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女装剣豪令嬢  作者: 高美濃 四間
第三章 貴族たちの世界
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あぁーこの地に足のついた感じ、いい……

「それで、彼女はいったいなんなんですの? 友達で護衛だなんて、関係がよく分かりませんわ」


「ん? あぁ、拾った」


「あぁぁぁっ、なんだか頭痛がぁ……」


 ケシーが苦しげに額を押さえる。

 うん、その気持ち、僕もよく分かるよ。


「どうしたケシー、大丈夫か? ルノ、彼女は具合が悪いようだから介抱してやってくれ」


「あなたのせいですわ!」


 ケシーは興奮してテーブルに両手をつき、バンッと小気味良い音が鳴った。

 まるでコントだ。


「こらこら、マナーがなってないぞ。それでも誇り高き貴族様か?」


「あなたこそ、元貴族のくせに、拾い食いのような品のないことをして……」


 ん? 拾い食い?

 もしかして僕のことかな?

 もしそうなら、僕泣いちゃうよ?


「どうしたんだケシー、今日はえらく不機嫌じゃないか」


「別に。ルノさんに少し思うところがあるだけですわ」


 ケシーはそう言って、つーんとそっぽを向く。

 やっぱり僕、なにかしちゃったのかな?

 でも下手に口を挟むわけにはいかないし、う~ん……


 でも、敵意を向けられて、なんだか安心感を覚えるのも確かだ。

 最近は過剰なほど、好意的な視線ばかりにさらされていたから。

 あぁーこの地に足のついた感じ、いい……

 

「なんなんですの、この人? 気持ち悪い笑みを浮かべて、幸せそうにしているんですけれど」


「気にするな。ペットみたいで可愛いだろう」


 その後すぐに、メイドが切り分けたケーキを持ってきてくれた。

 リリーナが買ってきたカフェ・ハウルの逸品だ。

 ここはリリーナの友達ということで、僕も一緒に食べることをケシーが許してくれた。

 なんだかんだ言って優しい。


「やっぱり、リリーナのお店のケーキは格別ですわね」


「僕までご馳走になってしまって、すみません」


 僕が恐縮してヘコヘコしていると、ケシーはこちらへジト目を向けてきた。

 なにかを疑っている様子だ。


「『僕』? 今あなた、自分のことを僕と言いました?」


「へ? ……あっ、いえ、そのぉ……」


 しまったぁぁぁぁぁっ!

 ケーキの美味しさに油断して、思わず口走ってしまった!

 ど、どどどどうしようっ……このままじゃ男だとバレて、子爵令嬢の怒りを買ってしまう!


 しかし隣のリリーナは、優雅に紅茶を飲みながら冷静に言った。

 ケーキは既に皿にない。


「気にするな、ケシー。この子はたまにボクっ()になるんだ」


「なんです、それ?」


「いや、大した意味はない」


 意味は分からないけど、とても屈辱感を感じるのは気のせいだろうか……


「そうですか。まったく、品がありませんわね」


「も、申し訳ございましぇん……」


 かんでしまって、「バカにしているんですの?」というような鋭い視線を向けられてしまった。

 視線が痛くて、スイーツの味なんて気にする余裕はなかった。


 令嬢二人は、紅茶を飲みながらのんびり話した

 僕はほとんど相槌を打っていただけだが、リリーナとケシーは、まるで本当の姉妹のように気兼ねなく楽しそうに話していた。

 幼なじみというのは伊達じゃないらしい。

 見てるこっちも、なんだかほっこりする。


 それからしばらしくて、リリーナはそろそろいい時間だと告げた。


「楽しい時間というものは、すぐに過ぎ去ってしまいますのね」


「そうだね、また来るよ」


「あ、その前に一つだけ」


「ん?」


「本日の夜、この屋敷でパーティーを開きますの。いつも通り、当家の出資する血酒専門店ヴィーナスの会員と、その紹介であれば、身分関係なく参加できますわ」


「そうか……ぜひ参加させてもらいたい」


 リリーナは逡巡した後、参加を告げ、それを聞いたケシーが目を丸くした。


「あら、珍しいですわね。なにか心境の変化でも?」


「まあね。私のような没落貴族なんて、行ってもみじめな思いをするだけだから、こういうの避けてきた。でも、いつか再び貴族になろうとしているのだから、いつまでも避けてはいられないさ」


「別に無理をしなくても……」


 ケシーは心配するように瞳を揺らす。

 ただ純粋にリリーナのことを気にかけているようだ。

 しかしリリーナは、頬を緩ませ首を横へ振る。


「今の私には、ルノがいる」

 

「そう、ですわね……少し嫉妬してしまいますわ」


「ふふっ、君が珍しく不機嫌な理由が分かったよ」


 リリーナはおかしそうに笑うと立ち上がり、アストライア家の屋敷を去る。

 僕もケシーへ感謝を込めて頭を下げ、リリーナへ続いた。

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