元が男なんだから、男装という言い方がそもそもおかしい!
暗い表情で待ち構えていた店長から聞いた話は、穏やかなものではなかった。
「――それは本当ですか!?」
「はい、間違いなくお客様のケーキに異物が混入していました」
「偶然にしても、由々しき事態ですね。衛生管理には十分に注意して頂きたい」
「本当に申し訳ございません。ですが実は、お客様に誠心誠意を込めて謝罪し、十分注意していたにも関わらず、その数日後に同じことが起こりました」
「……まさか、第三者の妨害ですか?」
「私もその可能性を疑いはしたのですが、店員たちの話によると、被害に遭われたのはよく当店を利用してくださるご婦人でしたし、怪しい客は一度も入店していないとのことです」
「そうですか……しかしマズいですね。このままでは店の売り上げに関わります。大事になって広まる前にどうにかしないといけない」
「はい、ですが今のところ、同じことが起きないよう注意する以外、どうしようもないというのが現状でして……」
ケイト店長はお手上げというように眉尻を下げ、ため息を吐いた。
なるほど、それでオーナーのリリーナにも力を貸してほしいというわけだ。
彼女の立場からしても、店が窮地に追い込まれるのは防がないといけない。
しかし、今聞いた話から考えられる可能性は……
「やはり、誰かの嫌がらせだと考えるのが妥当でしょうね」
「ですが、心当たりがまったくありません」
「リリーナさん……」
僕がささやくと、彼女は頷いた。
やはりそういうことだろう。
「ああ、タイミングといい、心当たりがありすぎる」
「はい? ルノさん、リリーナさん、それはどういう……」
「実は最近、ある商会の恨みを買ってしまった可能性があるのです」
いたずらに不安がらせても仕方ないため、アルゴス商会の名は伏せていたが、ナハルたちが仕掛けてきた可能性も考えられなくはない。
もしそうなら、間接的にリリーナを追いつめ、僕への給料を払えなくすることが目的か。
そして解雇されたところを狙うと。
「張り込みでもしてみるか? ルノ」
「はい、それが一番いいかもしれませんね」
「ぜ、ぜひお願いします! もちろん、張り込みをして頂くのでしたら、店内でのお食事代はこちらで負担させて頂きますので」
……なん、だって?
「どうしたルノ? なに固まってるんだ?」
「い、いえなんでもありません。とにかく、今日は夕方くらいまで店で見張ってみましょう」
「そうだな」
「リリーナさん、ルノさん、どうかよろしくお願いします」
とういうことで張り込みをしたものの、その日は特になにもなく終わった。
やはり女性客が多く、男がいたとしても夫婦か若いカップルがほんの数組いる程度だ。
これは一筋縄ではいかないだろう。
それでも、僕が原因でこうなっているのだから、必ずこの手で解決しなければならない。
翌朝、僕の格好を見たリリーナは、目を丸くしていた。
「……ルノ、なんだその格好は?」
「リリーナさん、どうでしょうか? 上手く正体を隠せているでしょうか?」
僕は今、男もののスラックスに上は黒のフード付コートを着ていた。
長い黒髪は、ぶかぶかの帽子の中に入れ、目元まで深くかぶって顔を隠している。
「最初見たときは、不審者かとビックリしたぐらいだよ」
「だって、目立つわけにはいきませんから。毎日ずっとお店にいるわけですし、私とリリーナさんは顔を知られていますからね。もし犯人がいたとしても、警戒させてしまうかもしれません」
「ん? あぁっ、それで男装か!」
「……せめて変装と言ってください」
元が男なんだから、男装という言い方がそもそもおかしい!
でも、これならカフェで張り込みをしていても、目立たなさそうだ。
まさか、いつか着ようと思って買っていた男ものの服が、こんなところで役立つとは……
「ずいぶん張り切っているようだけど、私の支度が追いついてない。すぐに準備するから、少し待ってくれ」
「いえ、その必要はありません」
「それはどういう意味?」
「今回の件は私に任せてください。おそらく長丁場になりますし、アルゴス商会が恨みを持っている可能性がある以上、リリーナさんの身を危険にさらすことになるかもしれません。ご不便をかけますが、この件が片付くまで、私がいない間はずっとお屋敷を出ないで頂きたいのです」
僕が留守中のリリーナさんの身の安全は、ケシーさんに頼むことにしよう。
「いやしかしだな、これは私のオーナーとしての問題で」
「でしたら、これは護衛としての私の仕事です。それに、アルゴス商会の一件は私が渦中にいるわけでもありますし」
僕は帽子を脱ぎ、まっすぐリリーナを見つめる。
退く気はないぞと目で伝える。
すると彼女は、やれやれとため息を吐いた。
「まったく、いつからそんなに強引になったんだか。今の君には、確固たる強い意志があるようだ。分かった、任せていいんだね?」
「はい!」
「それなら頼んだよ、名探偵ルノちゃん♪」





