僕は、あなたを信じてどこまでも
「――分かりました。出資をよろしくお願いします」
「ありがとうございます」
キュリオンは肩の力を抜くと、契約書にサインした。
「それでは、詳細を教えて頂きましょうか」
「はい。アルゴス商会は今、窮地に立たされています」
「ほぅ、そんな話は聞いたことがありませんね」
「それはもちろん、必死に隠しているでしょうから。しかし情報屋に依頼して手に入れた情報です。彼らは先日、大口の取引に失敗しました」
「その噂は本当だったのですね。しかし、一度失敗したくらいで窮地に立たされているというのは、言い過ぎでは?」
「大事なのは失敗した理由です。その原因が取り除けない限り、いつまでも失敗を繰り返すでしょう」
「おっしゃる通りです。では、あなたはその原因を知っているのですか?」
「はい。すべては一人の護衛によるものです」
「っ!」
そのとき、僕はハッとして顔を上げた。
彼女が言っている原因というのは、まさか……
「護衛?」
「彼らは最も強くて優秀な護衛を、不当な理由で解雇したのですよ」
「それだけですか?」
「ええ、それだけです。情報屋の調査によると、今のアルゴス商会の護衛はかなり減っているようです。その理由は明らかにされていませんが、商品運送の際に山賊に襲われ、その多くが倒れたからだと私は考えています」
「おっしゃりたいことはよく分かりました。つまり、彼らは大きく戦力ダウンしたせいで、最大の利点であった、他国からの安価で大量の仕入れができなくなったということですね」
「はい。このままではいずれ、在庫が枯渇し商品の値段も上げざるをえないわけです。そうなれば、取引先の鍛冶屋や素材屋は、アルゴス商会から購入する理由がなくなる」
「それで、頂いた出資金で今のうちに商品在庫を増やし、アルゴス商会の顧客を奪えと」
「その通りです」
「にわかには信じがたいことですけど、あなたの言葉を信じたとして、その解雇された凄腕の護衛を呼び戻せば、アルゴス商会は復活するのでは?」
キュリオンの言う通りだ。
だが、それが実現することはありえない。
僕は無意識のうちに拳を握っていた。
「それは無理のある話です。なぜなら彼は、もうこの国にいないのですから」
「……もしかしてその護衛というのは、リリーナさんのお知り合いの方ですか?」
「まあそんなところです」
「それなら、先ほどの情報の信頼性は増しますね。少し興味が湧きました。その方の実力は、どの程度のものなのでしょうか?」
「それは、そこのルノと同等と思ってください」
「つまり、一騎当千の力を持っていると?」
リリーナは不敵な笑みを浮かべ、深く頷いた。
ここまで聞けば、僕にも分かる。
彼女が言っている護衛というのは僕、リン・カーネルのことだ。
僕をクビにしたことで、アルゴス商会が窮地に陥っていると言っているのだ。
でも僕には自信がない。それがどうしても信じられない。
「分かりました。せっかくあなたの出資を受けるのですから、そのお言葉を信じてみましょう」
キュリオンもよく分かっているはずだ。
出資者は自らが儲けるために経営へ口を出すのだから、嘘なんか言っても意味がないことに。
後はリリーナの推測が正しいと信じるしかないのだ。
「よろしくお願いします」
交渉は上手くいき、僕らはキュリオン商会を出た。
特に余韻にひたることなく淡々と立ち去ろうとするリリーナを、僕は思わず呼び止めた。
「リリーナさん」
「ん? なんだ?」
「教えてください。どうして鉱石商の商売なんかに手を出したんですか? 特に興味のある市場でもないはずです。アルゴス商会のことだって、どうなるか分からないのに」
「少し考えれば分かることだよ。君のような素晴らしい護衛を不当解雇する商会なんかに未来はないさ。だから、それを利用させてもらうんだ」
淡々と告げるリリーナの背中は、小さながらも自信に満ち溢れていて、安心感があった。
だから僕は、あなたを信じてどこまでも。





