へ、変態だぁぁぁぁぁっ!
あぁ~ダメだ~目がグルグル回る~
もう急展開についていけないよ。
あ、でも、間近で見ても凄い美人さんだ。
そのとき、完全に思考回路がショートしてしまった僕の手を引き、リリーナがかばうように前へ出た。
「ダメだ、許さん」
リ、リリーナさん……
「彼女は身も心も私のものだ」
一瞬だけカッコいいと思ったけど、錯覚だったみたいだ。
目の前の令嬢も目を丸くしている。
「え、そうなの? もうこの人と結婚してたの?」
彼女は、憐れむような涙目を僕へ向けて聞いてくる。
だからはっきりと言った。
「断じて違います。でも、結婚だとか、レズビアニズムとかはごめんなさい」
でも友達なら……とは言えなかった。
この手の積極性は、正体がバレてはいけない僕からすれば、恐怖でしかない。
「そう……残念。それなら、あなたの脱ぎたてパンツで今日のところは我慢するわ」
へ、変態だぁぁぁぁぁっ!
しかも、今日のところはってことは、次もあるってこと!?
だ、誰か助けてぇぇぇ。
「ルノ、この変態は本当に君の知り合いじゃないのか?」
「あら、初対面で変態呼ばわりとは失礼ね」
「あなたには聞いてない。で、ルノ、どうなんだ?」
「本当に初対面です」
「それなら変態で正しいな。初対面の同性相手に『結婚してください』はありえないだろう。無論、脱ぎたてのパンツもだ」
「それなら変態でも構わないわ」
「セクハラで訴えるぞ」
リリーナさん、僕のために面と向かって堂々と言ってくれるのは、カッコいいしありがたいのですが……自分のことを棚に上げて、よく言えましたね!?
それにしても、相手も負けず劣らず堂々としている。
変態でなければ惚れてしまいそうだよ。
「まったく、初対面の女性に告白だなんて……まさか君、女装した男じゃないだろうな?」
「ブフォォッ! ケホッ、ケホッ!」
ちょっとリリーナさん、なに言っちゃってくれてるの!?
一瞬、自分に向かって言われたのかと思って、心臓が止まりかけたよ!
額にだらだらと冷や汗が浮かぶ。
そんな僕の顔を、令嬢がじーっと凝視していた。
青く澄んだ水晶の瞳がすべてを見透かしているようで、生きた心地がしない。
もしかしてバレた?
しかし彼女は、小さなため息を吐いて淡々と告げた。
「私が女装した男? そんなわけないじゃない。でも、女装した男の人だっていてもいいと思うわ」
「……なんか悔しいが、それには同感だ」
お? あのリリーナさんが押し負けてる?
わずかでも、悔しそうに頬を歪ませてるなんて貴重な光景だ。
とは言っても、なんだかんだでこの二人、実は気が合うんじゃないだろうか。
変態だし、セクハラするし、女装に寛容だし。
「そういうあなたは、彼女のなんなの? 私と彼女がいい雰囲気になっていたのに、無粋にも邪魔をしてくるなんて」
いやどこが!?
どこら辺がいい雰囲気だと思ったの!?
全然空気が読めてないじゃない!
独特な雰囲気を持つ人だとは思っていたけど、いよいよ理解不能だ。
すると、リリーナは勝ち誇ったように胸を張って堂々と告げる。
「彼女、ルノ・カーストのご主人様だ!」
「そう、そちらのお嬢さんはルノちゃんと言うのね。では、交渉といきましょう。おいくらでそのご主人様の座を譲って頂けるのかしら?」
とうとう金銭的な交渉に発展したぞ。
僕はあわあわと視線を右往左往しながら見守るしかできない。
「まさか君、イケナイご主人様になるつもりか?」
「……ニヤリ。理解が早くて助かる」
「ふんっ、ルノは売り物じゃないのでな。おととい出直して来なさい」
「前言撤回。このわからずや。変態ご主人様」
あっ、それには全面的に同意します。
「なにぃ!?」
二人はバチバチと火花を散らす。
いつの間にか通行人たちの注目を集めており、絵画売りの少女も、僕もオロオロするしかできない。
「「ふんっ!!」」
「今日のところは退いてあげるわ。私はアリエス・コリン。ルノちゃんのご主人様、あなたのお名前は?」
「リリーナ・クイント」
「ではリリーナさん、次会ったときは、ルノちゃんの脱ぎたてパンツを用意しておくことね」
まるで「首を洗って待っていることね」とでも言うかのような挑発的な言い方だが、変態でしかない。
「うちのルノには、二度と近寄らないでもらおうか」
「お断りするわ。それじゃあルノちゃん、ご機嫌よう」
アリエスは丁寧におじぎをして、優雅に去って行く。
う~ん、口さえ開かなければ、相当な美少女なんだけどなぁ……
「はぁぁぁ……」
僕はなにもしていないにも関わらず、どっと疲れた。
来た道を引き返し、屋敷へと歩きながら、リリーナが頭を押さえてやれやれとため息を吐く。
「まったく、とんでもない変態に出会ってしまったな」
「いや、あなたがそれを言いますか」
「なにか言ったか?」
「さぁ? ご自身の胸に手を当てて聞いてください」
僕はつーんと口を尖らせてそっぽを向く。
すると頬を彼女の細い指が突っついてきた。
なんだかんだ言って、僕を守ってくれたのはちょっぴり嬉しかったので、しばらく好きなだけ突つかせる。
ようやく満足して手を下ろすと、リリーナは難しい顔で呟いた。
「それにしても、まさか彼女がアリエス・コリンだったとは」
「あの方のこと、ご存知なのですか?」
「芸術界では少し有名だからな」
芸術界?
ゴスロリのデザイン繋がりだろうか?
「もしかして、貴族のご令嬢だったり?」
「確かに上品な装いだったけど、彼女は商人の娘だよ。と言っても、ルビー商会という規模の大きい宝石商の会長令嬢だから、それなりに裕福だろうけど」
「そうなんですね。ずいぶん熱心に絵を見てらっしゃいましたけど……」
こう言っては失礼だが、裕福なお嬢様がああいう貧しい娘の描いた絵に興味を持っていたのは意外だ。
貴族御用達の大きなアートギャラリーのほうが似合う。
「彼女が芸術界で有名だと言った理由はそれだ」
「と申しますと?」
「天才的な目利きを持つ、アートコレクターなんだよ」
「あぁそれで、熱心に絵を見られてたんですね」
「彼女は集めるだけじゃない。その絵と画家の素質を見出すことに長けているんだ。なんでも、将来的に価値が高騰する絵を見極め、オークションなどで売買し、莫大な利益を稼いできたのだとか」
「す、凄い……」
驚いた。
天才には変人奇人も多いと聞くけど、まさか彼女がその典型だったなんて。
確かに、絵を見ていた彼女の雰囲気は不思議で近寄りがたいものがあった。
「金銭的な交渉を持ちかけてきたのも、財力があるからだろうね。それでも君を手放しはしないけど」
「はい、頼もしいです」
アリエスに正体がバレるのはまずいが、美術における天才的な目利きというのは興味深い。
そんな女の子に見初められたというのなら、僕だって悪い気はしないのだから。
まあ、変態に違いはないけど。
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