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女装剣豪令嬢  作者: 高美濃 四間
第五章 名探偵ルノちゃん
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なぜ僕は、最後に罵られたんだろう?

 疲労困憊の僕は、しばらく動けず、その場に女の子座りして荒れた呼吸を整えていた。

 こういう仕草が自然になってきていて、将来が本当に怖い。

 おかげさまでシエン以外の五人を逃がしてしまった。


 血だまりの中、大の字になって倒れていたシエンは、しばらくしてゆっくりと目を開けた。

 先ほども息を確認したが、命に別状はなさそうだ。


「ルノ・カースト……俺の負けだ」


「いやぁ本当に、あなたが鬼人族で良かったですよ。危うく犯罪者になるところでした」


 鬼人族の頑強さがなければ、間違いなく死んでいただろうから。

 いやしかし、そもそも鬼人族でなければ、ここまで手こずらなかったのかもしれないが。


「俺は、あんたが鬼人族であってほしくなかったがな」


「あははは……それで、アルゴス商会の指示で、あの店に手を出したということで間違いないですか?」


「……ああ」


「やっぱりですか」


「あの商会は大手だと聞いてたが、まともじゃねぇ。他の店の妨害を護衛にやらせるなんてな」


「え? あなた方は護衛として雇われたのですか!?」


「そうだ。俺やさっきの奴らみたいなまともじゃねぇ奴らを護衛として雇うなんて、よほど切羽詰まってんだろうよ」


 僕の想像以上にアルゴス商会は低迷しているのかもしれない。

 資金難にあえぐ弱小商会なんかだとたまに聞く話だが、人件費を抑えるために、相場を知らないゴロツキや、誰も雇いたくないような元犯罪者なんかを雇うこともあるらしい。

 しかし、その後すぐに問題を起こされることも多いため、最終手段としてはリスクが高いそうだ。


「でも、あなたは他の人たちとは格が違う。なぜシエンさんほどの人がアルゴス商会に?」


 戦ってみてよく分かったが、この男はそこらのゴロツキなんかとはレベルが違う。

 くぐって来た修羅場の数がまるで違うはずだ。


「俺は元々闇の住人だ。闇市場の傭兵や違法な取引の借金取立なんかもやっていた。だから裏の奴らにはそれなりに顔が利くのさ」


「まさかっ!?」


「どうやらアルゴスって奴は、そういう闇の商人とも関わりがあるらしい。それで俺が紹介されたってわけだ」


 初耳だったから驚きはしたが、思ったよりショックは受けなかった。

 ここまで大きくなった商会だ。

 裏の顔があってもおかしくはない。


「けど、まさか護衛として雇われて、最初の仕事が営業妨害とはな。つまらなすぎてすぐにやる気を失ったぜ。まあ、他の奴らはそういうのが好きそうだったから、引き受けてたけどな」


 おそらく彼らを雇ったのは、そういう目的もあったのだろう。

 汚れ役として使い、いずれは斬り捨てるはずだ。


「さっさと縁を切ろうと思ってたんだが……まさか、なんたみたいなバケモノに出会えるとは思ってもみなかったぜ」


 シエンの声が弾んだ。

 なんだか嬉しそうだけど、僕は全然嬉しくない。


「バケモノとは失礼ですね。こんなでも、普通のおと……」


「おと?」


 マズい……危うく男って言うところだった!

 ダラダラと冷や汗が流れる。

 シエンも言葉の続きを待っているし……な、なにか別のことを言ってごまかさないと!

 えぇっと、『おと』で始まるそれらしい言葉は――


「――乙女です……」


 ぐおぉぉぉっ、僕はなにを言っているんだぁぁぁっ!?

 自分で言っててめちゃくちゃ恥ずかしい……

 シエンもぷっ、と噴き出してるし。


「あんたみたいな女が普通でたまるかよ」


「そうですよね、普通じゃなくてすみません……」


 男なのに女装とかしててすみません。

 男なのに自分のことを乙女とか言って本当にごめんなさい。


「しかしあんた、どういう神経してんだ?」


「ど、どういうことでしょう?」


「さっきまで本気でやりやってた相手を前にしてるのに、まるで何事もなかったかのように平然としてやがる」


「別に、シエンさんに恨みはないですから。私はただ、大切な友人のために戦ったに過ぎません」


「はぁ? 他人のために体張ってるってのか?」


「そうですよ。でも護衛だったら当然でしょう?」


「どんな仕事だろうが、自分の身を優先するに決まってる。命あっての物種(ものだね)だろうがよ」


「そうですか、私はそうは思いません。なにがあっても、彼女のために自分のすべてを賭けたいと思っています」


「理解できねぇな」


 それから、穏やかな静寂が流れた。


 しばらくすると、シエンがゆっくりと体を起こした。

 僕が彼の様子を眺めていると、こちらへ顔を向け頷く。


「……それでは、約束を果てしてもらいましょうか」 


 僕は穏やかにそう告げ立ち上がると、カフェ・ハウルへと歩き出す。

 シエンも立ち上がり、後ろについてくる。

 そして小さくぼそりと呟いた。


「ちっ……惚れたぜ」


「? 今なにかおっしゃいました?」


「なんでもねぇよ、バカ」


 なぜ僕は、最後に(ののし)られたんだろう?


 さすがに血だらけの姿で夜道を歩くのはマズいので、シエンには僕の持ってきていたコートを羽織らせた。

 彼を連れて閉店後のハウルへ戻ると、店長とまだ他に店員が残っていたので、一人はリリーナを呼びに走ってもらい、一人にはシエンの手当てをお願いした。


 すぐにやって来たリリーナは、ボロボロの僕と血のにじんだ包帯だらけのシエンを見て驚いていたが、僕は今日起こったことのすべてを話した。


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