表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女装剣豪令嬢  作者: 高美濃 四間
第四章 誇り高き親友
32/48

いえ、男性です。騙してすみません……

 交渉の後、せっかくだからと近くの料亭で夕食を済ませると、すっかり辺りも暗くなってしまった。

 早く返ろうと急いでいると、少し淡い桃色の光に包まれた、不思議な雰囲気の通りに出る。

 周囲を見るとカップルらしき男女が多く、他にも露出が多めの衣装を来た女性や大きめのコートを羽織った女性、いかにも成金といった感じの恰幅の良い男などが行き交っている。


 ……って、ここはっ!

 歓楽街の中でもピンク系が多い裏の通り。

 落ち着け僕、ここは平常心だ。

 アルゴス商会の護衛時代だって、よく通っていたじゃないか。

 もちろん、アルゴスたちが楽しんでいる間の護衛として。


「リ、リリーナさん、こんなところさっさと抜けましょう」


「ぅっ……」


「リリーナさん?」


 返事がなくて不思議に思った僕は彼女の顔を見た。

 すると、顔を真っ赤にして固まっている。

 彼女もこういうのには不慣れなんだ。

 それなら、僕がしっかりしないと。


 僕はそっとリリーナの手を握る。

 

「ぴぇっ!?」


「行きましょう。私がついているから大丈夫です」


「う、うん……」


 リリーナはしおらしく小さな声で返事をすると下を向いた。

 こういう素直でしおらしいリリーナはレアなので、僕も気恥ずかしくなってしまう。

 とにかく早く帰ろう。


 しかし、歩いてすぐに二人の男に絡まれてしまった。

 片方は色黒の金髪で、整った顔立ちの青年。

 もう一人は坊主頭にごっつい体格の大男だ。

 僕はリリーナを守るため前へ出る。


「君たち凄く可愛いね。もしかして、貴族のお嬢様だったりするのかな?」


 金髪の青年が爽やかな笑みを浮かべながら聞いてくる。

 

「いえ違います。先を急ぎますので、通してください」


 僕は彼らの目を見ることなく、淡々と告げる。

 とにかく早くここから離れたい。

 しかし青年は道を開けることなく、二ヤリと口の端を歪めいやらしく笑った。


「あぁやっぱりぃ? こんなところに貴族様が来るわけないよねぇ。念のために聞いただけさ」


「ジン」


「あぁ、ごめんごめん。可愛らしいお二人さん、どうかな? ここらで働かない? 君たちぐらい可愛いければ、めちゃくちゃ稼げるよ?」


 そのとき、僕はようやく自分の失言に気付いた。

 彼らはそういういかがわしい店の店員の勧誘をしているんだ。

 もし貴族令嬢が相手だと、後で面倒なことになるから、あらかじめ確かめたのか。 

 平民と知れば、ある程度強引な態度に出ても構わないという考えだろう。


「結構です」


「まぁまぁそう言わないで。一回店を見ていきなよ。それからでも遅くないだろ?」


「ル、ルノ……」


「くっ……」


 青年はグイグイ詰め寄って来る。

 やっぱり強引にくるつもりだ。

 そしてついにその手を伸ばして来た。

 仕方ない、リリーナさんを守るためだ。

 ここは強引にでも――


「――その人に触れるな」


 そのとき、凍てついた冷気のように冷たく、抜き身のナイフのように鋭い声が僕たちを守った。

 青年は伸ばしていた手を止め、僕も臨戦態勢を解く。

 横を向くと、そこには二人の従者を連れた黒いスーツ姿の紳士がいた。


「……ウィニングさん?」


「やぁルノさん、また会ったね」


 彼はにこやかに僕へ微笑むと、表情を消し男たちへ鋭い眼差しを向けた。

 その無言の迫力に金髪の青年は怯み、大男も顔を強張らせる。


「彼女たちは僕の知り合いだ。手を出さないでもらいたい」


「あぁ? 急に割り込んできてなんなんだよ!」


「お、おい待てジン。ウィニングってまさか、貴族の?」


 威勢良く言い返そうとした青年の肩を大男がつかんで止める。

 彼の探るような問いに、ウィニングは答えず凄みのある笑みを浮かべた。


「……ちぃ、行くぞ」


 二人はようやく諦め、つまらなそうに舌打ちして去って行った。


「ルノさん、大丈夫? なにかされてない?」


「いえ、危ないところで助かりました。本当にありがとうございます」


「それなら良かったよ」


 ウィニングはそう言って甘く微笑む。

 肩の力が抜け安堵しているのがよく伝わってくる。

 それに本当に嬉しそうで、とても魅力的な笑みだ。


 これは令嬢たちが夢中になるのもよく分かる。

 僕が男でなければ、白馬の王子様のように見えたことだろう。

 すると、後ろからブラウスの袖が引っ張られた。

 いけない、リリーナさんを差し置いて、二人で話していた。


「ご紹介します。私の友人のリリーナ・クイントさんです。リリーナさんはご存知でしょうが、こちらは男爵家のウィニング・グレイシャル様です」


「リリーナ・クイントです。先ほどは助けて頂き、誠にありがとうございました」


「いや、当然のことをしたまでだよ。ここら辺はあなたたちのような淑女(しゅくじょ)が来る場所じゃない。早く帰られたほうがいい」


「は、はい……」


 リリーナは再び顔を赤くして伏し目がちになる。

 気の抜けた僕は、肩の力を抜きウィニングへ微笑んだ。


「でも驚きました。ウィニング様もこういう場所に来られるんですね?」


 なんだか親近感が湧いてきた。

 なんというか、謎めいていて不思議な雰囲気のあるウィニングが、こういう俗っぽい世界とは無縁に思えたのだ。

 すると、彼は一度周囲を見回し、慌てて口を開いた。


「ち、違うんだ。別にそういう目的で来たわけじゃない。たまたまこの近くに用事があっただけだよ」


 ウィニングは顔を少し赤くして弁明するようにまくし立てる。

 いつもの余裕があって落ち着いた話し方とは違い、新鮮な反応だ。

 それがおかしくて、クスリと笑みがこぼれてしまう。


「そうだったのですね。でも別に、そういう目的で来ていたとしても、やましいと感じることはありません」


 だって男だもの。

 むしろ完全無欠そうなこの紳士だからこそ、安心感を覚えるんだ。

 僕の反応に、ウィニングは驚き目を丸くすると、頬を緩ませた。


「器の大きな女性だ」


 いえ、男性です。騙してすみません……


「とりあえずここは危ない。僕たちが近くまで送るよ」


「え、えっと……」


「ルノ、せっかくのご厚意だから、甘えさせて頂こう。ウィニング様、よろしくお願い致します」


「うん、任せて」 


 結局僕たちは、屋敷の近くまでウィニングに送ってもらった。

 その後、いつもの調子に戻ったリリーナは、「まさかあのウィニング男爵すらも落としていたとは……」と変な勘違いをしていた。

 まあその誤解もそのうち解けるだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