その姿は、僕の知るアリエス・コリンとはあまりに違い過ぎた。
僕は町中を走り回った。
アリエスが立ち寄りそうな、絵画を売る露店も回った。
しかしどこにも彼女の姿がない。
途中で雨が降ってきて、僕はやむを得ず近くの建物の影で雨宿りをすることにする。
「ここは……」
そのときようやく気付いた。
今いるところは、夜ににぎわう歓楽街の通りだ。
アリエスを探すのに夢中で気付かなかった。
とにかく、こんなところはさっさと抜けよう。
そう思って濡れることにも構わず歩き出すと、前方から一人の若い女性が歩いて来た。
まるでなにかにとりつかれたように、ゆらゆらとした不確かな足取りで、今にも倒れそうだ。
だが顔を確かめた途端、僕は急いで駆け寄った。
「アリエスさん!?」
「……え? ルノ、ちゃん?」
僕の顔を見上げた彼女には、いつもの不思議な雰囲気はなく、その瞳は伽藍洞のように虚ろだった。
両手には、包帯が巻かれており、火傷を負ったであろうことが想像できた。
その痛ましい姿に、胸を締め付けられるようだ。
「ルノちゃん……私、私ぃ……」
アリエスが声を震わせ俯く。
その姿は、僕の知るアリエス・コリンとはあまりに違い過ぎた。
かけられる言葉が見つからない。
でも、今は彼女を放っておけないと思い、その手を握る。
「……こんなところにいたら、風邪を引いてしまいますよ?」
優しくそう言って彼女の手を引き、僕は来た道を引き返すのだった。
アリエスをクイント家の屋敷へ連れ帰ると、リリーナも彼女の変わり果てた様子に動揺していた。
一旦アリエスを客室のベッドで休ませると、リリーナへ事情を話す。
昨晩、アリエスの家が火事で焼失したこと、その犯人がアルゴス商会であると、シエンから聞いたことを。
さすがのリリーナも驚きを隠せないでいたが、やはりルビー宝石商とアルゴス商会の確執などについては知らないようだった。
しばらくして、アリエスが落ち着いたのを見計らい、僕とリリーナは彼女の話を聞くことにした。
「どうしてこんなことになってしまったのかしら……たった一晩で、多くのものを失ってしまったわ。お父様は、屋敷にため込んでいた資産を。私は、大切な絵の数々を……」
「だ、大丈夫ですよっ。命さえあれば、アリエスさんの才能さえあれば、またすぐにやり直すことができますよ!」
「そういうことではないのよ、ルノちゃん。絵というのはね、絵描きが心血注いで創り上げた、言わば子供のようなものなのよ。私はそれに価値を見出し買い取る。そしてより価値を感じてくれる人に譲っていくの。それをただただ失うなんて、作者の方々に申し訳が立たないわ」
アリエスは、悔しそうに涙を浮かべ、シーツを握っていた。
「そんな……アリエスさんのお気持ちも考えず、勝手なことを言って本当に申し訳ありません……」
「いえ、いいのよ。でもそうね……もし申し訳ないと思っているのなら、私と結婚してくれないかしら」
アリエスはぎこちない笑みを浮かべながら告げる。
だが、まだ無理をしているのは分かった。
でも少しは、いつもの調子に戻ってきているのかもしれない。
ずっと黙っていたリリーナは、呆れたようにため息を吐くと、ようやく口を開いた。
「そんな冗談が言えるなら、もう大丈夫だな」
「ふふっ、どうかしら。しばらくルノちゃんに看病してもらえるなら、気分もだいぶ良くなると思うのだけれど」
「あ、あはは……」
「それよりも、実は君に確認したいことがあるんだ」
「なにかしら?」
「ルビー宝石商とアルゴス商会の間に、なんの繋がりがある?」
「……え? どうして急にアルゴス商会の名前が出て来るの?」
「驚くだろうが、落ち着いて聞いてほしい。実は昨晩の火事は、アルゴス商会の手の者による放火の可能性が高いんだ。これは信用できる筋からの情報だから、ほぼ間違いない」
「そんな……」
アリエスは目を見開き瞳を揺らしていた。
そして涙がこぼれる。
僕は慌てて彼女に歩み寄り、ハンカチを差し出した。
「アリエスさん!? どうされたのですか!?」
「そういうことだったのね……それなら全部、私のせいよ」
「え? それはいったいどういう……」
「……すべては、私のせいなのよ」
アリエスは声を振り絞り、ポツリと告げた。
どうやらアルゴス商会となんらかの関係があるのは間違いないようだ。
僕がリリーナへ目配せすると、彼女は神妙な表情で頷いた。
「アリエスさん、お辛いとは思いますが、話してくださいますか?」
「……分かったわ。すべて話しましょう」
「ありがとうございます」
「でも、その前に一つだけいいかしら?」
アリエスは、ベッドの前の丸椅子へ座るリリーナへ目を向けた。
先ほどまでの弱々しい雰囲気とは違い、なにか重大な決意をしたかのような緊張感を感じる。
目を向けられたリリーナは、表情を変えることなく頷いた。
「リリーナさん、あなたはルノちゃんの正体を知っているのよね?」
「……え?」
「君はいったい……」
僕とリリーナは、唖然とするしかなかった。
その問いはまるで、僕の正体を知っているかのようではないか。
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