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女装剣豪令嬢  作者: 高美濃 四間
第五章 名探偵ルノちゃん
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彼は分かっていない――最も避けなければならない、僕の間合いを

「ひ、ひぃぃぃっ! なんなんだよあんたは!?」


「質問に答えてください」


「そ、それは……」


「あなた方に指示を出したのは、アルゴス商会ではないのですか?」


「ど、どうしてそれを!?」


 やっぱりか。

 予想通りの結果はなんの面白味もないけど、これでいい。

 これでこの件は終わる、リリーナさんを安心させてあげられる。


 しかし次の瞬間、全身が震えるほどの苛烈な覇気の(かたまり)が降って来た。


「くっ!」


 僕は間一髪のところで横へ大きく跳ぶ。

 同時に、僕のいた場所がまるで爆発でもしたのかというほどの大きな音を立て、激しく砂塵を巻き上げた。

 対話していたリーダー格の男も、その威力で吹き飛び地面を転がっている。


「な、なにが……」


 砂煙が明けると全貌が明らかになった。

 一人の男が、砕けひび割れた床に拳を突き立てている。


 その鋭い闘気を纏う男は、目にかかるほど伸びた白髪に、燃えるような深紅の瞳を爛々と輝かせた、長身の青年だ。

 フードのついたカーキのロングコートを着て、下はボロボロの長ズボン。

 見た目はただの不良だが、そこら辺に転がっている男たちとは雰囲気がまるで違う。

 殺し屋のような鋭い目つきで、息苦しさを覚えるほどの圧迫感がある。


 僕が警戒しながら観察していると、青年は地を蹴りまっすぐにこちらへ迫って来た。

 あまりにも速い!

 しかしこの距離なら、こちらの攻撃が届く。

 申し訳ないが、裂傷程度は我慢してもらおう。

 

 ――不可視の一閃(インビジブル)――


「なっ!?」


 しかし見えないはずの斬撃は、紙一重でかわされていた。

 青年は、僕が刀を抜く直前でスライディングし、体勢を低くすることで間一髪かわしたのだ。

 なんという反応速度。

 僕はこのとき、彼には一切の手加減もできないのだと直感した。


「……はぁっ!」


 そのままこちらの足を狙って滑り込んで来る。

 僕は跳んで彼の頭上へ浮いた。

 そのまま空中で柄を握り、地上で隙だらけの彼を斬ろうとするが――


「くっ!?」


 男は素早く両手を床へつき、それを支えにして蹴りを放ってきた。

 ただの蹴りであれば、片手で受け流し、カウンターで斬り捨てるだけだった。

 しかしその足は僕の柄を押さえている。

 これでは斬鉄剣が抜けない。

 これにはさすがの僕も硬直した。

 

「ふんっ」

  

 その隙をついて、もう片方の足を放ってきた。

 攻撃を諦めた僕は片手でそれを受けて蹴り飛ばされ、受け身をとって着地する。 

 あんな体勢での攻撃だというのに、想像を絶する威力だ。防御した腕が痺れている。

 だがそんなことを気にしている余裕はない。

 

 彼は既に至近距離まで迫っていたのだ。

 向かう討つ暇もなく、連続で繰り出される拳。


「ぐぅぅぅっ!」


 普通の殴り合いでは考えらえないような、凄まじいスピードで打撃音が鳴る。

 とてつもないスピードで繰り出される重く激しい連撃を、僕は刀の鞘で受けるしかできなかった。 


「刀は抜かせない」


「くっ!?」


 この男はよく分かっている。

 この至近距離での攻撃が、僕の秘剣を封じるのに有効な手段だと。

 中距離では飛燕、遠距離では縮地で距離を詰める。

 だから近距離で不可視の一閃を繰り出す前に潰すのが有効。

 

