。
これが実業家としての彼女の実力。
商売をする者なら誰もが敵に回したくない相手だろう。
「恐れ入りました。いったいいつの間にこんな話をケイト店長としていたんですか?」
少なくとも僕にその記憶はない。
「あぁ、君が店の新商品に夢中になっている間にだよ」
あっ、そういえば、店長と話してくるって言って、長く席を外していたこともあったっけ……
確かに、あのときはアフォガードという新しいスイーツに夢中になって気にもしてなかった……反省しよう。
もちろん、アフォガードは美味しかったけど。
アイスクリームにコーヒーをかけるというのがまた……
「ルノ?」
「ハッ! な、なんでもありません!」
「後は追い詰めたアルゴス商会をどうするかだが」
「そうですねぇ。大きな鉱石商が破産したとなると、市場が混乱しそうです。働いている商会員の方々も路頭に迷うことになるでしょうし……」
「心配はいらないよ。ちゃんと考えてあるから。アルゴス商会の腐った幹部たちだけを追い出す方法を――」
その方法を聞いたとき、僕は改めてリリーナの恐ろしさに戦慄したのだった。
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