僕の大切な心のオアシスを、土足で踏み荒らすなんて許さない!
リリーナの許可を得て、僕はカフェ・ハウルでのスイーツ食べ放題……じゃなくて、張り込みを開始した。
角の目立たないかつ、全体的に見渡せる席を確保し、開店する午前から閉店する夜までひたすら店内を監視する。
変装はしっかり機能しているようで、客から注目されるようなこともない。
念のため、店員たちにも僕の正体は伝えないよう、店長へお願いしている。
しかしそれから数日が経ち、犯人は一向に尻尾を出さなかった。
おかげさまで結構なメニューを平らげた気がする。
……最高だ。
いやもちろん、それが目的ではないけどね!?
「それにしても……」
マカロンをつっつきながら、僕は深いため息を吐く。
やはり怪しい客なんてまったく現れない。
となると、前提が間違っているのか……
やっぱり、二回続けて異物混入が見つかったのは偶然?
「うぅ~~~ん……」
あれから事件が起こっていないのはいいことなんだけど、このままじゃモヤモヤしたままだよなぁ。
「……ん?」
そのときふと店の外を見ると、店内を気にしている怪しい男の存在に気付いた。
ぶかぶかの長ズボンに半袖シャツの上に袖なしのベストを着た、短髪で目つきの悪い男。
それが建物の影からこちらを凝視している。
「あれは……」
なんだろう、どう見ても不審者だけど……
そういえばあの人、さっきもそこを通ったような?
ここら辺ではよく見る格好だし、見間違いかもしれないけど。
怪しいといえば怪しいけど、あそこから見ているだけじゃなにもできないし――
「――きゃぁぁぁぁぁっ!」
そのとき、店内で悲鳴が上がった。
店外に気を取られていた僕は突然のことに慌てて立ち上がり、すぐに周囲を見回す。
「しまった!」
青い顔で椅子を引いて立ち上がっているのは、若い令嬢だ。
彼女のテーブルには食べかけのパフェ。
反応からするになにか変なものが入っていたのだろう。
だがその周囲を見ても、怪しい行動をしている客も逃げようとしている客もいないし、店員たちも怯えるように顔を引きつらせている。
ケイト店長の言っていた通りの状況だ。
「でも、三回も立て続けにとなると、やっぱり偶然じゃない……」
だがおそらく、犯人はこの場にはいない。
ふと外を見ると、さっきまで店内を見ていた男は姿を消していた。
それから僕は、閉店間際まで店にいた。
店長は客たちへ必死に頭を下げていたが、その場にいた客は皆出て行ってしまった。
僕は店長の元へ事情を聞きに行ったが、厨房でパフェを作っていた子も運んだ子も十分注意していたと言い張っており、なに一つ原因が分からないようだ。
それからはほとんど客が来ることもなく、どれだけ見張っていても、やはり動きはない。
僕は閉店時間になってから店を出た。
そして――
「――やはり、見間違いではなかったのですね」
「だ、誰だ!?」
カフェ・ハウルの近くの路地でコソコソと密会していたのは、さきほど店内を見ていた怪しい男と、ハウルの厨房で働いている店員の女の子だ。
しばらく二人の会話を盗み聞いていた限り、予想通りだった。
まず、商品に異物を混入させた犯人はこの店員の女の子。
パフェを作った本人ではない。他の店員に気付かれないようにコッソリと事を済ませたらしい。
そして、それを依頼した張本人がこの男のようだ。
「なんとなく厨房にいた誰かではないかと思っていたので、これまで異物の混入した商品の調理に関係していなかった人の後をつけようと思っていたのですが、遠目にあなたの姿が見えたので、そちらへ向かう彼女に狙いを絞ってみました。どうやら正解だったようですね」
「ちっ、ヘマしやがって!」
「そ、そんな……私は……」
女の子のほうは、真っ青な顔でその場にへたり込む。
金でも受け取っていたのだろう。
店が潰れた後は、別の店に移るつもりだったのか。
だが、使い捨ての駒である彼女に用はない。
男へ目を向けると、彼は慌てて路地の奥へと駆け出した。
「逃がしません! 僕の大切な心のオアシスを、土足で踏み荒らすなんて許さない!」
「なに言ってんだコイツ!?」
僕は暗く細い裏道を走り抜け、男を追いかける。
彼は獣人だが、僕は鬼人。脚力ではこちらのほうが上だ。
追いつくのは時間の問題だが、あえて距離を詰め過ぎない。
すると、彼はこちらの狙い通り仲間の元まで誘導してくれた。
真っ暗な廃墟の奥まで辿り着くと、男は足を止めて振り返った。
周囲には瓦礫やらゴミやらが散乱しており、異臭がつんと鼻の奥を刺激する。
一部の穴の空いた天井から月の光が差し込んでおり、視界の隅でうごめいていた者たちがその下に姿をさらす。
「なんだコイツ」
「おいおい、変なの連れて来んなよ」
「呑気なこと言ってる場合じゃねぇ! 店を妨害してんの知られたんだよ!」
「あぁ? なにやってんだよ。さっさと始末すんぞ」
男たちは物騒なことを言うと、その荒々しい視線を僕へ向けた。
数は五人、よく見ると、以前アクセサリーを盗んでリリーナと対峙していた男たちもいる。
僕は帽子を脱いで長い髪を後ろへ流し、まっすぐに彼らを見据えた。
「答えてください、カフェ・ハウルを追い込んで、なにが目的ですか!? それとも、誰かの依頼ですか?」
「あ? 知るかよ」
「ひゅーっ、可愛い顔してんねぇ」
「なぁ、さっさとヤッちまおうぜ!」
「おう!」
男二人が問答無用でこちらへ迫って来る。
油断しているのか武器はない。
吐かないのなら、吐かせるまでだ。
僕は背負っていた斬鉄剣の鞘を握ると腰の横へ引き、柄を握った。
「ん? あの構え、どこかで……」
後方でいやらしい笑みを浮かべていた男が首を傾げる。
だがそれを思い出したところで意味なんてない。
どうせ見えないのだから。
僕は息を吸うと、もう目前まで迫っている男の足元を狙う。
「――飛燕」
鋭い風切音が響いた直後、男の足元の床が砕ける。
「……あ?」
破片と土煙が弾けたように飛びて段差を作り、そこへ踏み込んだ男の足がガクンとバランスを崩す。そのまま両足を絡ませて転倒した。
さらに、すぐ斜め後ろを走っていた男もぶつかって巻き添えをくらい、二人して無様に地面を転がった。
僕はその進行方向から横に身を反らしてかわすと、悠々と歩き出す。
「な、なんだ今のは!?」
「ちっ、ボサッとすんな! お前らも行けよ!」
次の二人が迫って来る。
――隠密式縮地――
「ぐぅっ!」
僕は地を蹴り姿を消すと、すれ違いざまに左の男の胴を鞘で強打し、右の男の背後で止まる。
そして彼が振り向いたと同時に、鞘を背後へ突き出しそのみぞおちを深々と突く。
「かはっっ!」
一瞬息ができなくなったであろう男が、腹を押さえて苦しそうにひざまづく。
目の前で唖然としている、最後の一人へ目を向けると、彼は顔を恐怖に歪ませ尻餅をついた。
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