僕はショートケーキを食べるのに夢中だった
「――リリーナを侮辱するなんて、許せませんわ!」
「ケシー様のおっしゃる通りです」
「いや、二人とももういいよ。彼らは十分こらしめたから」
リリーナとケシー、僕の三人は、ある晴れた日の昼下がりに、カフェ・ハウルで優雅にお茶をしていた。
ケシーがまた僕を誘ってくれたので、今度はリリーナも連れて三人で来たのだ。
そこで、先日のアルゴス商会との一件をケシーに話した。
「そのナハルさんという方の上からの物言いが不愉快ですわ。いくらそれなりに大きい商会だからって、淑女に対する最低限の礼儀もなっていないなんて」
ケシーの言うことも分かる。
いくら今は平民だからといって、リリーナを小娘呼ばわりして圧力をかけようとしてきたのは許せない。
彼女は複数の店や商会に出資している立派な実業家だ。
そんな事実にも目を向けられないほど、彼らの目が濁っているということなら、元雇い主だろうと関係ない。身をていしてでもリリーナの味方をするだけだ。
「まぁ、いつものラブコールが少し過激になっただけだと考えれば、大したことないさ」
「あれ、どうにかならないんですかねぇ」
実はパーティーの一件以降、屋敷へ次々と手紙が送られて来て困っていた。
内容はほとんどが「ルノ・カーストをもらい受けたい」ということ。
妻としてか、養女としてかの違いだけで、ほとんど内容は同じだ。
僕がリリーナと一緒にいることは広まっているから、みんなクイント家へ送りつけてくるんだ。
本当に勘弁してほしい。
「まったく、お姉様が迷惑に思われているのが分からないのかしら」
「おやケシー、気付いていないのか? 君もその一人になっていることに」
「な、なんですって!?」
リリーナの鋭い一撃にケシーがのけ反る。
あっ、ショックを受けて涙目になってる。
彼女をフォローすべく、僕は努めてにこやかに微笑んだ。
「ケシー様には大変お世話になっているので、迷惑だなんて思ったことはありませんよ」
「お姉様ぁ……」
「ふっ」
「む、リリーナ、なにがおかしいんですの?」
「ルノ、正直に言ったらどうだ? 甘いものを食べさせてくれたら誰でもいいと」
「んなっ!?」
「リリーナさん、あんまり意地悪しないでください」
ほら、ケシー様は今にも泣き崩れそうだよ。
それに比べて、リリーナさんは本当に楽しそうだなぁ。
その歪んだ笑み、サディスティック全開だよ。
「ケシー様、ぜひまた一緒にお茶しましょうね?」
「お、お姉様ぁっ」
さて、ケシーも気を取り直したところだし、ようやく運ばれてきたショートケーキを食べるとしよう。
「次はリリーナ抜きでお誘いしますわ」
「勝手にすればいい。君の浅はかな考えなんて、すべてお見通しだから」
「なんですってぇっ!?」
「ルノは渡さない」
リリーナとケシーがまたなにか言い合いを始めたけど、僕はショートケーキを食べるのに夢中だった。
言い争いに疲れて、注文していたケーキを二人がようやく食べ始めたときには、僕は二品目を既に注文していた。
それからはまったりと、最近の貴族情勢をケシーから聞く。
「――さて、そろそろお開きとするかな」
「ええ、なんだかかんだ言って、今日は楽しかったですわ」
「はい、美味しかったです!」
満足そうな僕の顔を見て、リリーナとケシーが顔を見合わせクスクスと笑う。
良かった、いつもの仲の良い二人だ。
そのとき、店員の女の子が近づいて来て小さな声で言った。
「リリーナ様、ケイト店長がご相談したいことがあるとのことです」
「ん? そうか、すぐにそちらへ行くと伝えてくれ」
「かしこまりました」
店員は頷くと奥へ歩いていた。
それにしてもいったいなんの用だろう。
心なしか店の雰囲気もいつもより暗いし、嫌な予感がする。
「それでは、私はここで失礼致しますわ。リリーナ、ルノお姉様、ご機嫌よう」
僕らはケシーが店を出るのを見送ってから、店長室へお邪魔した。





