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女装剣豪令嬢  作者: 高美濃 四間
第三章 貴族たちの世界
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そりゃあ、帰り際にあんなにピッタリくっついて歩けば、マウントもとれるでしょうよ……

「~~~♪」


「なんだかご機嫌ですね、リリーナさん」


 朝食後、紅茶の入ったティーカップを彼女の前へ置きながらたずねる。

 リリーナは朝からとても顔色が良く、声が弾んでいた。

 しかし僕の気持ちは複雑だ。


 そりゃそうだろう。

 大勢の貴族や商人たちが見守る中で、かなり目立ってしまったのだから。

 ケシーの両親に聞かれては、名を名乗らないわけにもいかなかったし。


「いやぁ、昨夜は興奮のあまり寝れなかったよ!」


「それは大変です。まだお休みになられてても良かったのでは?」


「なにを他人事みたいに言ってるんだ。昨日の君の活躍のおかげだよ」


 やっぱりそれかぁ。

 リリーナさんの睡眠時間を奪うなんて本当に申し訳ない。

 僕が困ったように苦笑していることなんて気にせず、彼女は紅茶を一口飲んだ後、嬉しそうに頬を緩ませた。


「うん、実に痛快だった。最後の剣を受け止めた技なんて、いまだ現実のこととは思えないよ。あんな凄い光景を見せられたら、女の私でも胸が躍る。ケシーなんて、心あらずといった感じで、君が立ち去るまで熱に浮かされたように見つめていたし。美しい令嬢たちやボンボンどもも、君の姿に釘付けだった」


「もぅやめてください……」


 思い出すだけで恥ずかしい。

 だって、女装した姿で目立つんだよ? 客観的に見てイタイ奴じゃないか。

 もしこれで、男だとバレた日には一生笑いものにされる、社会的に死ぬ。

 僕へ向けられていた羨望が軽蔑(けいべつ)に変わるんだ、想像しただけでも恐ろしい。

 まぁでも、リリーナさんが嬉しそうなので我慢するけど。


「私を見る貴族たちの目が明らかに変わったよ」


「そ、そうですか。お役に立てて良かったです」


 僕の頬が引きつる。

 そりゃあ、帰り際にあんなにピッタリくっついて歩けば、マウントもとれるでしょうよ……

 おまけに勝ち誇ったような笑みまで振りまいてたし。


 それにしても、今日のリリーナさんはやけに興奮してる。

 やっぱり寝不足だからかなぁ?


「あの場にアリエス・コリンがいなくて良かった。興奮した彼女なら、君を押し倒してもおかしくないからね」


「ええ、それは、本当に」


 屋敷での彼女のサディスティックな笑みを思い出し、背筋が凍る。

 もし襲われたら男だとバレて即破滅だ。

 そのときは秘技を駆使してでも逃げなきゃいけない。


 僕がガクガクブルブル震えていると、リリーナは急に真剣な表情になり改まって姿勢を正した。


「本当にありがとう、私の友人を助けてくれて」


「いいえ、当然のことをしたまでです」


 その言葉は純粋に嬉しかった。

 彼女の日常を守れたことがとても誇らしかった。 


 僕の顔が自然とほころび、リリーナをぽーっと見つめていると、彼女は咳払いして少し頬を赤くし、目を逸らす。

 

「昨日の君は、男として見ても、その……凛々しくて、かっ、カッコ良かった……」


「……へ?」


 なんていう不意打ちだろう。

 不覚にも胸が高鳴ってしまったじゃないか。

 僕は、そういう男としての魅力を褒められることに飢えているんだ。


「も、もう一回! 今のもう一回言ってください!」


 僕が横からリリーナの目を覗き込んで懇願すると、彼女は「ぅ~~~」とますます赤くなって俯いてしまう。


「ち、近いよぅ……」


「お?」


 耳まで真っ赤にしてゴニョゴニョ呟く姿は、いつものリリーナとは違い、とても可愛らしかった。

 いつもは堂々としているが、見た目は小柄で可憐な女の子なんだ。

 こうしていると妹のように思えてきて微笑ましい。


 だから僕はニヤニヤするのを抑えられず、思わず率直な気持ちを口にしてしまう。


「可愛いなぁ」


「へにゃっ!?」


 ガタンと大きな音を立て、リリーナは飛び退く。

 す、凄い運動神経だ。

 あまりの速さに僕も目を丸くしてしまう。

 いや、それよりも今、彼女の口から出てきた可愛らしい声はなんだ?

 そっちのほうが驚いた。


「み、見るなぁっ」


 リリーナは羞恥にわなわなと(くちびる)を震わせ、両手で顔を覆う。

 なんだろう、いつもの彼女とのギャップに、なんだかイケナイことをしているようでドキドキしてくる。


 うぅ~ん、なんか収拾がつかなくなってきたなぁ……これ以上なにかすると、後が怖いからどうしたものか。


 僕が困り果てていると、玄関のベルの音が響いてきた。 

 お客様だ、ナイスタイミング! 

 僕はわき目も振らず、居間から出て行く。


「私、お客様をお出迎えしてきますので、どうぞごゆっくり~」


「あっ、リ……ルノ!」


 僕はホールの階段を降りながら、ゆっくり呼吸を整える。

 冷静に、冷静に。

 ふぅっ、と一息ついて落ち着きを取り戻すと、ゆっくり玄関の扉を開けた。


「はいっ、お待たせしました!」


「ル、ルノさん! ご、ご機嫌よう!」


 そこに立っていたのは、ケシー・アストライアだった――


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