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女装剣豪令嬢  作者: 高美濃 四間
第一章 女装剣士の誕生
3/48

大丈夫、今までずっと護衛をやってきたんだ

「おらっ、大人しく――」


 獣人の野太い腕が少女へ伸ばされた、その刹那――


「――っ!?」


 突如として少女の姿が消える。


「な、なんだ!?」


「お、おいっ、なにが起こった!?」

 

 混乱したゴロツキたちが慌てる中、僕は少女を抱いて宙高く浮いていた。

 間一髪のところで、彼女を胸に抱いて高く跳び上がったのだ。

 腕の中を見ると、少女がギュッと目を瞑っており、僕は柔らかい声で優しくささやく。


「君、ケガはない?」


「……へ?」


 少女はキョトンとした顔で僕を見上げてくる。

 この角度からじゃ、僕のコンプレックスである顔がよく見えるので、少し反応が怖い。

 しかし彼女は、その雪のように白い肌を朱に染めて、コクンと小さく頷くだけだ。


「少し揺れるよ、捕まってて」


「へ? ひゃぁっ!」


 空中で目の前に迫っていた壁を強く蹴り、ゴロツキたちの背後へ着地する。

 突然のことに目を回していた少女をゆっくり降ろすと、背に担ぎなおしていた鞘を握り居合の構えをとる。

 ゴロツキたちも慌ててこちらへ向き直った。


「な、なんなんだコイツ……男か? いや、声からして女か? どちらにしろ気味の悪い奴だ」


 相手は獣人と人間が半々で、目つきが悪く体に刺青(いれずみ)を入れていたり、派手な服を着崩していたりと、いかにも「ワルです」といった雰囲気だ。

 でも大丈夫、今までずっと護衛をやってきたんだ。こういった相手には慣れている。

 

「正義の味方気取りかぁ? 引っ込んでろよ!」


「お前には興味ねぇ、邪魔するなら死ねや!」


 こちらへ向かって三人が一斉に駆け出す。

 それぞれの手には、ナイフが握られ、人を傷つけることにためらいはなさそうだ。

 むしろ、愉悦に歪んだ笑みを浮かべて楽しそうですらある。

 叩きつけられる純粋な悪意。


「ふぅ……」


 僕はあくまで冷静に、敵の動きを見極める。

 長い前髪のせいで視界は悪いが、それでもここまで距離が短ければ問題ない。


「はっ!」


 斬鉄剣を抜いて、振り下ろされたナイフを弾き、隙のできた腹部を鞘で殴打。

 

「かはっ……」


 攻撃を受けた獣人が顔を真っ青にして腹を押さえ、その場にうずくまると、後ろの二人は驚愕の表情を浮かべ、動きを止めた。

 隙だらけだ。


「バ、バカなっ!? なんて速さだ!」


「な、なんなんだよコイツはぁっ!?」


 悪いけど、答えるつもりはない。

 僕は斬鉄剣の刃と(みね)が逆になるように持ちかえると、鞘と共に素早く振るい、彼らの手首、膝、肩を乱れ打つ。


「ぐぅっ!」

「うわぁっ!」


 小気味良い乾いた打撃音が連続して響いた後、二人は顔を苦痛に歪め膝をついていた。

 大げさだなぁ、骨は砕けていないだろうに。

 僕はすかさず、唖然と棒立ちになっていたリーダー格の男へ、刃の切っ先を向けた。


「な、なんなんだお前……」


「もうやめてください」


「あぁ?」


「盗んだものを返して、立ち去ってください」


「……ちぃっ、覚えてろよ!」 


 そう吐き捨てると、ゴロツキたちはアクセサリーを投げ捨て、慌てて逃げて行く。


「はぁ……」


 最後にそういうことを言うのはやめてほしい。

 お約束の捨てゼリフかもしれないけど、小心者の僕には心臓に悪いよ。

 これからは夜道に気をつけないといけないじゃないか。


 なにはともあれ、一件落着だ。


「……カ、カッコいい……」


 後方で小さな呟きが聞こえ、少女のほうを振り向く。

 彼女は目を潤ませ、熱に浮かされたようにぼーっとこちらを見つめていた。

 見たところ外傷もなく無事そうだ。


 僕は、ゴロツキたちが落としていったアクセサリーをすべて拾うと、少女へ手渡す。

 プラチナのネックレス、ゴールドの指輪、ブラックとシルバーのブレスレットの高そうな三点だ。

 彼女はいまだ放心した様子だったが、僕がそれを差し出すと、おずおずと両手で受け取った。


「あ、ありがとう……」


「それじゃ……」


 小さな声で別れを告げ、彼女の横を通り過ぎる。

 あえて話はしない。

 だって、こんな気味の悪い身なりをして、刀を持っているような男に声をかけられても怖いだけだ。

 だからさっさと立ち去ろう。


 あーあ、早く新しい職を探さなきゃなぁ……

 誰かを助けたことで良い気分になっていたけど、しょせんは(つか)の間の現実逃避だった。


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