彼となら良い友達になれそうだ
「実は私も、早くに家族を失くし、ずっと一人で惰性のままに生きてきました」
「そうだったのか」
「でも、素晴らしい友人との出会いによって、満たされない虚ろな日々は終わりました」
「それはどうして?」
「彼女が色々なものを与えてくれたのです。見えていなかったものを見えるようにしてくれたのです。そのおかげで、世界が変わりました。ウィニングさん、もし一人でどれだけあがいても、『満足』が手に入らないのなら、それは誰かの力を借りなければ届かないところにあるのかもしれません」
「っ……」
「もしかすると、あなたには救いの手を差し伸べてくれる人との出会いが必要なのかもしれませんね」
そこまで言い切ると、僕は我に返った。
やってしまったぁっ……自分がすっきりするまで語ってしまうなんて、ただのイタイ奴じゃないか!
僕のバカっ、ウィニングさんだって目を丸くして固まってるよ。
絶対変な奴だと思われた……
「も、申し訳ありません! 一人で変なことを語ってしまって!」
「ははっ、可愛い顔して凄いなぁ君は」
「え?」
今度は僕が目を丸くする番だ。
今のウィニングの表情は、まるで憑き物が落ちたかのような晴れやかな笑顔だった。
「さっき僕が言ったことは撤回するよ」
「えっと、なんのことでしょう?」
「今日はおもしろい話が聞けなかったと言ったことだよ。たった今、いいことを聞いた」
「そ、そう言って頂けるのなら、良かったです」
「あぁ、それじゃあルノさん、次また会ったら話に付き合ってほしい」
「ええ、喜んで」
笑って応えると、ウィニングは満足そうに頷き、去って行くのだった。
あまり男に近づきたくはないけど、彼となら良い友達になれそうだ。
ウィニングと別れ、僕は屋敷のほうへ歩き出した。
そろそろほとぼりも冷めている頃だろう。
さっさとリリーナを見つけて帰りたいと頼み込むんだ。
ウィニングとの話は、その後にゆっくり聞かせればいい。
「――こらっ、ルノ!」
考え込んでいると、いつの間にかリリーナが前方から歩いて来ていた。
「リリーナさん?」
「なに一人で勝手に逃げてるんだ。職務怠慢じゃないのか?」
「も、申し訳ありません」
ピンチの僕を放置するあなたも悪いです、と言いたい。怖くて言えないけど。
リリーナも眉を寄せてムッとしてはいるが、本気で怒ってる感じじゃない。
「実は、あの場にアリエスさんがいらっしゃいまして」
「ああ、あの女狐か。私も見つけたから、ルノには手を出すなと釘を刺しておいたよ」
「あ、ありがごうございます」
いや女狐て……
「だが彼女も、あの美貌に並外れた才能だ。やはりそれなりの人気があるらしいな。男女問わず話す相手が途切れなかった」
「さすがですね」
「まぁ君の姿が見えなくなると、興味なさそうに受け流してどこかへ消えたけど」
「あはは……」
乾いた笑いしか出てこない。
「それよりも君ぃ、あの場は謎の美しき令嬢の話題で持ち切りだったぞ。その奥ゆかしさと色気にやられてしまった男も多いらしくてな。誰が一番に求婚するのか言い争いが起こってたぐらいだ」
「か、勘弁してくださいよぉ……」
ダメだ、もう泣きそう。
もし男なんかにプロポーズされたら、一生のトラウマになりそうだよ。
でもそう考えると、アリエスのほうがまだマシなのかもしれない……
変態でなければ。
「まったく、出会った人たちすべてを虜にしないと気が済まないのか、君は? この悪女め」
「そう思うのなら、もう少し化粧の手を抜いてくださいよ」
僕は口を尖らせる。
リリーナが楽しいからと、髪の手入れやら化粧やらを好きにさせているのが悪かったのかもしれない。
どうも力を入れ過ぎている気がする。
どう考えても、肌や髪の艶が男のものじゃない。
リリーナは頬をほんのりと朱に染め、イタズラっぽく片頬をつり上げた。
「却下だ。君を美しくするのが今の私の楽しみだからね」
「はぁ、そうですかぁ……」
「えらく疲れた顔をしているな。今日はそろそろ帰るか」
「ぜひ!」
僕が顔を上げてすかさず返事をすると、リリーナはきびすを返し屋敷のほうへと歩き出した。
最後にケシーへ一言別れを告げてから帰るらしい。
さすがにパーティーへ参加させてもらっている身なので、僕も文句を言わずついていく。





