あぁーこの地に足のついた感じ、いい……
「それで、彼女はいったいなんなんですの? 友達で護衛だなんて、関係がよく分かりませんわ」
「ん? あぁ、拾った」
「あぁぁぁっ、なんだか頭痛がぁ……」
ケシーが苦しげに額を押さえる。
うん、その気持ち、僕もよく分かるよ。
「どうしたケシー、大丈夫か? ルノ、彼女は具合が悪いようだから介抱してやってくれ」
「あなたのせいですわ!」
ケシーは興奮してテーブルに両手をつき、バンッと小気味良い音が鳴った。
まるでコントだ。
「こらこら、マナーがなってないぞ。それでも誇り高き貴族様か?」
「あなたこそ、元貴族のくせに、拾い食いのような品のないことをして……」
ん? 拾い食い?
もしかして僕のことかな?
もしそうなら、僕泣いちゃうよ?
「どうしたんだケシー、今日はえらく不機嫌じゃないか」
「別に。ルノさんに少し思うところがあるだけですわ」
ケシーはそう言って、つーんとそっぽを向く。
やっぱり僕、なにかしちゃったのかな?
でも下手に口を挟むわけにはいかないし、う~ん……
でも、敵意を向けられて、なんだか安心感を覚えるのも確かだ。
最近は過剰なほど、好意的な視線ばかりにさらされていたから。
あぁーこの地に足のついた感じ、いい……
「なんなんですの、この人? 気持ち悪い笑みを浮かべて、幸せそうにしているんですけれど」
「気にするな。ペットみたいで可愛いだろう」
その後すぐに、メイドが切り分けたケーキを持ってきてくれた。
リリーナが買ってきたカフェ・ハウルの逸品だ。
ここはリリーナの友達ということで、僕も一緒に食べることをケシーが許してくれた。
なんだかんだ言って優しい。
「やっぱり、リリーナのお店のケーキは格別ですわね」
「僕までご馳走になってしまって、すみません」
僕が恐縮してヘコヘコしていると、ケシーはこちらへジト目を向けてきた。
なにかを疑っている様子だ。
「『僕』? 今あなた、自分のことを僕と言いました?」
「へ? ……あっ、いえ、そのぉ……」
しまったぁぁぁぁぁっ!
ケーキの美味しさに油断して、思わず口走ってしまった!
ど、どどどどうしようっ……このままじゃ男だとバレて、子爵令嬢の怒りを買ってしまう!
しかし隣のリリーナは、優雅に紅茶を飲みながら冷静に言った。
ケーキは既に皿にない。
「気にするな、ケシー。この子はたまにボクっ娘になるんだ」
「なんです、それ?」
「いや、大した意味はない」
意味は分からないけど、とても屈辱感を感じるのは気のせいだろうか……
「そうですか。まったく、品がありませんわね」
「も、申し訳ございましぇん……」
かんでしまって、「バカにしているんですの?」というような鋭い視線を向けられてしまった。
視線が痛くて、スイーツの味なんて気にする余裕はなかった。
令嬢二人は、紅茶を飲みながらのんびり話した
僕はほとんど相槌を打っていただけだが、リリーナとケシーは、まるで本当の姉妹のように気兼ねなく楽しそうに話していた。
幼なじみというのは伊達じゃないらしい。
見てるこっちも、なんだかほっこりする。
それからしばらしくて、リリーナはそろそろいい時間だと告げた。
「楽しい時間というものは、すぐに過ぎ去ってしまいますのね」
「そうだね、また来るよ」
「あ、その前に一つだけ」
「ん?」
「本日の夜、この屋敷でパーティーを開きますの。いつも通り、当家の出資する血酒専門店ヴィーナスの会員と、その紹介であれば、身分関係なく参加できますわ」
「そうか……ぜひ参加させてもらいたい」
リリーナは逡巡した後、参加を告げ、それを聞いたケシーが目を丸くした。
「あら、珍しいですわね。なにか心境の変化でも?」
「まあね。私のような没落貴族なんて、行ってもみじめな思いをするだけだから、こういうの避けてきた。でも、いつか再び貴族になろうとしているのだから、いつまでも避けてはいられないさ」
「別に無理をしなくても……」
ケシーは心配するように瞳を揺らす。
ただ純粋にリリーナのことを気にかけているようだ。
しかしリリーナは、頬を緩ませ首を横へ振る。
「今の私には、ルノがいる」
「そう、ですわね……少し嫉妬してしまいますわ」
「ふふっ、君が珍しく不機嫌な理由が分かったよ」
リリーナはおかしそうに笑うと立ち上がり、アストライア家の屋敷を去る。
僕もケシーへ感謝を込めて頭を下げ、リリーナへ続いた。





