今はただ、この言葉にできない喜びを感じていたいから、このままでいさせてほしい
僕の心はかき乱されていた。
リン・カーネルの友人なんて、今までいたことがあっただろうか。
そんなの幻想でしかないと思い、いつしか一人でいることが当たり前になっていた。
だから信じて見守ろう、僕のことを友と呼んでくれる尊い人の小さな背中を。
「友人? まさか、あの冴えない男にこんな可愛らしいお友達がいたとは! いやぁ、傑作だ!」
ナハルは口を三日月に歪め、バカにするように手を叩いて笑う。
部下たちもつられて薄ら笑いを浮かべていた。
リリーナは眉を寄せ、表情に怒りをにじませる。
「なにがおかしい? 分かっているのか? 彼を追い出したせいで、アルゴス商会が追い詰められているということが」
「なにを知った風な口を。そんな事実はない!」
「救えない人たちだな」
ナハルがキッパリと否定したが、リリーナも間髪入れず吐き捨てる。
「あんな根暗で薄気味悪い奴なんて、視界に入るだけで不愉快だったのだ。むしろ、いなくなってせいせいしたよ」
僕は悔しさのあまり、強く拳を握っていた。
さんざん言われ慣れていたことだけど、久しぶりに言われると少し動揺してしまう。
分かってるよ、僕の正体がそういうつまらない男だってことくらい。
だけどせめて、リリーナさんの前で言わないでくれ……
否定する気はなかった。
別に今さら傷つくこともなかった。
でも、彼女は立ち上がって、声を上げてくれた。
「ふざけるなっ! いくら雇っている立場だからといって、彼の人格まで否定していいわけがないんだ! あなたたちがそんなだからっ……あなたたちが、彼のことをもっとよく見て、その能力にふさわしい扱いをしていれば、ここまで卑屈にならずに済んだのかもしれない。少しでも、自分に自信が持てたのかもしれない。彼のことをよく知る私だから、絶対に許せない!」
その言葉には、リリーナ・クイントの想いが乗っていた。
胸が熱くなった。
涙が出そうだった。
彼女は今、ルノ・カーストのためだけではなく、リン・カーネルのために怒ってくれている。
そのありえない事実が、この上なく嬉しかった。
「はぁ、もういい。我々は、そんな話をしにきたのではない。要求は一つだ。ルノ・カーストを今この場で解雇しろ。そうしたら、すぐにうちで雇う」
「断る。こんな素晴らしい人を、見る目のない商人たちの、腐った商会に使い潰させてたまるか!」
「小娘が言わせておけば、調子に乗りおって! いいか、後悔させてやるぞ? 世間知らずの小娘が、アルゴス商会にたてついたことを。貴様のような没落貴族ごときが勘違い――」
――バリィィィンッ!
「ひっ!?」
突如、ナハルの目の前のティーカップが砕け、静寂が訪れる。
申し訳ありません、リリーナさん。
あなたのことを侮辱されて、我慢できませんでした……
「なっ、なにが……」
「これ以上の言葉は不要です。さっさと立ち去ってください。でないと、次に壊れるのはあなたです」
驚くほど冷たい言葉が出てきた。
さすがのド素人でも、僕の居合の構えを見たら、なにをしたかくらいは想像がつくだろう。
ただ、見えないだけだ。
この秘剣『飛燕』に、テーブルの幅程度の距離なんて関係ない。
「く、くそぉっ……えぇぃもういい、行くぞ!」
ナハルは悔しそうに僕とリリーナをにらみつけると、茫然としている部下たちを連れて出て行った。
「ふぅ……」
肩の力を抜き、深いため息を吐く。
良かった、僕は大好きなこの日常を守ることができたんだ。
「ルノ、大丈夫?」
リリーナへ目を向けると、彼女は立ったまま、心配するように瞳を揺らしていた。
その手が震えているのが分かった。
恐怖心を抑えてでも、僕のために戦ってくれたのか。
そう思ったとき、愛しさがこみ上げてきて、気付いたときには彼女を抱きしめていた。
「へっ? ル、ルノ!? は、離してぇ」
「やです」
「は、はわわわっ」
リリーナは不意打ちには弱いらしく、僕の胸の中でか弱くもがいている。
今はただ、この言葉にできない喜びを感じていたいから、このままでいさせてほしい。
「ありがとうございます、誇り高くお優しい僕の親友」
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