 おそらくさっきまでの僕の技を見ていたんだ。

 完全に油断した。

 しかし幸いにも、敵は殺傷力のある武器を持っていない。


「それなら!」


「……なに?」 


 僕は防御を捨てる。

 直後、無数の打撃が雨のように襲いかかってくるがこらえる。

 素早く鞘から斬鉄剣を抜き、横へ薙いだ。

 鋭い白銀の一閃が宙を走り、青年の残像を真っ二つにするが、彼は既に飛び退いていた。


「はぁっはぁ……」


 息を切らせた僕の口の端から、つーっと血が垂れる。

 青年は生気の感じない無機質な表情で呟いた。


「まさかあんた、鬼人族か?」


「答える義理はありません」


「普通の人間なら、とっくに倒れているはずだ」


「それはどうでしょうか」


 僕はあえて強気に出る。

 全身の痛みは想像を絶するものだが、弱みを見せないよう表情には出さず、腰を落として構えをとる。


「それよりも、賭けをしませんか?」


「……賭けだと?」


「私が勝てば、今回の件について、店主やオーナーの前ですべて証言して頂きます」


「……俺が勝てば?」


「あなたの要求をなんでも聞きます」


 我ながら、対等な条件として成り立っているとは思えない。

 ただの苦し紛れだ。

 もし仮に僕が勝ったとして、彼らが言うことを聞く保証もない。

 それでも、ここで倒れるわけにはいかないんだ。

 大切な友人のために。


「……おもしろい」


 青年は初めて笑みを浮かべた。

 それは、背筋がゾクリとするほど冷たく、見惚れるほど美しい。


「あんた、名は?」


「ルノ・カースト」


「そうか、俺はシエンだ」


 シエンは、その名乗りだけで満足したかのように頬を緩めると、駆け出した。


 こちらも全力でいく――隠密式縮地(ステルス)――

 

 次の瞬間、僕は彼の背後をとっていた。 

 そう認識したとき、その強靭な脚が顔の左から迫っていた。

 僕の姿が見えなくなった瞬間に、回し蹴りを放っていたのだ。


 しかしそれは想定通り。

 僕は勢いよく地を蹴り、バックステップで距離をとる。

 その体勢のまま素早く構え、風圧による斬撃を放った。


飛燕(ソニック)っ!」


「うらぁぁぁっ!」


 僕の渾身の一撃はしかし、耳をつんざくような叫びと共に繰り出された拳によって、消し飛ばされていた。

 シエンの拳の皮膚が裂けて血が飛び散るが、それだけだ。

 その程度の傷で、飛燕を防いでいる。


「そんなっ!?」


 青年は再度こちらへ猛進。

 僕は何度も飛燕による弾幕を張るが、すべてを打ち落とされる。

 彼は勢いを落とさず、そのまま真正面から迫って来た。


 だが彼は分かっていない。

 最も避けなければならない、僕の間合いを。

 飛燕が打ち消せても、斬鉄剣の刃は防げない。


「――不可視の一閃(インビジブル)――」


「甘い!」


 見えないほどの速さで放った居合斬りは、残像を生み出すほど早いサイドステップによってかわされていた。

 そして、カウンターとばかりにその拳が突き出される。


 ……しかし、僕の攻撃はまだ終わっていない。


「――無間の殺傷範囲(キリングレンジ)!」



 次の瞬間、突き出されていたシエンの右手の甲から肩へかけて亀裂が走り、遅れて血が噴き出した。


「なに!?」


 攻撃を中断し、慌てて跳び退くシエン。

 そして着地と同時に、左肩が裂け、次に腹部から血が噴き出す。

 初めてシエンの表情が驚愕に歪んだ。


「なんだこれは!?」


 おそらく彼に見えているのは、幾重にも煌めく無数の剣閃。

 僕の間合いにいる限り、不可視の斬撃に終わりはない。


「これで終わりです」


 まるで暴風が吹き荒れるが如く、彼の全身を切り刻んだ。

 

「かはっ!」


 そして、シエンの肩から腰までを袈裟斬りにして、ようやく倒れたのだった。


もし「おもしろかった!」と思って頂けましたら、この下にある☆☆☆☆☆から作品への評価をお願いしますm(__)m

また、レビューもして頂けると、大変嬉しいです。

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