大丈夫、今までずっと護衛をやってきたんだ
「おらっ、大人しく――」
獣人の野太い腕が少女へ伸ばされた、その刹那――
「――っ!?」
突如として少女の姿が消える。
「な、なんだ!?」
「お、おいっ、なにが起こった!?」
混乱したゴロツキたちが慌てる中、僕は少女を抱いて宙高く浮いていた。
間一髪のところで、彼女を胸に抱いて高く跳び上がったのだ。
腕の中を見ると、少女がギュッと目を瞑っており、僕は柔らかい声で優しくささやく。
「君、ケガはない?」
「……へ?」
少女はキョトンとした顔で僕を見上げてくる。
この角度からじゃ、僕のコンプレックスである顔がよく見えるので、少し反応が怖い。
しかし彼女は、その雪のように白い肌を朱に染めて、コクンと小さく頷くだけだ。
「少し揺れるよ、捕まってて」
「へ? ひゃぁっ!」
空中で目の前に迫っていた壁を強く蹴り、ゴロツキたちの背後へ着地する。
突然のことに目を回していた少女をゆっくり降ろすと、背に担ぎなおしていた鞘を握り居合の構えをとる。
ゴロツキたちも慌ててこちらへ向き直った。
「な、なんなんだコイツ……男か? いや、声からして女か? どちらにしろ気味の悪い奴だ」
相手は獣人と人間が半々で、目つきが悪く体に刺青を入れていたり、派手な服を着崩していたりと、いかにも「ワルです」といった雰囲気だ。
でも大丈夫、今までずっと護衛をやってきたんだ。こういった相手には慣れている。
「正義の味方気取りかぁ? 引っ込んでろよ!」
「お前には興味ねぇ、邪魔するなら死ねや!」
こちらへ向かって三人が一斉に駆け出す。
それぞれの手には、ナイフが握られ、人を傷つけることにためらいはなさそうだ。
むしろ、愉悦に歪んだ笑みを浮かべて楽しそうですらある。
叩きつけられる純粋な悪意。
「ふぅ……」
僕はあくまで冷静に、敵の動きを見極める。
長い前髪のせいで視界は悪いが、それでもここまで距離が短ければ問題ない。
「はっ!」
斬鉄剣を抜いて、振り下ろされたナイフを弾き、隙のできた腹部を鞘で殴打。
「かはっ……」
攻撃を受けた獣人が顔を真っ青にして腹を押さえ、その場にうずくまると、後ろの二人は驚愕の表情を浮かべ、動きを止めた。
隙だらけだ。
「バ、バカなっ!? なんて速さだ!」
「な、なんなんだよコイツはぁっ!?」
悪いけど、答えるつもりはない。
僕は斬鉄剣の刃と峰が逆になるように持ちかえると、鞘と共に素早く振るい、彼らの手首、膝、肩を乱れ打つ。
「ぐぅっ!」
「うわぁっ!」
小気味良い乾いた打撃音が連続して響いた後、二人は顔を苦痛に歪め膝をついていた。
大げさだなぁ、骨は砕けていないだろうに。
僕はすかさず、唖然と棒立ちになっていたリーダー格の男へ、刃の切っ先を向けた。
「な、なんなんだお前……」
「もうやめてください」
「あぁ?」
「盗んだものを返して、立ち去ってください」
「……ちぃっ、覚えてろよ!」
そう吐き捨てると、ゴロツキたちはアクセサリーを投げ捨て、慌てて逃げて行く。
「はぁ……」
最後にそういうことを言うのはやめてほしい。
お約束の捨てゼリフかもしれないけど、小心者の僕には心臓に悪いよ。
これからは夜道に気をつけないといけないじゃないか。
なにはともあれ、一件落着だ。
「……カ、カッコいい……」
後方で小さな呟きが聞こえ、少女のほうを振り向く。
彼女は目を潤ませ、熱に浮かされたようにぼーっとこちらを見つめていた。
見たところ外傷もなく無事そうだ。
僕は、ゴロツキたちが落としていったアクセサリーをすべて拾うと、少女へ手渡す。
プラチナのネックレス、ゴールドの指輪、ブラックとシルバーのブレスレットの高そうな三点だ。
彼女はいまだ放心した様子だったが、僕がそれを差し出すと、おずおずと両手で受け取った。
「あ、ありがとう……」
「それじゃ……」
小さな声で別れを告げ、彼女の横を通り過ぎる。
あえて話はしない。
だって、こんな気味の悪い身なりをして、刀を持っているような男に声をかけられても怖いだけだ。
だからさっさと立ち去ろう。
あーあ、早く新しい職を探さなきゃなぁ……
誰かを助けたことで良い気分になっていたけど、しょせんは束の間の現実逃避だった。
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