少し危険な香りがするけれど、こんな美しい令嬢に求められていることを誇りに思おう
「リリーナはお姉様を独占しすぎですわ」
「あははっ、そうかもしれません」
「でも、少し妬けてしまします」
「え?」
ケシーは立ち去るリリーナの小さな背を見ながら、寂しそうに呟いた。
「昔は、人見知りの恥ずかしがり屋で、気の弱い可愛らしい女の子でしたから」
「……なんだか分かる気がします」
最近になって、ようやく肩肘張っていない無防備な一面も見られるようになった。
あれがリリーナの本当の姿なのかもしれない。
「でも、ご両親が亡くなって貴族の身分を剥奪され、仲の良かった兄弟姉妹と離れ離れになってからは変わってしまいました。そのときからですの。今のように背筋を伸ばして胸を張り、強くあろうと無理をするようになったのは」
やっぱり無理をしているのだろうか。
しかし兄弟姉妹とも離れ離れになってしまったという話は、初めて聞いた。
僕に自分の話をしないのは、弱さを見せないためなのか。
それともまだ信頼が足りないのだろうか。
もしそうなのだとしたら悔しい。
「もしかして、再び貴族の地位を欲している理由は……」
「おそらく、また兄弟姉妹と一緒にあのお屋敷で暮らすためなのでしょうね。みんなとても仲が良かったですから」
「そういうことでしたか」
「実は以前、リリーナにも言ったんです。アストライア家の養女にならないかと。でも、『それでは意味がない、クイント家として貴族に戻って、家族みんなであの屋敷で暮らすのだ』と断られましたわ。そのときはただの強がりではないかと心配していましたけど、必死に努力して自分の力で稼いで、なんとかあの屋敷を維持し、今の状況まで立て直しているのを見て、私は憧れたのです。その気高さと強さに」
やはりリリーナは凄い人だった。
どんなに打ちのめされても、必死にあがき目的を達成するまで、決して諦めない。
それは一種の才能だ。
そんな人と一緒にいられて、僕は心から誇りに思う。
「ですから、初めてルノお姉様を見たとき、嫉妬してしまいましたわ。だって、私では届かないと思っていた憧れの友人の隣に立っていたのですから。でも、あなたにはそれだけの強さと魅力があった。だからこそ、リリーナもあなたを護衛に選んだのでしょうね」
「恐れ多いことです。ですが、ただ純粋に嬉しいです」
「それでも、私はあなたが欲しい」
「え?」
「ただの貴族だというだけで、なんの強さも持っていない私ですが、ようやく必死になれることを見つけたんです。たとえ泡沫の夢であっても、憧れのリリーナが立ちふさがったとしても、諦めることはできません」
僕をまっすぐに見つめる彼女には、確かな覚悟があった。
リリーナが貴族を目指すように、ケシーの夢もまた、止めることはできない。
それが他人からどんなに理解されないことであっても、彼女にとってはすべてだ。
もちろん僕は正体を明かすわけにはいかないから、その願いに報いることはできないけれど、その純粋な気持ちに水を差したりはしたくない。
だから、僕は微笑を浮かべながら言った。
「いつだって受けて立ちますよ」
「必ずあなたの抱擁に辿り着いてみせますわ、ルノお姉様」
少し危険な香りがするけれど、こんな美しい令嬢に求められていることを誇りに思おう。





