あっ、なんか彼女に親近感が沸いてきたかも!
「――す、凄い……」
僕はしっかり手入れされた緑広がる庭園で、目の前に建つ豪邸に圧倒されていた。
グレーの屋根に壁は純白に塗装され、昼間だというのに輝かんばかりの存在感を放っている。
栄華を象徴するような堂々として侵しがたい雰囲気で、城のようでもある。
リリーナの屋敷よりさらに大きく、二階の窓からは使用人らしきメイド服の女性たちが掃除をしているのが見えた。
「リリーナさん、ここはいったい……」
「貴族、アストライア家の屋敷だ」
「ア、アストライア家って、あの子爵家の?」
「そうだ。先祖代々、伯爵から多数の土地の管理を任されてきた有力者だよ。血酒の商売にも明るくてね、オークションを主宰したり、専門店に出資したりと、商売でも相当な儲けを出しているらしい」
血酒とは、麒麟という希少な獣の血を熟成させ、それをブドウ酒に混ぜて造る特殊な酒だ。
滋養強壮や長寿の効能があると言われているが、希少品なため非常に価値が高く、貴族を始めとした権力者の接待に使われることが多いという。
まごうことなき生粋の貴族。
うぅ~緊張するぅ。
リリーナさんは、友達のところへ遊びに行くだけだと軽い調子で言ってたけど、なんか怪しいと思ってたんだ。
だって、わざわざカフェ・ハウルで一番高いスイーツを丁寧に包装してもらってたし。
「どうしたルノ、緊張してるのか?」
「そりゃそうですよ、子爵家なんてやんごとない身分の方々じゃないですか。無礼を働いて監獄にぶち込まれたらどうしましょうっ!?」
「貴族に対してどんなイメージを持っているんだ。子爵令嬢とは私が貴族だった頃からの付き合いだから心配はいらない。さ、行くぞ」
リリーナはそう言って屋敷の入口まで悠々と歩いて行く。
小心者の僕は胃がキリキリするのをこらえながら後へ続いた。
玄関の前で応対してくれたのは、美人なメイドさんだった。
彼女は相手がリリーナだと分かると、ニッコリと上品に微笑み、二階の応接室まで案内してくれる。
長いテーブルの席にリリーナがちょこんと座り、僕がその後ろに立って待っていると、すぐに子爵令嬢が現れた。
「ご機嫌よう、リリーナ。よくお越しくださいましたわ。それと、そちらの方は?」
「お初にお目にかかります。リリーナさんの友人で護衛をしております、ルノ・カーストと申します」
「ケシー・アストライアですわ」
これが正真正銘の貴族令嬢か。
輝かんばかりの美しい銀髪をツインの縦ロールにし、黒のティアラを着けている彼女は、まずオーラからして別格だ。
顔は小さく鼻筋が通っており、鋭利な印象を与えるつり目は、貴族としての威厳と風格を象徴している。
加えて、どこか挑戦的な眼差しに勝気な堂々とした立ち姿は、一目見て高貴な血筋の令嬢だと分かるだろう。
華やかなドレスも、赤と白を基調として花柄模様がよく似合っており、フリルやオーバースカートの膨らみが、余裕のある上品さを強調する。
背が高めで胸も大きく、均整のとれた抜群のプロポーションを誇る彼女だからこそ似合っていた。
「ルノさんは、ずいぶんと美しい方ですのね」
「い、いえ、そんなことは……」
僕はごにょごにょしてしまう。
ケシーほどの美女に言われては委縮する他ない。
ぜひとも仲良くしたいと思っていたのだが、彼女は少しムッとしたように眉を寄せた。
こちらへ向けられている視線は、どう考えても好意的ではない。
これはそう……敵意だ。
いったいどうしたんだろう?
もしかして僕、無意識のうちに彼女の機嫌を損ねるようなこと、やっちゃった?
無礼があったのかもしれないと恐怖を感じ、慌てて頭を下げる。
「も、申し訳ございません。なにか私に不手際がございましたか?」
「いいや、ルノは謝らなくていい」
そこでリリーナが口を挟んできて、火に油を注ぐようなことを言う。
ケシーもキッとリリーナをにらみつけた。
「で、ですが!」
「ケシーはただ、君が自分より美しいから嫉妬しているだけさ」
「へ?」
「ちょっとリリーナ! 変なことおっしゃらないでくださる!?」
そこまで張り詰めたような雰囲気を纏っていたケシーが、真っ赤になって身を乗り出した。
あれ? 思ったより怖くないかも……
リリーナはいつものように毅然とした態度で、薄い笑みを浮かべている。
というか、身分が上の人相手に大丈夫か、これ。
「顔が赤いな、図星か?」
「むぅ~」
「なんか文句あるのか? もしや、ルノが美しくないとでも言うつもりか?」
「い、いえ……彼女はその、とてもお美しい方ですわ」
ケシーは屈辱に耐えるように肩をプルプルと震わせながらボソボソと呟いた。
どうやら嘘をつけないまっすぐな性格みたいで、好感が持てる。
それにしても、子爵令嬢が相手だっていうのに、いつものリリーナだ。
いつもの僕のように、ケシーもいいように弄ばれている。
あっ、なんか彼女に親近感が沸いてきたかも!
「ふんっ!」
しかし彼女へニッコリ微笑んでも、そっぽを向かれてしまった。
やっぱりやりすぎだよ、リリーナさん。





