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女装剣豪令嬢  作者: 高美濃 四間
第三章 貴族たちの世界
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あ、これはまずい……突然ピンチになった気がする!

「――よしっ! 来るなら来なさい!」


 僕は屋敷の前にある大きな噴水の前で立ち止まると、背後を振り返った。

 アリエスと真正面から対峙するつもりだ。

 体に触れさせさえしなければ、男だとバレることはない。


 しかし、屋敷のほうから歩いて来たのは、アリエスではなかった。


「君は、さっきの……」


「ウ、ウィニング・グレイシャル、様?」

 

 そこにいたのは、さっきまで可憐な令嬢たちにキャーキャー言われていた色男だ。

 輪郭はシャープで、鼻が高く目元はキリッとした精悍な顔つきだが、甘く柔らかい笑みをたたえているため親しみやすさもある。

 だが今は、目を丸くしてこちらを見つめていた。


「驚いた。もの凄いスピードで横を走り抜けて行くから、誰かと思ったよ」


「え、えっと……足の速さには自信があるんです。そういうウィニング様は、あの状況でよく抜け出せましたね?」


「君のおかげだよ」


「私の?」


「ああ。君がみんなの注目を集めてくれたから、その隙に逃げたんだ。まさか追い越されるとは思ってなかったけどね」


 ウィニングはそう言って苦笑する。

 どうやらこちらのことも見ていたらしい。


「お互い、大変でしたね」


「まあね。本当は来たくなかったんだけど、なにかおもしろい話が聞けるかもしれないから」


「私たちも似たようなものです」


 彼もリリーナと同じ考えのようだ。

 そうだ、彼女のためにも情報収集しておこう。


「なにか、おもしろい話は聞けましたか?」


「いや、全然だよ」


「そうですか……それは残念でしたね。では、もうお帰りになられるのですか?」


「そうだねぇ、そのつもりだったんだけど、君に興味が湧いた」


「へ?」


 あ、これはまずい……突然ピンチになった気がする!

 僕が警戒に身構えていると、ウィニングは微笑みながら聞いてきた。


「もう知っているようだけど、僕はウィニング・グレイシャル。君は?」


「え、えっと……ルノ・カーストです。平民です」


 さすがに自分だけ名乗らないのは気が引けるので、答えてしまった。

 とりあえず、貴族の嫌いそうな情報を追加しておいたので、興味を失ってくれると嬉しい。


「ルノさんか。実は僕も、元は平民なんだ」


 あっ、そういえばそうでしたね!

 逆に会話の入口を広げてしまったぁ~

 えぇい、こうなったら、自分以外の人の話に注意を向けるしかない!


「お聞きしております。実は、私の友人も貴族になることを目標にしておりまして」


「へぇ、そうなんだ。その目標、達成できるといいね」


「はい。それでお聞きしたいのですが、平民から貴族になると、どんな変化があるのでしょうか?」


 自分でも変なことを聞いていると思う。

 必死に話をそらそうとした結果、勝手に出て来た質問だ。

 それでも気にはなる。

 もし、リリーナが貴族となったとき、僕を……ルノ・カーストをどうするのか、僕たちの関係のなにかが変わるのか。


「変化か……それは人によると思うよ。ただ、僕はなにも変わらなかったかな」


「そう、ですか……」


「なんのために貴族を目指すのか、というその人の目的次第だよ。富や名声が欲しいのなら、平民だった頃の生活とはがらりと変わるだろうし、貴族の権力で誰かを救いたいと思うのなら、その人との明るい未来が待っているのかもしれない。でも僕には、目的なんてものはなかった」


「そうなのですか? では、なぜ貴族に?」


「満たされないんだ」


「え?」


「早くに家族を失くし、僕は一人になった。それからはただ虚ろな毎日を過ごし、生きるために淡々と金を稼いできた。財力があれば満たされるのかもしれない、そう思ったけど、どれだけ稼いでも満たされることはなかった。それなら権力があれば、満たされるのかもしれない、そう思って貴族を目指したけど、結局なにも変わらなかった。満たされないんだ」


「それは辛いですね……」


「……すまない、自分のことばかり語り過ぎた」


「いえ、いいんです」


 こっちはそれが目的だったし。

 

「なぜだろう? こんな話、他人にはめったにしないのに、君になら自然と気安く話すことができる」


 それは僕が男だからではないでしょうか? とは言えない。

 でも彼の話に共感したからこそ、僕も言いたいことがある。

 リン・カーネルの本心として。

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