両手を握られ、熱い視線をぶつけられながらプロポーズされてしまった
「――まだ慣れないのか?」
隣を歩くリリーナが呆れたというように苦笑する。
僕らはその日も大通りを歩いていた。
相変わらず周囲の視線を感じ、むずがゆい。
それでも慣れてきたことはある。
クイント家の屋敷では、食事や掃除といった家事全般を僕がしている。
住み込みで雇ってもらっているせめてもの恩返しだ。
僕もずっと一人暮らしだったから、簡単な料理はできるけど、元貴族の口に合うかは自信がなかった。
でも、食材は質が良いものがそろっていたので、なんとかごまかせたようだ。
僕の元々住んでいた借家は、リン・カーネルの代理ということで、ルノ・カーストの姿で解約しておいた。
かつての自分からは考えられないほどの進歩だ。
それでも、女の子の姿は慣れない。
「うぅ~視線が痛いです、怖いです。みんな、心の中では僕の姿に違和感を覚えてるんじゃないでしょうか? あぁぁぁ、破滅するぅぅぅっ」
「いやなにを言っているんだ。君はどこからどうみても美少女だ。確かに完全無欠すぎて怪しいといえば怪しいが。ともかく、堂々と胸を張って……いや、そのままのオドオドしている姿も愛らしいな」
「ナニヲイッテイルンデスカ」
「秘密を内包した君だからこその羞恥心、頬を赤らめてオドオドする頼りなさは、庇護欲を激しくかき立てられる。その美しさとのギャップは、色気すら感じることもある」
「はい?」
この人はなにを言っているんだろう?
まったくもって理解できない。
リリーナは一人でぶつぶつ呟いて最後、満面の笑みで言った。
「君はそのままでいい、もっと恥ずかしがるんだ!」
「新手のセクハラでしょうか?」
まさか、女の子相手にこんな言葉を使うことになるとは。
屈辱です。
当の本人は楽しそうに笑って受け流してるし。
「ふふふっ、なんとでも言いなさい。今の私はとても気分がいいから」
うぅ~やっぱり変態だ、この人。
変態にはなにを言っても通じないんだ。
しばらく歩くと、人通りが少なく暗い雰囲気の漂う地区で、地面に絵を並べているみすぼらしい格好の少女がいた。
服はボロボロで肌もカサカサだが、磨けば光りそうな整った顔立ちで、なによりその強い意志を秘めた眼光がリリーナに似ていた。
「へぇ」
絵を見たリリーナが目を丸くしている。
僕はアートなどの美術には詳しくないが、それでも綺麗な絵だと一目見て分かった。
彼女が描いたのだろうか?
もしそうだとすると、かなりの才能を宿しているんじゃないだろうか……
「ん?」
絵に見入ってしまって気付くのが遅れたが、もう一人、長い栗色の髪を後ろへ流して清楚なワンピースを着た令嬢が、目の前の絵へ熱心に視線を注いでいた。
まだあどけない顔立ちだが、表情は無くなにを考えているのかは読めない。
美しい令嬢なため絵になる光景だが、不思議な雰囲気を持つ女の子で、近寄りがたかった。
僕は絵などそっちのけで彼女から目が離せず、あちらも顔を上げ目が合ってしまう。
恥ずかしくなって目をそらすが、彼女はなぜか涙を浮かべていた。
「??」
僕はわけが分からず動揺してしまう。
彼女はまるで、安堵しているかのような表情で、とても初対面の相手に向ける顔ではない。
するとリリーナも異変に気付いたのか、声をかけてきた。
「彼女は君の知り合いか? 感動の再会に涙しているように見えるけど」
「い、いえ、初対面です。そもそも私にリリーナさん以外の知り合いはいませんよ」
言ってて虚しくなるけど、ルノ・カーストは数日前に生まれたばかりだ。
そんな短期間にこんな美少女と仲良くなれるわけがない。
まったくこの人は、すぐに僕の正体を忘れるんだから。
でも、まずは事情を聞かないといけない。
僕が今一度視線を見知らぬ令嬢へ戻すと、
「あれ?」
彼女の姿が消えていた。
いったいなにが起こったんだ?
僕がさらに混乱していると、突然視界の外、真下から令嬢の頭がにょきっと現れた。
「んなっ!?」
驚愕に後ずさる。
なんだ今のは!?
まさか、彼女も縮地を?
しかも至近距離で見つめ合うことになってしまい、もうパニックだった。
そんな僕にトドメを刺すように彼女は言った。
「私と結婚してください!」
「……は?」
「あなたを一生、幸せにします!」
両手を握られ、熱い視線をぶつけられながらプロポーズされてしまった。





