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女装剣豪令嬢  作者: 高美濃 四間
第二章 覚醒
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両手を握られ、熱い視線をぶつけられながらプロポーズされてしまった

「――まだ慣れないのか?」


 隣を歩くリリーナが呆れたというように苦笑する。

 僕らはその日も大通りを歩いていた。

 相変わらず周囲の視線を感じ、むずがゆい。


 それでも慣れてきたことはある。

 クイント家の屋敷では、食事や掃除といった家事全般を僕がしている。

 住み込みで雇ってもらっているせめてもの恩返しだ。

 僕もずっと一人暮らしだったから、簡単な料理はできるけど、元貴族の口に合うかは自信がなかった。

 でも、食材は質が良いものがそろっていたので、なんとかごまかせたようだ。

 

 僕の元々住んでいた借家は、リン・カーネルの代理ということで、ルノ・カーストの姿で解約しておいた。

 かつての自分からは考えられないほどの進歩だ。

 それでも、女の子の姿は慣れない。


「うぅ~視線が痛いです、怖いです。みんな、心の中では僕の姿に違和感を覚えてるんじゃないでしょうか? あぁぁぁ、破滅するぅぅぅっ」


「いやなにを言っているんだ。君はどこからどうみても美少女だ。確かに完全無欠すぎて怪しいといえば怪しいが。ともかく、堂々と胸を張って……いや、そのままのオドオドしている姿も愛らしいな」


「ナニヲイッテイルンデスカ」


「秘密を内包した君だからこその羞恥心、頬を赤らめてオドオドする頼りなさは、庇護欲を激しくかき立てられる。その美しさとのギャップは、色気すら感じることもある」


「はい?」


 この人はなにを言っているんだろう?

 まったくもって理解できない。

 リリーナは一人でぶつぶつ呟いて最後、満面の笑みで言った。


「君はそのままでいい、もっと恥ずかしがるんだ!」


「新手のセクハラでしょうか?」


 まさか、女の子相手にこんな言葉を使うことになるとは。

 屈辱です。

 当の本人は楽しそうに笑って受け流してるし。


「ふふふっ、なんとでも言いなさい。今の私はとても気分がいいから」


 うぅ~やっぱり変態だ、この人。

 変態にはなにを言っても通じないんだ。


 しばらく歩くと、人通りが少なく暗い雰囲気の漂う地区で、地面に絵を並べているみすぼらしい格好の少女がいた。

 服はボロボロで肌もカサカサだが、磨けば光りそうな整った顔立ちで、なによりその強い意志を秘めた眼光がリリーナに似ていた。


「へぇ」


 絵を見たリリーナが目を丸くしている。

 僕はアートなどの美術には詳しくないが、それでも綺麗な絵だと一目見て分かった。

 彼女が描いたのだろうか?

 もしそうだとすると、かなりの才能を宿しているんじゃないだろうか……


「ん?」

 

 絵に見入ってしまって気付くのが遅れたが、もう一人、長い栗色の髪を後ろへ流して清楚なワンピースを着た令嬢が、目の前の絵へ熱心に視線を注いでいた。

 まだあどけない顔立ちだが、表情は無くなにを考えているのかは読めない。

 美しい令嬢なため絵になる光景だが、不思議な雰囲気を持つ女の子で、近寄りがたかった。


 僕は絵などそっちのけで彼女から目が離せず、あちらも顔を上げ目が合ってしまう。

 恥ずかしくなって目をそらすが、彼女はなぜか涙を浮かべていた。


「??」


 僕はわけが分からず動揺してしまう。

 彼女はまるで、安堵しているかのような表情で、とても初対面の相手に向ける顔ではない。

 するとリリーナも異変に気付いたのか、声をかけてきた。


「彼女は君の知り合いか? 感動の再会に涙しているように見えるけど」


「い、いえ、初対面です。そもそも私にリリーナさん以外の知り合いはいませんよ」


 言ってて虚しくなるけど、ルノ・カーストは数日前に生まれたばかりだ。

 そんな短期間にこんな美少女と仲良くなれるわけがない。

 まったくこの人は、すぐに僕の正体を忘れるんだから。


 でも、まずは事情を聞かないといけない。

 僕が今一度視線を見知らぬ令嬢へ戻すと、


「あれ?」


 彼女の姿が消えていた。

 いったいなにが起こったんだ?

 僕がさらに混乱していると、突然視界の外、真下から令嬢の頭がにょきっと現れた。


「んなっ!?」


 驚愕に後ずさる。

 なんだ今のは!?

 まさか、彼女も縮地を?

 

 しかも至近距離で見つめ合うことになってしまい、もうパニックだった。

 そんな僕にトドメを刺すように彼女は言った。


「私と結婚してください!」


「……は?」


「あなたを一生、幸せにします!」


 両手を握られ、熱い視線をぶつけられながらプロポーズされてしまった。



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